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第一章 士官学校時代編
オスカー・フォン・フリードリヒ 前編
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モニカは宮殿内の皇女の間が気に入らず、かつて母の暮らしていた離宮である「アイリーン」を居住の場として生活しており、イリーナをはじめとするモニカ直属の従者たちも共にここで生活していた。
離宮とはいえ部屋数が七十もある大きな宮殿でモニカの異母兄であるオスカーもここを安らぎの場としていてオスカーの専用部屋も作られていたのだ。
アイリーンは母の名前であるがモニカが母亡き後、離宮にこの名称をつけたのだ。
離宮アイリーンの庭園には小さな噴水もありモニカはここで任務の間の憩いのひと時を過ごしていたのである。
「オスカーは居るか?」
モニカがオスカーの部屋に入るとオスカーは閣議に出かける準備を終えていた。
「モニカ、またお忍びで外出してたのか?まあ外に出るなとは言わないが、お前の身に何かあったら我々の計画が水の泡になってしまうぞ」
「心配するな、オスカーだってそう言いながら私がそう簡単にやられるとは思ってないだろう。イリーナもいる事だし」
「それはそうだがな。まあお前にそんな事言ったところでロバに説教ってところだろうが」
「それは酷いな!私だってオスカーの言う事を聞く耳くらいは持っているぞ。ほらほら」
モニカはそう言いながら両耳を引っ張ってオスカーに見せ、オスカーはわかったわかったと手で払う仕草をする。
皇帝ルーファスの実弟であるアンドリアスの一人息子オスカーとモニカは義兄妹ではあるが幼少から仲がよく、オスカーがこう言った皮肉を言ってもモニカは気にする事もなく笑いながら受け答えしていた。
「久しぶりにあの嫌な顔を見なきゃいけないとなると気が滅入るな」
「まあ、皇帝ルーファスの顔を見て機嫌がよくなる奴などこのロマリア帝国には存在しないだろうな。気持ちはわかるが、無闇に口に出すなよ」
オスカーもイリーナと同じようにモニカに苦言を呈した。
「わかってるって。あ、そうだ。私が目を付けている士官学校のセリアたちは今日フェルデンに向けて出発したよ、シュタインベルク伯爵の手配のおかげだ、オスカーにも礼を言うよ」
「そうか。モニカが一目置くだけの人物ならば近い将来心強い味方になってくれるだろう」
「そこでオスカーにひとつ相談があるんだけど。相談と言うよりもう決めた事だからバックアップして欲しいんだ」
「およその検討はつく。そのセリアたちと一緒に行動したいんだろう」
「なぜわかった?」
「お前の性格からして、自分が一目置いた相手は自らの目で確認しなければ気が済むまい。お忍びか司令官として自分の手元に置きたいと言ってくるだろうとシュタインベルク伯爵と話していたところだ」
「それじゃ話しは早い。認めてくれるんだな」
「認めない!と言ったらどうする?」
「オスカーはそんなわからず屋じゃないよ。まあ認めなければ勝手にいくけど」
「それも予想通り、認めない時は勝手に出ていくであろうと。であればここは認めて気持ちよく送り出してやる」
「さすがオスカー!」
「その代わりと言ってはなんだが、一つ頼みがある。実はオリビアをフェルデンに着任させようかと考えていたところでな。お前がフェルデンに行くならオリビアの面倒も見てやってくれないか」
「オリビアを?それは構わないけど、彼女はまだ学生じゃないのか?」
「年齢的には学生だがな、オリビアは俺が直接剣術を教えた事もあって本人も早く軍で活躍したいと言っている。そんな甘いものではないのだが、口で言うよりも現場で体験させた方が身をもって思い知るだろうと思ってな」
オリビアとは元々はオスカーの従者だったのだが天性の剣の素質があり、成長著しい彼女を見てオスカーは従者から正式に騎士へ任命した若手のホープである。
「オリビアならセリアの下に付けても十分やれるだろうし、オスカーの期待をいい意味で裏切る活躍をするかもな」
「それならそれでいい。ようは自信過剰にならなければいいんだ。オリビアの実力は帝国騎士の中でも上位である事は俺が保証する」
「わかったよ。フェルデン行きを認めてもらった以上それくらいお安い御用だ」
モニカは早速イリーナと共にフェルデンへ着任する手配を取り、シュタインベルク伯爵もオリビアのフェルデン着任の手配をおこなった。
「さて、モニカとオリビアの件はこれでよし。気も足取りも重いが閣議に行くとするか」
オスカーは現皇帝ルーファスの実弟アンドリアスの一人息子でアンドリアスはルーファスのやり方に疑問を持ち、即位後しばらくルーファスと距離を置いていたが、オスカーが幼少の頃にタスタニアに貧民層を逃亡させる手助けをした罪に問われて前皇帝ミカエルの法事の際に丸腰のところをルーファスーが送り込んだ刺客に斬り捨てられた。
そのためオスカーはルーファスは父の仇として倒さなければならない相手の一人として見ていた。
そして上の義兄二人パトリックとバスティアンともいずれ後継者争いで戦う事になるであろう。
ロマリア帝国は現皇帝ルーファスの民族浄化政策「ルーファス法」で国を追われた人たちがいる一方で、皇帝の悪政に対する不満がすべての人たちに当てはまるものではなかった。
多くの人びとは自身で考えて行動しその責務を負うよりも、他者に指示され行動して責務を放棄する方が楽だと考えていたからである。
すべての人々を満足させるような政策や国づくりは有り得ないのは理解した上で、オスカーとモニカは少しでも今よりいい国にしようと影で着々と準備を進めていたのである。
離宮とはいえ部屋数が七十もある大きな宮殿でモニカの異母兄であるオスカーもここを安らぎの場としていてオスカーの専用部屋も作られていたのだ。
アイリーンは母の名前であるがモニカが母亡き後、離宮にこの名称をつけたのだ。
離宮アイリーンの庭園には小さな噴水もありモニカはここで任務の間の憩いのひと時を過ごしていたのである。
「オスカーは居るか?」
モニカがオスカーの部屋に入るとオスカーは閣議に出かける準備を終えていた。
「モニカ、またお忍びで外出してたのか?まあ外に出るなとは言わないが、お前の身に何かあったら我々の計画が水の泡になってしまうぞ」
「心配するな、オスカーだってそう言いながら私がそう簡単にやられるとは思ってないだろう。イリーナもいる事だし」
「それはそうだがな。まあお前にそんな事言ったところでロバに説教ってところだろうが」
「それは酷いな!私だってオスカーの言う事を聞く耳くらいは持っているぞ。ほらほら」
モニカはそう言いながら両耳を引っ張ってオスカーに見せ、オスカーはわかったわかったと手で払う仕草をする。
皇帝ルーファスの実弟であるアンドリアスの一人息子オスカーとモニカは義兄妹ではあるが幼少から仲がよく、オスカーがこう言った皮肉を言ってもモニカは気にする事もなく笑いながら受け答えしていた。
「久しぶりにあの嫌な顔を見なきゃいけないとなると気が滅入るな」
「まあ、皇帝ルーファスの顔を見て機嫌がよくなる奴などこのロマリア帝国には存在しないだろうな。気持ちはわかるが、無闇に口に出すなよ」
オスカーもイリーナと同じようにモニカに苦言を呈した。
「わかってるって。あ、そうだ。私が目を付けている士官学校のセリアたちは今日フェルデンに向けて出発したよ、シュタインベルク伯爵の手配のおかげだ、オスカーにも礼を言うよ」
「そうか。モニカが一目置くだけの人物ならば近い将来心強い味方になってくれるだろう」
「そこでオスカーにひとつ相談があるんだけど。相談と言うよりもう決めた事だからバックアップして欲しいんだ」
「およその検討はつく。そのセリアたちと一緒に行動したいんだろう」
「なぜわかった?」
「お前の性格からして、自分が一目置いた相手は自らの目で確認しなければ気が済むまい。お忍びか司令官として自分の手元に置きたいと言ってくるだろうとシュタインベルク伯爵と話していたところだ」
「それじゃ話しは早い。認めてくれるんだな」
「認めない!と言ったらどうする?」
「オスカーはそんなわからず屋じゃないよ。まあ認めなければ勝手にいくけど」
「それも予想通り、認めない時は勝手に出ていくであろうと。であればここは認めて気持ちよく送り出してやる」
「さすがオスカー!」
「その代わりと言ってはなんだが、一つ頼みがある。実はオリビアをフェルデンに着任させようかと考えていたところでな。お前がフェルデンに行くならオリビアの面倒も見てやってくれないか」
「オリビアを?それは構わないけど、彼女はまだ学生じゃないのか?」
「年齢的には学生だがな、オリビアは俺が直接剣術を教えた事もあって本人も早く軍で活躍したいと言っている。そんな甘いものではないのだが、口で言うよりも現場で体験させた方が身をもって思い知るだろうと思ってな」
オリビアとは元々はオスカーの従者だったのだが天性の剣の素質があり、成長著しい彼女を見てオスカーは従者から正式に騎士へ任命した若手のホープである。
「オリビアならセリアの下に付けても十分やれるだろうし、オスカーの期待をいい意味で裏切る活躍をするかもな」
「それならそれでいい。ようは自信過剰にならなければいいんだ。オリビアの実力は帝国騎士の中でも上位である事は俺が保証する」
「わかったよ。フェルデン行きを認めてもらった以上それくらいお安い御用だ」
モニカは早速イリーナと共にフェルデンへ着任する手配を取り、シュタインベルク伯爵もオリビアのフェルデン着任の手配をおこなった。
「さて、モニカとオリビアの件はこれでよし。気も足取りも重いが閣議に行くとするか」
オスカーは現皇帝ルーファスの実弟アンドリアスの一人息子でアンドリアスはルーファスのやり方に疑問を持ち、即位後しばらくルーファスと距離を置いていたが、オスカーが幼少の頃にタスタニアに貧民層を逃亡させる手助けをした罪に問われて前皇帝ミカエルの法事の際に丸腰のところをルーファスーが送り込んだ刺客に斬り捨てられた。
そのためオスカーはルーファスは父の仇として倒さなければならない相手の一人として見ていた。
そして上の義兄二人パトリックとバスティアンともいずれ後継者争いで戦う事になるであろう。
ロマリア帝国は現皇帝ルーファスの民族浄化政策「ルーファス法」で国を追われた人たちがいる一方で、皇帝の悪政に対する不満がすべての人たちに当てはまるものではなかった。
多くの人びとは自身で考えて行動しその責務を負うよりも、他者に指示され行動して責務を放棄する方が楽だと考えていたからである。
すべての人々を満足させるような政策や国づくりは有り得ないのは理解した上で、オスカーとモニカは少しでも今よりいい国にしようと影で着々と準備を進めていたのである。
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