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第一章 士官学校時代編
モニカ・フォン・タンブレア
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「イリーナ、少し出かけて来る」
「モニカ様、あまりお忍びをなされますとまたオスカー殿下にお叱りを受けますよ」
「オスカーは心配性からな。案ずるな、いつものように目をつけた人物を見て来るだけだ。用が済んだらすぐ戻って来る」
「かしこまりました。お気をつけていってらっしゃいませ」
皇女モニカは従者であるイリーナにそう伝えるとお忍びで顔を布で隠して宮廷から街の中に消えていった。
モニカ・フォン・タンブレア。十八歳。
皇帝ルーファスの末っ子で男勝りな性格で幼少の頃より馬術や剣術に興味を持ち宮殿内を所狭しと駆け回っていた。
見た目はその行動的な性格とは裏腹に青い瞳が印象的な美少女であった。
身長は一六五センチと当時の女性としては高い方であり、彼女の顔立ちは美人で有名であった母親似でもあった。
モニカの母親アイリーンはルーファスの正室ではなく側室の一人で貧しい農家から金銭で売られて来た女性であった。
顔立ちが綺麗でルーファスの側室の一人に選ばれたが、貴族出身ではない上にネープ民族であったと知ると事実上の迫害を受け、以降宮殿内での扱いは不遇であり、本宮殿から離れた離宮で過ごしていて、病に倒れた際にも息を引き取った時もルーファスはまったく顔を出さなかった。
このためモニカは「私の中にあいつの血が流れているのかと思うと身体中の血を捨てたくなる」と言うほど父であるルーファスを嫌っていた。
本来ならフリードリヒである名字を母の旧姓であるタンブレアにしているのも、そういった反抗心からである。
ルーファスは娘が産まれると政略結婚のために十五歳になると近隣諸国に縁談を持ちかけ嫁に出していた。
正室エレンとの間に産まれた長女と次女、側室カトレーンとの間に産まれた長女はいずれも近隣諸国に政略結婚で出されていた。
しかしモニカは縁談のたびに「私と結婚したいのであれば剣で私に勝ってみろ」と相手に剣での戦いを迫り、向かって来た者はことごとく打ち倒したため、近隣諸国でも有名なじゃじゃ馬姫で十六歳過ぎた頃には縁談話も来なくなった。
皇帝ルーファスは「フリードリヒ一族の面汚し」とこき下ろしたが、それは父親嫌いのモニカの「あいつの言いなりの人生は歩まない」という抵抗でもあった。
父親であるルーファスを嫌う一方で、ルーファスの実弟アンドリアスの一人息子でもあり、義兄である皇太子のオスカーには従順で使用人にも温和という心優しい一面を持つ女性でもある。
それは貧しい農家の出身であった母親の影響でもあった。
アイリーンは宮殿に入り側室となってからも決して使用人たちに居丈高に振る舞う事なく、気さくに接していたし、朝会えば誰にでも「おはようございます」と声を掛ける人であった。
モニカはそんな母の姿を幼少から見て育ったので、その行動は母を模範としていた。
使用人には気軽に挨拶するし、従者であるイリーナにも主従関係ではあるものの、イリーナの言葉にも耳を傾ける寛容さがあった。
セリアたちが入学した士官学校もそうした事から自ら出資して建てたものだが、その理由は将来のロマリア帝国を一緒に再建してくれる仲間を発掘するためというのが一番の目的であったのだ。
優秀な人材が入ったらすぐに知らせるように校長を始めとする教員たちに命じておき、セリアたちの情報も逐一収集していた。
先日のヴィルヘルム伯とその仲間の子息たちの一件を揉み消したのもモニカであった。
自分が目をつけた人物がくだらない事で潰されないように、伯爵や学校の教員たちを押さえつけたのである。
首都ハーフェンにはモニカが創設した剣術大会があり、毎月一回開催されて剣部門と槍部門でそれぞれ参加者が一対一で対決して勝者が賞金を獲得する仕組みになっていた。
騎士の中には裕福で土地を与えられて何人もの人間を雇う者もあれば、ハーフェン以外でも国の至るところで開催されている腕に覚えのある者が集い戦って賞金が出るトーナメントに参加する賞金稼ぎメインの騎士もいる。
この大会はそんな賞金稼ぎのための大会であった。
剣と槍はどちらも木製の物で先は布で覆い相手に大怪我させないように配慮もしてある。
この日は変幻自在の剣術の使い手として名を上げているが人物が参加していた。
ユリア・ファン・ヴァルシャイトという十八歳の女性剣士でこの大会でエミリアとジュディの二人が引き分けた以外負けた事がなかった。
モニカは目当てのユリアの実力を見るためにお忍びでこの会場に足を運んだのだ。
試合が始まりユリアの変幻自在でスピードのある剣に相手はなす術なく防戦一方のまま勝負がついた。
「なるほど。やるな」
モニカはユリアが噂通りの実力だと再確認した。
彼女がこの大会を開催している理由は優れた武力の剣士を見つけるためであり、そのために毎回お忍びで観戦しに来ていた。
「宮廷士官学校のセリアたちも合わせて私たちの計画に必要な人材を集めなければ」
モニカは胸に秘めたある計画をいずれ実行に移すために必要な人材を探していたのである。それは義兄オスカーと共に皇帝ルーファスを倒してあらたな国作りをするという大改革であった。
(オスカーと私の計画に必要な人材を探して集めなければならない。新たな国の建設をするために私たちの力となってくれる人材を。。)
モニカは自分が資金援助している士官学校でセリアたちの情報も入手しており、その能力を高く評価していたのだ。
「さて、あまり遅くなるとイリーナが心配するし何よりオスカーがうるさいからな。この辺で戻るとするか」
モニカはいずれその時が来るまでセリアたちを自分の目で追っていこうと決意し競技場を後にして宮廷に戻った。
それと入れ違いにジュディとエミリアの二人が競技場を訪れていた。
「ユリア。あいつともいつか決着をつけなきゃいけないな」
「強敵がいるというのは嬉しいことでもあるね、私たちもまた一層努力せねばという気持ちになる」
エミリアは先日の一件での怪我もすっかり回復していた。
学校ではセリアたちと四人で行動するようになっていたが、今日は二人だけで学校帰りにふらっと競技場に来ていた。
ここはかつて二人が出会った場所でもあり、強い戦士がいると聞けば出向いて実際に試合を見たりしていた。
最も、噂だけで大した事なかったというのがほとんどであり、自分を売り込むための誇大セールスも数多く見受けられた。
そんな中でこのユリアは二人が認めた実力を持つ剣士であった。
試合を終えたユリアも二人の存在に気がついたようであった。
「ジュディにエミリア。今日はどうしたの?」
「なに、たまたま立ち寄っただけ。ユリアも相変わらず強いな」
「二人がいない日は張り合いがなくてね、強敵が出現してくれないかなと思いながら来てはいるけどなかなかいないもんだね」
「お前とはいつか決着をつけるつもりだから、それまでは腕を磨いて待っててくれよ」
「ええ、私も楽しみにしているよ」
ユリアは剣を持ち試合をすれば相手を圧倒する気迫と剣術の持ち主であったが、ひとたび戦いから離れて会話を交わすととても言葉遣いも丁寧で温和な可愛らしい女性であった。
そして戦術の修学もしており戦術眼にも長けていた。
ジュディとエミリアはユリアも仲間に加えたいと以前から考えていたのである。
「仲間に加えられそうな武力の剣士がいるのならば是非加えたい。我々の部隊は帝国軍最強でありたいからな。強い仲間は一人でも多い方がいい」
二人はセリアの仲間に加えるために実力のある剣士を探していた。
「タスタニアとの戦争は今は膠着しているけど、いずれ何らかの動きがあるのは時間の問題。その時には私たちも戦場にいるだろうし、タスタニアの実力の程はわからないけど要は私たちが負けなければいいだけの事。そのためにも最強のメンバーを揃えたい」
エミリアの言葉にジュディは懸念を付け加えた。
「この国はそう遠くない将来、内乱に見舞われるだろう。。内と外、両方の敵と戦わねばならない場面も出てくるかもしれない。将来の事態に今から備えておくに越した事はないからな。。」
エミリアとジュディは近いうちに国内に内乱が起こると予想していた。内と外の敵に対するために一人でも多くの仲間を必要と考えていたのである。
それは皇帝ルーファスに対する反乱がそう遠くないうちに起こるであろうという二人の予感でしかなかったが、自分たちの身を守るために出来る事はすべきだと考えていたのだ。
「もちろんそうならないのが一番だけどな」
イアル民族以外のユージット民族、ロバイト民族、ネープ民族を帝国から排除する民族浄化法、後世の歴史家たちから「ルーファス法」と呼ばれた悪法を打ち出したルーファスはイアル民族以外からは当然のように恨まれている。
ユージット民族はタスタニアのほぼ過半数を占める民族だし、ロバイト民族は東洋の流れを引いている。
またネープ民族は美人が多い事で知られている民族で、ネープ民族の女性と結婚するイアル民族やユージット民族は数多く存在する。
前述したモニカの母アイリーンもネープ民族だし、タスタニアのシャローラもネープ民族の血を引く一人である。
こういったイアル民族以外の民族が弾圧を受け、自分たちが住める新天地を求めて帝国から移住した先がタスタニアである。
タスタニアは建国してまだ歴史が浅いが他民族国家になりつつあった。
ルーファス法の事が頭に浮かんだエミリアは周りの人たちに気づかれないように小声でジュディに話しかけた。
「私にはイアル民族が他民族と比較して優秀などとは思えないけどな。民族が違えば特徴も能力も違うだろうし、それぞれの特技を活かしあって仲良く暮らせばいいと思うのは考えが甘いのかな?」
エミリアがそう言うとジュディも同意する。
「いや、それがまともな考え方だと思うよ。少なくともイアル民族以外は認めないなんていう暴挙よりはるかにな。それそれの民族が互いを尊重して暮らせるような国になればいいんだけどな。現実はそれに程遠いよな」
こんな事を見回り中の兵士や警備兵に聞かれたら国家反逆罪で即拘束である。
二人は辺りを気にしながら小声でそんな会話を交わすと、競技場から帰路に着いた。
理想と現実の乖離。
セリアたちが暮らすロマリア帝国は皇帝ルーファスの悪法で苦しむ人が数多くいる一方で、イアル民族の貴族たちは何不自由なく裕福な暮らしをしているという問題を抱えていたのである。
モニカは義兄であるオスカーとそんな自国を変えたいと思い、ジュディたちと同様にそのための仲間を探している。
このメンバーがやがて互いに共闘する事になるのにそれほどの時間はかからなかったのである。
「モニカ様、あまりお忍びをなされますとまたオスカー殿下にお叱りを受けますよ」
「オスカーは心配性からな。案ずるな、いつものように目をつけた人物を見て来るだけだ。用が済んだらすぐ戻って来る」
「かしこまりました。お気をつけていってらっしゃいませ」
皇女モニカは従者であるイリーナにそう伝えるとお忍びで顔を布で隠して宮廷から街の中に消えていった。
モニカ・フォン・タンブレア。十八歳。
皇帝ルーファスの末っ子で男勝りな性格で幼少の頃より馬術や剣術に興味を持ち宮殿内を所狭しと駆け回っていた。
見た目はその行動的な性格とは裏腹に青い瞳が印象的な美少女であった。
身長は一六五センチと当時の女性としては高い方であり、彼女の顔立ちは美人で有名であった母親似でもあった。
モニカの母親アイリーンはルーファスの正室ではなく側室の一人で貧しい農家から金銭で売られて来た女性であった。
顔立ちが綺麗でルーファスの側室の一人に選ばれたが、貴族出身ではない上にネープ民族であったと知ると事実上の迫害を受け、以降宮殿内での扱いは不遇であり、本宮殿から離れた離宮で過ごしていて、病に倒れた際にも息を引き取った時もルーファスはまったく顔を出さなかった。
このためモニカは「私の中にあいつの血が流れているのかと思うと身体中の血を捨てたくなる」と言うほど父であるルーファスを嫌っていた。
本来ならフリードリヒである名字を母の旧姓であるタンブレアにしているのも、そういった反抗心からである。
ルーファスは娘が産まれると政略結婚のために十五歳になると近隣諸国に縁談を持ちかけ嫁に出していた。
正室エレンとの間に産まれた長女と次女、側室カトレーンとの間に産まれた長女はいずれも近隣諸国に政略結婚で出されていた。
しかしモニカは縁談のたびに「私と結婚したいのであれば剣で私に勝ってみろ」と相手に剣での戦いを迫り、向かって来た者はことごとく打ち倒したため、近隣諸国でも有名なじゃじゃ馬姫で十六歳過ぎた頃には縁談話も来なくなった。
皇帝ルーファスは「フリードリヒ一族の面汚し」とこき下ろしたが、それは父親嫌いのモニカの「あいつの言いなりの人生は歩まない」という抵抗でもあった。
父親であるルーファスを嫌う一方で、ルーファスの実弟アンドリアスの一人息子でもあり、義兄である皇太子のオスカーには従順で使用人にも温和という心優しい一面を持つ女性でもある。
それは貧しい農家の出身であった母親の影響でもあった。
アイリーンは宮殿に入り側室となってからも決して使用人たちに居丈高に振る舞う事なく、気さくに接していたし、朝会えば誰にでも「おはようございます」と声を掛ける人であった。
モニカはそんな母の姿を幼少から見て育ったので、その行動は母を模範としていた。
使用人には気軽に挨拶するし、従者であるイリーナにも主従関係ではあるものの、イリーナの言葉にも耳を傾ける寛容さがあった。
セリアたちが入学した士官学校もそうした事から自ら出資して建てたものだが、その理由は将来のロマリア帝国を一緒に再建してくれる仲間を発掘するためというのが一番の目的であったのだ。
優秀な人材が入ったらすぐに知らせるように校長を始めとする教員たちに命じておき、セリアたちの情報も逐一収集していた。
先日のヴィルヘルム伯とその仲間の子息たちの一件を揉み消したのもモニカであった。
自分が目をつけた人物がくだらない事で潰されないように、伯爵や学校の教員たちを押さえつけたのである。
首都ハーフェンにはモニカが創設した剣術大会があり、毎月一回開催されて剣部門と槍部門でそれぞれ参加者が一対一で対決して勝者が賞金を獲得する仕組みになっていた。
騎士の中には裕福で土地を与えられて何人もの人間を雇う者もあれば、ハーフェン以外でも国の至るところで開催されている腕に覚えのある者が集い戦って賞金が出るトーナメントに参加する賞金稼ぎメインの騎士もいる。
この大会はそんな賞金稼ぎのための大会であった。
剣と槍はどちらも木製の物で先は布で覆い相手に大怪我させないように配慮もしてある。
この日は変幻自在の剣術の使い手として名を上げているが人物が参加していた。
ユリア・ファン・ヴァルシャイトという十八歳の女性剣士でこの大会でエミリアとジュディの二人が引き分けた以外負けた事がなかった。
モニカは目当てのユリアの実力を見るためにお忍びでこの会場に足を運んだのだ。
試合が始まりユリアの変幻自在でスピードのある剣に相手はなす術なく防戦一方のまま勝負がついた。
「なるほど。やるな」
モニカはユリアが噂通りの実力だと再確認した。
彼女がこの大会を開催している理由は優れた武力の剣士を見つけるためであり、そのために毎回お忍びで観戦しに来ていた。
「宮廷士官学校のセリアたちも合わせて私たちの計画に必要な人材を集めなければ」
モニカは胸に秘めたある計画をいずれ実行に移すために必要な人材を探していたのである。それは義兄オスカーと共に皇帝ルーファスを倒してあらたな国作りをするという大改革であった。
(オスカーと私の計画に必要な人材を探して集めなければならない。新たな国の建設をするために私たちの力となってくれる人材を。。)
モニカは自分が資金援助している士官学校でセリアたちの情報も入手しており、その能力を高く評価していたのだ。
「さて、あまり遅くなるとイリーナが心配するし何よりオスカーがうるさいからな。この辺で戻るとするか」
モニカはいずれその時が来るまでセリアたちを自分の目で追っていこうと決意し競技場を後にして宮廷に戻った。
それと入れ違いにジュディとエミリアの二人が競技場を訪れていた。
「ユリア。あいつともいつか決着をつけなきゃいけないな」
「強敵がいるというのは嬉しいことでもあるね、私たちもまた一層努力せねばという気持ちになる」
エミリアは先日の一件での怪我もすっかり回復していた。
学校ではセリアたちと四人で行動するようになっていたが、今日は二人だけで学校帰りにふらっと競技場に来ていた。
ここはかつて二人が出会った場所でもあり、強い戦士がいると聞けば出向いて実際に試合を見たりしていた。
最も、噂だけで大した事なかったというのがほとんどであり、自分を売り込むための誇大セールスも数多く見受けられた。
そんな中でこのユリアは二人が認めた実力を持つ剣士であった。
試合を終えたユリアも二人の存在に気がついたようであった。
「ジュディにエミリア。今日はどうしたの?」
「なに、たまたま立ち寄っただけ。ユリアも相変わらず強いな」
「二人がいない日は張り合いがなくてね、強敵が出現してくれないかなと思いながら来てはいるけどなかなかいないもんだね」
「お前とはいつか決着をつけるつもりだから、それまでは腕を磨いて待っててくれよ」
「ええ、私も楽しみにしているよ」
ユリアは剣を持ち試合をすれば相手を圧倒する気迫と剣術の持ち主であったが、ひとたび戦いから離れて会話を交わすととても言葉遣いも丁寧で温和な可愛らしい女性であった。
そして戦術の修学もしており戦術眼にも長けていた。
ジュディとエミリアはユリアも仲間に加えたいと以前から考えていたのである。
「仲間に加えられそうな武力の剣士がいるのならば是非加えたい。我々の部隊は帝国軍最強でありたいからな。強い仲間は一人でも多い方がいい」
二人はセリアの仲間に加えるために実力のある剣士を探していた。
「タスタニアとの戦争は今は膠着しているけど、いずれ何らかの動きがあるのは時間の問題。その時には私たちも戦場にいるだろうし、タスタニアの実力の程はわからないけど要は私たちが負けなければいいだけの事。そのためにも最強のメンバーを揃えたい」
エミリアの言葉にジュディは懸念を付け加えた。
「この国はそう遠くない将来、内乱に見舞われるだろう。。内と外、両方の敵と戦わねばならない場面も出てくるかもしれない。将来の事態に今から備えておくに越した事はないからな。。」
エミリアとジュディは近いうちに国内に内乱が起こると予想していた。内と外の敵に対するために一人でも多くの仲間を必要と考えていたのである。
それは皇帝ルーファスに対する反乱がそう遠くないうちに起こるであろうという二人の予感でしかなかったが、自分たちの身を守るために出来る事はすべきだと考えていたのだ。
「もちろんそうならないのが一番だけどな」
イアル民族以外のユージット民族、ロバイト民族、ネープ民族を帝国から排除する民族浄化法、後世の歴史家たちから「ルーファス法」と呼ばれた悪法を打ち出したルーファスはイアル民族以外からは当然のように恨まれている。
ユージット民族はタスタニアのほぼ過半数を占める民族だし、ロバイト民族は東洋の流れを引いている。
またネープ民族は美人が多い事で知られている民族で、ネープ民族の女性と結婚するイアル民族やユージット民族は数多く存在する。
前述したモニカの母アイリーンもネープ民族だし、タスタニアのシャローラもネープ民族の血を引く一人である。
こういったイアル民族以外の民族が弾圧を受け、自分たちが住める新天地を求めて帝国から移住した先がタスタニアである。
タスタニアは建国してまだ歴史が浅いが他民族国家になりつつあった。
ルーファス法の事が頭に浮かんだエミリアは周りの人たちに気づかれないように小声でジュディに話しかけた。
「私にはイアル民族が他民族と比較して優秀などとは思えないけどな。民族が違えば特徴も能力も違うだろうし、それぞれの特技を活かしあって仲良く暮らせばいいと思うのは考えが甘いのかな?」
エミリアがそう言うとジュディも同意する。
「いや、それがまともな考え方だと思うよ。少なくともイアル民族以外は認めないなんていう暴挙よりはるかにな。それそれの民族が互いを尊重して暮らせるような国になればいいんだけどな。現実はそれに程遠いよな」
こんな事を見回り中の兵士や警備兵に聞かれたら国家反逆罪で即拘束である。
二人は辺りを気にしながら小声でそんな会話を交わすと、競技場から帰路に着いた。
理想と現実の乖離。
セリアたちが暮らすロマリア帝国は皇帝ルーファスの悪法で苦しむ人が数多くいる一方で、イアル民族の貴族たちは何不自由なく裕福な暮らしをしているという問題を抱えていたのである。
モニカは義兄であるオスカーとそんな自国を変えたいと思い、ジュディたちと同様にそのための仲間を探している。
このメンバーがやがて互いに共闘する事になるのにそれほどの時間はかからなかったのである。
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