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第一章 士官学校時代編
セリア・フォン・フレーベル
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ロマリア帝国首都ハーフェン。
街の総面積が五五〇ヘクタールもある巨大な都市に国の人口二十五万人のうちの十万人がこの首都ハーフェンで暮らしている。
ハーフェンの最深部には皇帝ルーファスが居住する宮殿アンタレスがあり、街全体の五分の一にもなるおよそ一五〇ヘクタールもの広大な敷地に皇帝が住居として住む以外に王族や臣下たちも生活し、国の行政を司る機能の中枢ともなる宮殿である。
首都ハーフェンの人口十万人の内の二万人はこのアンタレスで暮らす上流、中流階級の貴族とその従者であった。
この宮廷内には騎士学校があり、貴族の子息たちが剣術や用兵を学ぶために建てられた貴族専門の学校である。
そしてティファが学校に通っていたほぼ同時期、ロマリア帝国ではセリア・フォン・フレーベルとその親友ソレーヌ・ベルジェの二人が宮廷内の学校に通う生徒の中にいた。
ともに十八歳で二人は家が近所で幼なじみであった。セリアの住む家のすぐ近くにソレーヌが引っ越してきた時から二人は気心知れた友人となり、以降常に二人で行動してきた。
共に裕福な家の出身ではなかったが、現帝国皇帝ルーファス・フォン・フリードリヒの娘である皇女モニカの資金援助によって入学するとその才能の片鱗を見せ始め学生たちの間でも一目置かれるようになっていった
皇女モニカは格式や貧富の差に関わらず才能ある者を積極的に育成すべきとの考えから自らの財産を支出してこのような援助を行なっていた。セリアもソレーヌも将来のためには利用出来るものは何でも利用しようと考えていたのでこの援助を受け貴族専門の学校に入学したのである。
セリアは剣術も学生の中でも上位であり、戦術眼にも長けていた。
その才能は他の生徒たちにも一目置かれる存在であったがその一方で一部の貴族たちからは貧乏人が調子に乗ってと冷ややかな目で見られていたが、セリアはそんな貴族たちは歯牙にもかけなかった。
ティファと違いセリアは負けん気が強く時にはケンカも辞さないほどであったが、自分を慕ってくる者にはとても面倒見が良く優しい人物であった。
ブラウンのショートカットに青い瞳、キリッとしているというより気の強さが現れているかのような鋭い眼。
高圧的な人間嫌い、行動力、判断力のない人間嫌い、自分を嫌う者は相手にしないが向かってきた相手は徹底的に叩くと何とも極端な性格ではあったが、尊敬する人物には敬意を持って接し、ソレーヌや仲間たちには常に親しく接して意見は聞き入れる姐御派で仲間思いの一面もあり、「氷と炎が同居しているような性格」とはソレーヌのセリア評であった。
相方のソレーヌはセミロングの茶髪に黒い瞳で目はセリアよりは優しげであるが知性を感じさせる雰囲気である。
性格的にはセリアの女房役なだけあり、常に冷静で熱くなる事は滅多になく口数は少ないが周りへの気配りも出来る知性的な女性であった。
騎士学校の入学式式典で特別にロマリア帝国宰相であるワルター・フォン・シュトルフが校長の依頼により生徒たちに入学の挨拶を兼ねた演説を行った。
「諸君が今日の晴れある日にこの場にいる事を誇りに思う。この学校で学び得た諸君の新しい力がやがて祖国の為に縦横無尽に発揮される事を期待しよう。すでに承知のように我が帝国とタスタニア王国を名乗る賊軍との戦いは四年目に突入し、我が帝国が賊軍と雌雄を決する時が近づいて来ている」
宰相の演説はだんだんと身振り手振りを交えて熱気を帯びたものになっていく。
「我々は今この時こそ共に団結し、共に苦しみを分かち合うことで帝国を輝かしい未来と栄光に導く事が出来るであろう。私は諸君が祖国の輝かしい未来のために、同じ目的に向かい運命を共にして一丸となる事を切望する。愚かにも皇帝陛下の御威光に背き、賊軍へと身を投じた反逆者どもと、それを助長したタスタニアを討ち破るのは諸君の必勝の信念と祖国への愛国心にかかっている。神は諸君を、そして我が帝国を必ずや勝利に導いてくれるであろう。皇帝陛下万歳!ロマリア帝国万歳!」
宰相の万歳三唱に生徒たちも一斉に万歳を唱えたが、セリアとソレーヌは不本意ながらそれにやる気なく付き合うように手を上げ下げしていた。
まだ将来への第一歩が始まったばかり。ここであからさまに反抗心を示すのは得策ではないと渋々の事であった。
「夢を語るならまだしも現実的ではない己の空想を風聴するだけの演説を聞くというのは時間の無駄以外何物でもないな」
「本人は自身の空想に酔いしれているがな」
「国のために兵士に死を強要するようになったら国家として末期状態だ。まあ、奴の描いているシナリオ通りに私たちが動いてやる必要もないがな」
セリアもソレーヌも国のために殉じるなどという考えを何よりも嫌っていたので、宰相の演説を自らは戦場に行く事もなく兵士を戦場に送り出すだけの貴族の空想としか捉えていなかった。
「空想演説はともかく、これでようやく私たちも第一歩が踏み出せる。必ずこの国の全軍を統率するような地位にまで上り詰めてみせる」
セリアは自身が貧しい貴族の出身な事もあり、出世欲も人一倍強かった。
「自分たちを見下している貴族どもの誰よりも上に行き、そいつらを鼻であしらってやる」
ソレーヌはそんなセリアを助け、共に歩むべく補佐役に徹していた。
いつかその目標を達成出来た時に見える景色はどんなものだろう。
そんな事を考えながら二人は軍人への第一歩を踏み出したのである。
入学してしばらく経ったある日、授業が終了してセリアとソレーヌが帰路につこうとしているところに「ちょっと待ちな」と高貴身分の貴族の子息たちがセリアとソレーヌを六人で取り囲むと、そのうちの一人が悪態をついた。
「セリアとか言ったな。随分と偉そうな態度だが、どれほどの実力があるか是非とも拝見したいものだな」
「やめておけ」
セリアは詰まらなそうな表情でそうひと言だけ言い返した。
「聞いたか?みんな。やめておけだとよ。口先だけの貧乏貴族はこれだから困るな」
その言葉に他の貴族子息たちも嘲笑を浴びせた。
しかしセリアが何食わぬ顔でやり過ごすと今度は剣を抜いて挑発してきた。
「ほら、剣を持って戦ってみろよ腰抜けが。お前ら貧乏貴族はな、隅っこで俺らの邪魔にならないように。。」
そこまでいい終えないうちにセリアの剣が目にも止まらぬ速さで一閃し、子息の両腕がへし折られた。
「ぎゃあああ」
「いい餌を与えられている割には汚らしいうめき声を上げる豚だな。お前たちが怪我をしないように穏便に済ませてやっていたものを調子づきおって」
セリアは剣を鞘から出さずに鞘のまま相手の腕に叩きつけて、子息の腕をへし折ったのだ。
「やりやがったな」
腕をおられた子息の仲間が五人かかりでセリアとソレーヌに剣を抜いて襲いかかった。
だが、二人はセリアにしたたかに頭を打たれて頭から星が飛び出てその場に倒れ、二人はソレーヌに顎と腕を折られてその場にうずくまった。
残る一人は仲間を見捨てて逃げ出て行った。
「お前たちの友情は素晴らしいな。仲間がやられたら一目散に逃げ出すんだからな」
セリアは思わず鼻で笑ってしまった。
群れを成している奴らなど所詮この程度かと。
「ソレーヌ、この学校内にも私たちが一目置くような奴は必ずいる。そいつらを仲間に引き入れて将来の足掛かりを作って行きたいと思ってはいるが、こうもくだらない連中ばかりではな」
「焦らなくていいさ。この学校には千人以上の学生がいる。実力のある奴がいればいずれ私たちの耳にも情報は入ってくるさ。三年間ある。気長に探すとしよう」
「ああ、そうだな」
セリアとソレーヌはいずれ軍に入隊して上を目指すためには優秀な味方を増やしていきたいと考えていた。
この学校は帝国内から選ばれた生徒の集まり。
くだらない貴族子息よりも、セリアとソレーヌと同じ一般の民間出身者の方がはるかに多い。
その中には街の闘技場で活躍するような騎士の卵たちもいるはず。
セリアとソレーヌは貴族子息と対立しながらも、実力のある人物を探していた。
なお後日談だが、痛い目に遭わされた子息たちは親の権力でセリアたちに懲罰を喰らわせるよう学校に働きかけたが、先に突っかかったのは子息たちの方と門限払いされてしまう。
親たちは二度とセリアとその仲間たちに絡まないよう子息にきつく言い渡し、子息たちは不満を訴えたが聞き入れられなかった。
裏で伯爵クラスの連中でも逆らえない「力」が働いていたからである。
街の総面積が五五〇ヘクタールもある巨大な都市に国の人口二十五万人のうちの十万人がこの首都ハーフェンで暮らしている。
ハーフェンの最深部には皇帝ルーファスが居住する宮殿アンタレスがあり、街全体の五分の一にもなるおよそ一五〇ヘクタールもの広大な敷地に皇帝が住居として住む以外に王族や臣下たちも生活し、国の行政を司る機能の中枢ともなる宮殿である。
首都ハーフェンの人口十万人の内の二万人はこのアンタレスで暮らす上流、中流階級の貴族とその従者であった。
この宮廷内には騎士学校があり、貴族の子息たちが剣術や用兵を学ぶために建てられた貴族専門の学校である。
そしてティファが学校に通っていたほぼ同時期、ロマリア帝国ではセリア・フォン・フレーベルとその親友ソレーヌ・ベルジェの二人が宮廷内の学校に通う生徒の中にいた。
ともに十八歳で二人は家が近所で幼なじみであった。セリアの住む家のすぐ近くにソレーヌが引っ越してきた時から二人は気心知れた友人となり、以降常に二人で行動してきた。
共に裕福な家の出身ではなかったが、現帝国皇帝ルーファス・フォン・フリードリヒの娘である皇女モニカの資金援助によって入学するとその才能の片鱗を見せ始め学生たちの間でも一目置かれるようになっていった
皇女モニカは格式や貧富の差に関わらず才能ある者を積極的に育成すべきとの考えから自らの財産を支出してこのような援助を行なっていた。セリアもソレーヌも将来のためには利用出来るものは何でも利用しようと考えていたのでこの援助を受け貴族専門の学校に入学したのである。
セリアは剣術も学生の中でも上位であり、戦術眼にも長けていた。
その才能は他の生徒たちにも一目置かれる存在であったがその一方で一部の貴族たちからは貧乏人が調子に乗ってと冷ややかな目で見られていたが、セリアはそんな貴族たちは歯牙にもかけなかった。
ティファと違いセリアは負けん気が強く時にはケンカも辞さないほどであったが、自分を慕ってくる者にはとても面倒見が良く優しい人物であった。
ブラウンのショートカットに青い瞳、キリッとしているというより気の強さが現れているかのような鋭い眼。
高圧的な人間嫌い、行動力、判断力のない人間嫌い、自分を嫌う者は相手にしないが向かってきた相手は徹底的に叩くと何とも極端な性格ではあったが、尊敬する人物には敬意を持って接し、ソレーヌや仲間たちには常に親しく接して意見は聞き入れる姐御派で仲間思いの一面もあり、「氷と炎が同居しているような性格」とはソレーヌのセリア評であった。
相方のソレーヌはセミロングの茶髪に黒い瞳で目はセリアよりは優しげであるが知性を感じさせる雰囲気である。
性格的にはセリアの女房役なだけあり、常に冷静で熱くなる事は滅多になく口数は少ないが周りへの気配りも出来る知性的な女性であった。
騎士学校の入学式式典で特別にロマリア帝国宰相であるワルター・フォン・シュトルフが校長の依頼により生徒たちに入学の挨拶を兼ねた演説を行った。
「諸君が今日の晴れある日にこの場にいる事を誇りに思う。この学校で学び得た諸君の新しい力がやがて祖国の為に縦横無尽に発揮される事を期待しよう。すでに承知のように我が帝国とタスタニア王国を名乗る賊軍との戦いは四年目に突入し、我が帝国が賊軍と雌雄を決する時が近づいて来ている」
宰相の演説はだんだんと身振り手振りを交えて熱気を帯びたものになっていく。
「我々は今この時こそ共に団結し、共に苦しみを分かち合うことで帝国を輝かしい未来と栄光に導く事が出来るであろう。私は諸君が祖国の輝かしい未来のために、同じ目的に向かい運命を共にして一丸となる事を切望する。愚かにも皇帝陛下の御威光に背き、賊軍へと身を投じた反逆者どもと、それを助長したタスタニアを討ち破るのは諸君の必勝の信念と祖国への愛国心にかかっている。神は諸君を、そして我が帝国を必ずや勝利に導いてくれるであろう。皇帝陛下万歳!ロマリア帝国万歳!」
宰相の万歳三唱に生徒たちも一斉に万歳を唱えたが、セリアとソレーヌは不本意ながらそれにやる気なく付き合うように手を上げ下げしていた。
まだ将来への第一歩が始まったばかり。ここであからさまに反抗心を示すのは得策ではないと渋々の事であった。
「夢を語るならまだしも現実的ではない己の空想を風聴するだけの演説を聞くというのは時間の無駄以外何物でもないな」
「本人は自身の空想に酔いしれているがな」
「国のために兵士に死を強要するようになったら国家として末期状態だ。まあ、奴の描いているシナリオ通りに私たちが動いてやる必要もないがな」
セリアもソレーヌも国のために殉じるなどという考えを何よりも嫌っていたので、宰相の演説を自らは戦場に行く事もなく兵士を戦場に送り出すだけの貴族の空想としか捉えていなかった。
「空想演説はともかく、これでようやく私たちも第一歩が踏み出せる。必ずこの国の全軍を統率するような地位にまで上り詰めてみせる」
セリアは自身が貧しい貴族の出身な事もあり、出世欲も人一倍強かった。
「自分たちを見下している貴族どもの誰よりも上に行き、そいつらを鼻であしらってやる」
ソレーヌはそんなセリアを助け、共に歩むべく補佐役に徹していた。
いつかその目標を達成出来た時に見える景色はどんなものだろう。
そんな事を考えながら二人は軍人への第一歩を踏み出したのである。
入学してしばらく経ったある日、授業が終了してセリアとソレーヌが帰路につこうとしているところに「ちょっと待ちな」と高貴身分の貴族の子息たちがセリアとソレーヌを六人で取り囲むと、そのうちの一人が悪態をついた。
「セリアとか言ったな。随分と偉そうな態度だが、どれほどの実力があるか是非とも拝見したいものだな」
「やめておけ」
セリアは詰まらなそうな表情でそうひと言だけ言い返した。
「聞いたか?みんな。やめておけだとよ。口先だけの貧乏貴族はこれだから困るな」
その言葉に他の貴族子息たちも嘲笑を浴びせた。
しかしセリアが何食わぬ顔でやり過ごすと今度は剣を抜いて挑発してきた。
「ほら、剣を持って戦ってみろよ腰抜けが。お前ら貧乏貴族はな、隅っこで俺らの邪魔にならないように。。」
そこまでいい終えないうちにセリアの剣が目にも止まらぬ速さで一閃し、子息の両腕がへし折られた。
「ぎゃあああ」
「いい餌を与えられている割には汚らしいうめき声を上げる豚だな。お前たちが怪我をしないように穏便に済ませてやっていたものを調子づきおって」
セリアは剣を鞘から出さずに鞘のまま相手の腕に叩きつけて、子息の腕をへし折ったのだ。
「やりやがったな」
腕をおられた子息の仲間が五人かかりでセリアとソレーヌに剣を抜いて襲いかかった。
だが、二人はセリアにしたたかに頭を打たれて頭から星が飛び出てその場に倒れ、二人はソレーヌに顎と腕を折られてその場にうずくまった。
残る一人は仲間を見捨てて逃げ出て行った。
「お前たちの友情は素晴らしいな。仲間がやられたら一目散に逃げ出すんだからな」
セリアは思わず鼻で笑ってしまった。
群れを成している奴らなど所詮この程度かと。
「ソレーヌ、この学校内にも私たちが一目置くような奴は必ずいる。そいつらを仲間に引き入れて将来の足掛かりを作って行きたいと思ってはいるが、こうもくだらない連中ばかりではな」
「焦らなくていいさ。この学校には千人以上の学生がいる。実力のある奴がいればいずれ私たちの耳にも情報は入ってくるさ。三年間ある。気長に探すとしよう」
「ああ、そうだな」
セリアとソレーヌはいずれ軍に入隊して上を目指すためには優秀な味方を増やしていきたいと考えていた。
この学校は帝国内から選ばれた生徒の集まり。
くだらない貴族子息よりも、セリアとソレーヌと同じ一般の民間出身者の方がはるかに多い。
その中には街の闘技場で活躍するような騎士の卵たちもいるはず。
セリアとソレーヌは貴族子息と対立しながらも、実力のある人物を探していた。
なお後日談だが、痛い目に遭わされた子息たちは親の権力でセリアたちに懲罰を喰らわせるよう学校に働きかけたが、先に突っかかったのは子息たちの方と門限払いされてしまう。
親たちは二度とセリアとその仲間たちに絡まないよう子息にきつく言い渡し、子息たちは不満を訴えたが聞き入れられなかった。
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