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ロマリア帝国事件編
ギアラエ鉱山
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一方、ギアラエ鉱山都市にはイリーナが皇女モニカの代行として視察を行うため街に入っていた。
これは表向きどんな対応をして来るか、街の人たちの様子はどうかを確認するのが目的であった。
しかし実際に街に入ってみると、イリーナが想像してたのと違って人々の表情は穏やかでむしろ笑顔さえ見えた。
ファビアンの副官であるカランドロが恵比寿顔で対応してくれている。
それに薄気味悪さを感じても感動するイリーナではなかったが。
「我々はこのように貧しい人たちに職を与え、困っている人を助けて、病人がいれば治療を行っております。おかげさまで人口は日に日に増しております。県令の悲願であるロマリア帝国最大の工業都市となる日もそう遠くはないでしょう」
(確かに人口だけは確実に増加している。数だけはな)
「我々は一人でも多くの人たちを雇用して失業率を下げるという目標もございます。そのための努力は惜しまないつもりです」
「街の人たちはここの対応に満足しているのだな」
「それはもう。みんなの顔の表情を見て頂ければおわかりになるかと存じます」
(確かに表情は明るい。しかし表向きの顔という事も十分に考えられる。視察に来た時には笑顔で対応せねば、後で処刑されるという事もあり得るからな)
しかし見たところこれ以上視察しても何も出てこないと判断し、イリーナは退却する事とした。
「案内ご苦労。よくわかった。引き続き街の人たちに不自由のないよう統治にあたるように」
「もちろんでございます。お役目ご苦労様です」
イリーナはいったん帰りかけたところでもう一つ質問した。
「もう一つ聞きたいのだが、この半年ほどの間にギアラエ近隣でネープ民族女性が行方不明になる事件が発生しているが、その件について何か聞いたり知っている事はないか?」
「ネープ民族女性が行方不明に?それは初めて耳にしました。私はここに居住して以来三年間この鉱山から外に出た事がないものですから、外の情報に疎い者でお役に立てずにすみません」
「いや、知らないならいいんだ。すまなかったな」
「とんでもございません」
イリーナは何か引っかかるものを感じてはいたが、一度街から出ですく近くの村に部下十人と見張りをおこなう準備に取り掛かった。
「外側からの視察に関しては完全対策されているようだ。やはり内情偵察に任せるしかない。お前たちはここで見張りを続けていてくれ。私はモニカ様にご報告にいったんフェルデンへ帰還する。何かあればすぐに伝書鳩で連絡しろ。急ぎ駆けつける」
⭐︎⭐︎⭐︎
「モニカの視察とやらはうまく誤魔化す事が出来ました。何も不審に思う事なく引き上げて行きました」
「そうか。視察箇所をイアル民族の裕福層のみで固めておいたからな。みな満足そうな顔をしていれば、怪しむ事もあるまい。実際人口は増えておろう」
「はい、街の人口は日々増加しております。これもひとえに県令のお力があっての事」
「人口が増えればそれだけ労働力が増す。金のなる木はいくらあっても良いからな」
「我々は奴らに生きる場所と働く場所を提供しているのです。その恩を忘れるような輩は生きている価値もございません」
「カランドロ、お前もそう思っているなら今後もわしのために尽くせよ」
「もちろんでございますとも。県令あっての私でございます」
実際に街の人口は増大していた。
ルーファス法に苦しめられている人たちを救うを謳い文句に始めは確かに救っている。
そうして街に住まわせ、労働者として職を与えてから徐々に本当の姿を見せて行くのである。
鉱山で金や鉱石を発掘させる重労働に従事させ、まともな生活もままならない低賃金しか与えず、その利益はファビアンの懐の中であった。
カランドロもそのおこぼれを頂戴しているだけあり、ファビアンへの服従は自身の懐が肥え続けるとあって絶対であった。
「最後に一つ気になる事を申しておりました。このギアラエ近隣でネープ民族女性が行方不明になっている事件を知らないかと」
その言葉にファビアンは少しだけ表情が固くなった。
「やはり怪しまれているのか」
「まだ実態が掴めていないようでしたが、我々を不審に思っているのは確かでございましょう」
ファビアンは腕組みをして「うーむ」と小さくため息とも唸り声とも言えない声を上げる。
「あまり大っぴらにやるとまずいかも知れぬ。出来る限りこのギアラエ鉱山都市の中で生贄となる女を確保しろ。外にはしばらく出るな」
「しかし、それでお嬢様が満足いくだけの人数が揃えられなかったらいかが致しましょう?」
「わしが娘と話そう。ネープ民族以外の女ではいけないのか。彼奴の趣向は理解に苦しむが、交渉の余地くらいはあろう」
「どうぞよろしくお願い致します」
これは表向きどんな対応をして来るか、街の人たちの様子はどうかを確認するのが目的であった。
しかし実際に街に入ってみると、イリーナが想像してたのと違って人々の表情は穏やかでむしろ笑顔さえ見えた。
ファビアンの副官であるカランドロが恵比寿顔で対応してくれている。
それに薄気味悪さを感じても感動するイリーナではなかったが。
「我々はこのように貧しい人たちに職を与え、困っている人を助けて、病人がいれば治療を行っております。おかげさまで人口は日に日に増しております。県令の悲願であるロマリア帝国最大の工業都市となる日もそう遠くはないでしょう」
(確かに人口だけは確実に増加している。数だけはな)
「我々は一人でも多くの人たちを雇用して失業率を下げるという目標もございます。そのための努力は惜しまないつもりです」
「街の人たちはここの対応に満足しているのだな」
「それはもう。みんなの顔の表情を見て頂ければおわかりになるかと存じます」
(確かに表情は明るい。しかし表向きの顔という事も十分に考えられる。視察に来た時には笑顔で対応せねば、後で処刑されるという事もあり得るからな)
しかし見たところこれ以上視察しても何も出てこないと判断し、イリーナは退却する事とした。
「案内ご苦労。よくわかった。引き続き街の人たちに不自由のないよう統治にあたるように」
「もちろんでございます。お役目ご苦労様です」
イリーナはいったん帰りかけたところでもう一つ質問した。
「もう一つ聞きたいのだが、この半年ほどの間にギアラエ近隣でネープ民族女性が行方不明になる事件が発生しているが、その件について何か聞いたり知っている事はないか?」
「ネープ民族女性が行方不明に?それは初めて耳にしました。私はここに居住して以来三年間この鉱山から外に出た事がないものですから、外の情報に疎い者でお役に立てずにすみません」
「いや、知らないならいいんだ。すまなかったな」
「とんでもございません」
イリーナは何か引っかかるものを感じてはいたが、一度街から出ですく近くの村に部下十人と見張りをおこなう準備に取り掛かった。
「外側からの視察に関しては完全対策されているようだ。やはり内情偵察に任せるしかない。お前たちはここで見張りを続けていてくれ。私はモニカ様にご報告にいったんフェルデンへ帰還する。何かあればすぐに伝書鳩で連絡しろ。急ぎ駆けつける」
⭐︎⭐︎⭐︎
「モニカの視察とやらはうまく誤魔化す事が出来ました。何も不審に思う事なく引き上げて行きました」
「そうか。視察箇所をイアル民族の裕福層のみで固めておいたからな。みな満足そうな顔をしていれば、怪しむ事もあるまい。実際人口は増えておろう」
「はい、街の人口は日々増加しております。これもひとえに県令のお力があっての事」
「人口が増えればそれだけ労働力が増す。金のなる木はいくらあっても良いからな」
「我々は奴らに生きる場所と働く場所を提供しているのです。その恩を忘れるような輩は生きている価値もございません」
「カランドロ、お前もそう思っているなら今後もわしのために尽くせよ」
「もちろんでございますとも。県令あっての私でございます」
実際に街の人口は増大していた。
ルーファス法に苦しめられている人たちを救うを謳い文句に始めは確かに救っている。
そうして街に住まわせ、労働者として職を与えてから徐々に本当の姿を見せて行くのである。
鉱山で金や鉱石を発掘させる重労働に従事させ、まともな生活もままならない低賃金しか与えず、その利益はファビアンの懐の中であった。
カランドロもそのおこぼれを頂戴しているだけあり、ファビアンへの服従は自身の懐が肥え続けるとあって絶対であった。
「最後に一つ気になる事を申しておりました。このギアラエ近隣でネープ民族女性が行方不明になっている事件を知らないかと」
その言葉にファビアンは少しだけ表情が固くなった。
「やはり怪しまれているのか」
「まだ実態が掴めていないようでしたが、我々を不審に思っているのは確かでございましょう」
ファビアンは腕組みをして「うーむ」と小さくため息とも唸り声とも言えない声を上げる。
「あまり大っぴらにやるとまずいかも知れぬ。出来る限りこのギアラエ鉱山都市の中で生贄となる女を確保しろ。外にはしばらく出るな」
「しかし、それでお嬢様が満足いくだけの人数が揃えられなかったらいかが致しましょう?」
「わしが娘と話そう。ネープ民族以外の女ではいけないのか。彼奴の趣向は理解に苦しむが、交渉の余地くらいはあろう」
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