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ロマリア帝国事件編
ミリアム、ドナウゼンへ
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ミリアムはザラメスを出発する日、お世話になった居酒屋に別れの挨拶に向かっていた。
その途中で知り合いの酒商人に声を掛けられた。
「よう、ミリアム。ドナウゼンへ行くって聞いたよ。寂しくなるな」
「トーマスさん、色々お世話になりました。私も寂しいですけど、もう決めた事ですから」
「そうか、元気でな」
そう別れの言葉を交わして、居酒屋に向かおうとしたところでトーマスが再び声を掛けた。
「あ、そうそう。今週はフェルデン在中軍によるクーロンアイの検問があるからクーロンアイから帝国各都市への移動には気をつけな」
「検問にあっても別に何も悪い事してないし、呼び止められる理由もないわ」
「俺が心配しているのはミリアムがネープ民族というだけで何かされないかという事なんだよ」
トーマスの言葉にミリアムがピクリと反応した。
「ルーファス法は首都ハーフェンから離れている場所では人道的な理由から効力も薄いとは聞いているが、金や手柄目当ての役人にはお前さんは格好の獲物だろう。万一に備えて裏金の用意はしておいた方がいい」
トーマスの助言にミリアムはうなづいた。
「ありがとう、トーマスさん。それを聞かずに行ったら面倒に巻き込まれるかも知れなかった。恩に着るよ」
ミリアムはトーマスに手を振ってその場から立ち去り、居酒屋にも挨拶を済ませると急ぎクーロンアイに向かった。
「ここでルーファス法に引っかかって拿捕でもされた日には敵討ちが遠のいてしまう。せっかく掴んだファビアンの尻尾、離してなるものか。トーマスさんに言われたように最悪の場合は裏金もやむを得まい」
ミリアムは無事見廻りのチェックを抜けてドナウゼンへ行ける事だけを考えていた。
ザラメスからドナウゼンへ移動するには、クーロンアイ第一龍路を通っていったんフェルデンに向かい、フェルデンからは第五龍路を通ってドナウゼンへ向かわなくてはならない。
ザラメスからフェルデンは馬なら一日の距離も徒歩だと途中宿に宿泊して二日であった。
出発から二日目のお昼過ぎにようやくフェルデンに到着したミリアムは内心不安になりながらも怪しまれないように表面は平然を装って通行手形を出して検問を無事に通過した。
(ここの役人は民族の違いには何らお咎めはしない感じだな。どうやら取り越し苦労だったようね)
ミリアムはまさかこのクーロンアイの責任者がソレーヌだとは夢にも思わず、寛容な対応にほっとしながらドナウゼンへと向かった。
ギアラエに潜入するのは県令であるファビアンの命を狙う機会を伺うためであったが、ミリアムがネープ民族である事が別の事件に巻き込まれる原因となってしまったのである。
ドナウゼンに着くなりギアラエ鉱山の働き手募集の勧誘を受けたミリアムはすぐさま手続きを行った。
ミリアムの採用は呆気ないほど簡単に決まった。
ファビアンの娘と言われている女は久しぶりの上等な獲物に満足げであった。
「青い眼のネープ民族。身よりもなく、いなくなっても探す人間は誰もおりません。いい獲物が入って来ました」
カランドロの報告に女は不気味な笑みを浮かべた。
ミリアムは見習い炭鉱員として、炭鉱員専用宿舎の清掃に従事する事となった。
彼女がギアラエに潜入する五日前、モニカの放った密偵の一人の正体が発覚し、脱出を試みたが追い詰められ、県令親衛隊たちに囲まれてしまった。
県令親衛隊とはファシエル護衛のために厳選された百人で構成される武装集団である。
「貴様、何故我々の内情を嗅ぎ回っているのだ。愚か者めが、ここから生きて出られると思うたか」
(ギアラエ鉱山の内情を何とかモニカ様に伝えなくては。。)
密偵はファビアンが低賃金で信者に鉱山で過酷な労働を強いている事、ネープ民族の女性たちがこの街の中に連れてこられて生贄と称して殺害されている事を掴んでいた。
「誰の差し金でここに忍び込んだか白状すれば命だけは助けてやる」
カランドロの言葉に密偵は黙秘した。
「答える気がないようだな。ではここで死んでもらおう」
「く。。」
密偵は必死で県令親衛隊たちの囲みから逃げようとするが、鋭い槍が背中をひと突きし、その場に倒れた。
(モニカ様。。申し訳ございません。。)
密偵は息絶えた。
「このギアラエに潜入した者は生かして帰さぬ。皆の者、まだ鼠が入り込んでいるかも知れぬ。監視を強化しろ」
その途中で知り合いの酒商人に声を掛けられた。
「よう、ミリアム。ドナウゼンへ行くって聞いたよ。寂しくなるな」
「トーマスさん、色々お世話になりました。私も寂しいですけど、もう決めた事ですから」
「そうか、元気でな」
そう別れの言葉を交わして、居酒屋に向かおうとしたところでトーマスが再び声を掛けた。
「あ、そうそう。今週はフェルデン在中軍によるクーロンアイの検問があるからクーロンアイから帝国各都市への移動には気をつけな」
「検問にあっても別に何も悪い事してないし、呼び止められる理由もないわ」
「俺が心配しているのはミリアムがネープ民族というだけで何かされないかという事なんだよ」
トーマスの言葉にミリアムがピクリと反応した。
「ルーファス法は首都ハーフェンから離れている場所では人道的な理由から効力も薄いとは聞いているが、金や手柄目当ての役人にはお前さんは格好の獲物だろう。万一に備えて裏金の用意はしておいた方がいい」
トーマスの助言にミリアムはうなづいた。
「ありがとう、トーマスさん。それを聞かずに行ったら面倒に巻き込まれるかも知れなかった。恩に着るよ」
ミリアムはトーマスに手を振ってその場から立ち去り、居酒屋にも挨拶を済ませると急ぎクーロンアイに向かった。
「ここでルーファス法に引っかかって拿捕でもされた日には敵討ちが遠のいてしまう。せっかく掴んだファビアンの尻尾、離してなるものか。トーマスさんに言われたように最悪の場合は裏金もやむを得まい」
ミリアムは無事見廻りのチェックを抜けてドナウゼンへ行ける事だけを考えていた。
ザラメスからドナウゼンへ移動するには、クーロンアイ第一龍路を通っていったんフェルデンに向かい、フェルデンからは第五龍路を通ってドナウゼンへ向かわなくてはならない。
ザラメスからフェルデンは馬なら一日の距離も徒歩だと途中宿に宿泊して二日であった。
出発から二日目のお昼過ぎにようやくフェルデンに到着したミリアムは内心不安になりながらも怪しまれないように表面は平然を装って通行手形を出して検問を無事に通過した。
(ここの役人は民族の違いには何らお咎めはしない感じだな。どうやら取り越し苦労だったようね)
ミリアムはまさかこのクーロンアイの責任者がソレーヌだとは夢にも思わず、寛容な対応にほっとしながらドナウゼンへと向かった。
ギアラエに潜入するのは県令であるファビアンの命を狙う機会を伺うためであったが、ミリアムがネープ民族である事が別の事件に巻き込まれる原因となってしまったのである。
ドナウゼンに着くなりギアラエ鉱山の働き手募集の勧誘を受けたミリアムはすぐさま手続きを行った。
ミリアムの採用は呆気ないほど簡単に決まった。
ファビアンの娘と言われている女は久しぶりの上等な獲物に満足げであった。
「青い眼のネープ民族。身よりもなく、いなくなっても探す人間は誰もおりません。いい獲物が入って来ました」
カランドロの報告に女は不気味な笑みを浮かべた。
ミリアムは見習い炭鉱員として、炭鉱員専用宿舎の清掃に従事する事となった。
彼女がギアラエに潜入する五日前、モニカの放った密偵の一人の正体が発覚し、脱出を試みたが追い詰められ、県令親衛隊たちに囲まれてしまった。
県令親衛隊とはファシエル護衛のために厳選された百人で構成される武装集団である。
「貴様、何故我々の内情を嗅ぎ回っているのだ。愚か者めが、ここから生きて出られると思うたか」
(ギアラエ鉱山の内情を何とかモニカ様に伝えなくては。。)
密偵はファビアンが低賃金で信者に鉱山で過酷な労働を強いている事、ネープ民族の女性たちがこの街の中に連れてこられて生贄と称して殺害されている事を掴んでいた。
「誰の差し金でここに忍び込んだか白状すれば命だけは助けてやる」
カランドロの言葉に密偵は黙秘した。
「答える気がないようだな。ではここで死んでもらおう」
「く。。」
密偵は必死で県令親衛隊たちの囲みから逃げようとするが、鋭い槍が背中をひと突きし、その場に倒れた。
(モニカ様。。申し訳ございません。。)
密偵は息絶えた。
「このギアラエに潜入した者は生かして帰さぬ。皆の者、まだ鼠が入り込んでいるかも知れぬ。監視を強化しろ」
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