ギガンティア大陸戦記

葉月麗雄

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第二章 巣立ち編

決着

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ティファは今回も輸送部隊の五百メートルほど後ろに警備兵士たちと同行し、地図に書き記していた兵を伏せやすいポイントをチェックしていた。
ロビーとソフィアは奪った積み荷をすぐにアジトに運べるようになるべくアジトに近い場所を選択していた。
そのため出没ポイントが多少のずれはあってもほぼ特定されていた。

ティファがこの辺りかなと思った場所を輸送部隊が通過する。
ロビーたち山賊はそれを今か今かと待ち構えていた。
だが、それはティファや輸送部隊にしても同じ事。
山賊たちが襲いかかって来るのを手ぐすね引いて待ち構えていたのだ。

「行くぞ!」

ロビーの掛け声と共に山賊たちが一斉に輸送部隊に襲いかかる。

それと同時に隊長の合図で積み荷に身を隠していた兵士たちが一斉に飛び出してきた。
輸送部隊の兵士と合わせると七十人であった。
ティファはこの山賊退治のために輸送部隊だけでなく警備兵士も合わせて百五十人を揃えていた。

「何だと?」

ロビーが驚き、ソフィアは舌打ちする。

「まさか、こちらが偽情報を見破ったと思い攻め込んだところを一網打尽にするために。。」

ティファはソフィアが偽情報を見破ったと錯覚させるために、偽情報の中に"本当の情報"を混ぜて流していた。
つまりブラウゼンに病気など蔓延していないという本当の情報を。
それを山賊たちが掴めば、騙されるところだったとほっと胸を撫で下ろして輸送部隊を攻めて来るだろう。
そこを一網打尽にするというティファの策略にソフィアがかかってしまったわけだ。

ソフィアは偽情報を見破ったと思いアンダーラインに出てきた輸送部隊に襲いかかっていったが、見事にティファの策略にはまってしまったのだ。
そして実際にアンダーラインに輸送部隊を進ませた。
積み荷に兵を潜ませた討伐部隊を。

病気が蔓延しているという偽情報を流して、それに疑心暗鬼にとらわれてさらに調べていくうちに、それは嘘という情報を掴めば、偽情報を見破ったと思い、裏をかいたと考えて襲って来る。
ティファは最初のうちだけブラウゼンの街を出歩く人の数を抑えて、相手が一度で信用せずに確認する事を見越して、適度な時期を見計らってその命令を解除したのだ。
実にに巧妙であった。
当然街は元通りの人の流れになる。

ブラウゼンを守るレオニード少将は「俺に無断で勝手な事しやがって」と怒りをあらわにしたが、シュミット国王からティファに協力せよとの命令が下り、渋々承諾した。

無論、これにもパトリシアの後ろ盾があった事は言うまでもない。
「持つべきものは友達だね」
ティファは僅か半年足らずの同級生だったパトリシアに感謝している。

「裏の裏をかいて相手の心理を逆手に取っただけだよ」

というティファに輸送部隊の部隊長は難しい事はわからなかったが、この人は凄いというのは本能的に察知したようだ。
しかし盗賊のリーダー二人を仲間にしたいという考えがあるとは言え、随分と遠回りなやり方だとも思っていた。
そのリーダー二人が味方になってくれるかどうかも不明なのだから。

「ロビー、退却だ」

後ろからソフィアが叫び、「捕らえよ!」という部隊長の号令が飛ぶ。
両者入り乱れての攻防もなったが、数に勝る輸送部隊と警備兵士たちが山賊を圧倒し、部下たちは次々と捕らえられていった。
ロビーは斬り込もうとしたが、ソフィアに止められた。

「この人数相手に斬り込んだところで結果は見えている。日を改めて出直そう」

ロビーは悔しさを噛み殺してソフィアに従った。

「退却するぞ!」

ロビーの命令で退却しようとする山賊たち。
しかし、そこへ後方からもベンタイン兵士が現れた。

「どうなってやがる?」

この兵士たちは迂回路を進んでいた輸送部隊であった。
ティファの指示により迂回路から丘陵地帯を抜けて平野に回り込み、山賊を挟撃した。
さらに平野部にもタスタニアの旗が十数本なびいていた。
実際にはほんの数人しかいなかったが、ロビーたちは平野も包囲されていると思い込んだ。
アンダーラインの前後に平野側を包囲され、ロビーとソフィアは決断に迫られる。

強引に突破するには人数が多すぎる。
相手は百人近くいる。対してこちらは三十人いた仲間のうちすでに半数近く捕らえられている。
残る選択肢はオルジュ湖に飛び込んで泳いで逃げ切るしかなかった。

「みんな、オルジュ湖に飛び込んで逃げろ」

ロビーとソフィアは何とか脱出した仲間と共にオルジュ湖に飛び込んだ。

「泳げ!」

ロビーたちはオルジュ湖をブラウゼン方面に泳いで逃げていった。
だが、この行動もティファには読まれていた。
ティファはあらかじめオルジュ湖にボートを五隻準備して、湖に飛び込んで逃げる山賊を見張るように命じていた。

「来たぞ。見失うな」

陸地から十メートルほどの距離を泳いで逃げる十数人の人影を発見したボート部隊はこれを追撃した。

「何なんだ。。こんな所にまで兵を配置するか普通」

「それだけこっちの動きが読まれていたって事さ。。」

泳ぐよりも左右二人ずつでボートを漕ぐ方が断然早く、ロビーとソフィアたちはたちまち追いつかれそうになる。
すでに数百メートル泳いで体力も限界に近かった。

「陸地に戻ろう。そこから活路を作って何とか逃げのびろ」

ロビーの声に全員湖から陸地を目指して泳いだが、ロビーとソフィア以外の部下たちはついに体力の限界が来て、陸地に上がったところで逃げきれずに捕らえられた。
ロビーとソフィアは急ぎアンダーラインを跨いで平地の茂みへ隠れて逃げようとした。
しかしこれも読んでいたティファの指示により兵士たちが先回りしていた。

「八方塞がりか。。」

やがて湖からもボート部隊の兵士たちが降りて来て、百人以上の兵に囲まれて文字通りの八方塞がりとなった。

「ロビー、どうやらこれまでのようだな。。」

「この上は一人でも道連れに最後に派手にひと暴れして散るとするか」

それを見た部隊長は兵士たちに「相手は必死だ。一人でも道連れにしようと切り込んでくる。一人ずつ間髪入れず入れ替わり立ち代わり攻撃し、二人を疲弊させよ」と命令し、兵士たちは入れ替わり立ち替わりロビーとソフィアに一合撃ち合ってすぐ別の兵が襲い掛かった。

いくら強いといっても人間である、ロビーもソフィアも入れ替わり立ち替わりくる兵士の攻撃に疲労困憊となり、立っているのもやっとの状態となった。

「今だ。捕らえよ」

兵士たちが一斉にロビーたちを押さえ込み二人は捕らえられた。

「ちく。。しょう。。」

どれくらい時間がたっただろうか、囚われて牢に収容されたロビーとソフィアが目を覚ました。

「ソフィア、生きてるか?」

「ああ、まだこの世にいるみたいだな」

「完全にやられたな」

「こちらの動きを完全に読まれていた。私の情報網も通じなかった。完敗だ。仮に次の機会を狙ったところで結果は同じだったろう。悔しいけど、相手が一枚上手だったよ」

「いったいここを統率してる奴はどんな奴なのか冥土の土産に顔を拝んでみたいな」

二人がそう話していると看守が牢に近づいてきた。

「二人とも出ろ。少尉がお呼びだ」

「いよいよ処刑されるのか。ソフィア、今までありがとうよ。おかげでちょっとばかりの間だったが楽しく過ごせたぜ」

「よせよ、ロビーらしくない。こちらこそ世話になったな」

二人は覚悟を決めて牢を出た。
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