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大奥暗殺帳編
大奥暗殺帳 三
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「今宵は月光院と夕餉を共にする」
吉宗の通達が大奥に入ると、大奥では将軍来訪の準備を行う。
「今宵、上様は月光院様と夕餉を共にされるゆえ、月光院様は六つ時〔夕方六時ごろ〕にお座敷においで下さいますようお願い申し上げます」
御広敷用人からの伝達に月光院付き中臈の高島まつ「かしこまりました」と手を付き下がると、すぐに夕餉の準備に取り掛かった。
月光院の命を狙う高島であったが、さすがに奥中臈の仕事をないがしろにするわけにはいかず、準備に奔走した。
そして大奥に吉宗が姿を表すと高島まつはその出迎えに上がる。
その際、吉宗が連れてきた若い女武士に目がいく。
「上様、その者は?素性の知れぬ者をこれより先に入らせる訳にはいきませぬぞ。それに大奥に入るのに腰の物を持ち込まれてはなりませぬ」
「こやつは御庭番だ。お主も知っておろう。大奥で月光院の命を狙う輩がいる事を」
吉宗の問いに高島は「はい」と小さな声で返事をした。
「こやつは月光院と天英院を守るために大奥に使わすのだ。二人の命を守る者を余が使わすのに何の害があろう?のう高島」
吉宗にそう言われてしまったら高島は内心舌打ちをしながら認めるしかなかった。
「さようでございましたか。上様のご深謀、私の及ぶところではございませんでした。ご無礼をお許し下さい」
「上様、ご機嫌麗しゅう」
月光院は久しぶりの将軍との会食に心が躍るようであった。
二人は食事をとりながら御中臈たちの目もあり、他愛のない会話を交わせていたが、食事が一段落したところで吉宗がお付きの中臈と女中たちに命じる。
「これより二人で話がしたい。他の者は外せ」
吉宗の命令に高島を始めとする女中が躊躇したが、月光院から「上様の仰せであらせられるぞ。下がりなさい」と言われると全員が部屋から退出した。
この時、高島は密かに隣り部屋に残り会話を盗み聞きしようとしたが、桜に恫喝された。
「上様の仰せに逆らうのであれば御中臈と言えどもこの場で無礼討ちにする」
小太刀を首筋当てられ、高島は慌てて部屋から逃げ出していった。
「そちの命を狙う輩がこの大奥に潜んでいるとおおよそは伺っている。危険なのお前だけではない。天英院や他の者にも危害を加える可能性もある。その人物の狙いが大奥で権力を握る事であるならな」
「私はこの大奥に来て長うございます。この程度でいちいち怖気ていては御台所など務まりません」
月光院はそう言って笑った。
それが吉宗には強がっているようにも見えた。
「桜。来い!」
吉宗が桜を呼び寄せる。
「松平桜と申します。月光院様、どうぞよろしくお願い致します」
桜は月光院に平伏して挨拶する。
「この桜は余の御庭番でも最強の実力を持つ剣客。桜をお前の護衛に付ける。普段は女中の姿をしているので普通に使ってくれて構わぬぞ」
月光院は吉宗の言葉にも驚くが、桜の容姿にも目を見張る。
「桜と申しましたね。そなた、普通に大奥に女中として来ても御台所になれるほど容姿端麗で驚きました」
「恐れ入ります」
「よせ、余は桜を御台所にするつもりはないぞ」
「ほんの戯れにございますよ」
月光院と吉宗は笑いながら会話していたが、桜は唐突な月光院の言葉に心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。
「桜は鬼頭泉凪とは気心しれた仲。二人で協力してお前と天英院を守ってくれるだろう。この事は天英院と錦小路にも伝えてある。大奥にはびこる悪を炙り出すため、この二人と鬼頭泉凪の手助けをよろしく頼んだぞ」
「上様のお心遣い、感謝致します」
月光院がそこまで言い終えるか終えない時、桜が突然刀に手を掛け身構えた。
吉宗も何者かの気配に気がついた。
「上様、月光院様。お気をつけ下さい」
「何やら得体の知れぬ者がいるようだな」
吉宗は腰の物を置いてきている。
ここは桜に任せるしかない
だが、「得体の知れない」殺気は間もなく消え失せた。
「消えました。。ひとまず危険は去ったようです」
「しかしこれでは月光院から目が離せぬな。桜を連れてきて正解だったと言うことか」
そこに泉凪がかけつけてきた。
「月光院様、ご無事で?」
部屋に入るなり、桜の姿を目にした泉凪だが吉宗の顔を知らずに思わず剣に手をかけた。
「何者か?月光院様から離れろ!」
「泉凪!控えよ!上様であられるぞ」
桜の声に泉凪は一瞬きょとんとしたが、状況が理解出来るとその場に平伏して謝罪した。
「上様とは存じ上げず大変なご無礼を申し上げました」
その光景に吉宗は笑い声を上げる。
「余の顔もまだまだ知られておられぬものよの。良い良い。お主が鬼頭泉凪か?」
「はい。大奥別式、鬼頭泉凪でございます」
「見ての通り桜を連れて来た。二人で月光院と天英院を守ってくれ」
「はっ!」
それを見ていた月光院からも思わず笑みがこぼれる。
「久しぶりに心から笑った気がします。上様、今宵は楽しかったです。ありがとうございました」
吉宗が中奥へと戻るまで月光院と桜、泉凪は見送りした。
「まったく。。吉宗様でなければその場で打ち首ものだったぞ」
「すまない。。」
桜に注意され泉凪はしきりに頭を掻く仕草をする。
「そなたたち、今宵はもう遅いから私は床に着きますが、後を頼みますよ」
月光院にそう言われて二人は平伏した。
「月光院様、初めて会った時に比べればずいぶん物腰柔らかくなった気がする」
「泉凪が信頼出来るとお認めになられたのかも知れないね。その信頼に応えるためにも必ずお守りしなければ」
桜と泉凪は互いに目を合わせて頷き合った。
「泉凪、お前は月光院様をお守りしろ。私は天英院様のところへ行く。何事も無ければいいが」
「わかった。月光院様は任せてくれ。天英院様をよろしく頼む」
⭐︎⭐︎⭐︎
「。。ちっ!高島殿から吉宗と月光院が揃っているから標的を変更だと言われて来たが、思わぬ邪魔者がいた。あれが別式か。。大魚を逃したわ」
高島は吉宗来訪を聞きつけて、源九郎に急遽変更して月光院と吉宗の命を狙わせたが、桜に防がれる形となった。
源九郎はもしあの場で桜に斬りかかれば良くて相打ちと判断して諦めたのだ。
「月光院の奴、なかなかに手強い護衛が付いている。まあよい。楽しみは後に残しておこう」
吉宗の通達が大奥に入ると、大奥では将軍来訪の準備を行う。
「今宵、上様は月光院様と夕餉を共にされるゆえ、月光院様は六つ時〔夕方六時ごろ〕にお座敷においで下さいますようお願い申し上げます」
御広敷用人からの伝達に月光院付き中臈の高島まつ「かしこまりました」と手を付き下がると、すぐに夕餉の準備に取り掛かった。
月光院の命を狙う高島であったが、さすがに奥中臈の仕事をないがしろにするわけにはいかず、準備に奔走した。
そして大奥に吉宗が姿を表すと高島まつはその出迎えに上がる。
その際、吉宗が連れてきた若い女武士に目がいく。
「上様、その者は?素性の知れぬ者をこれより先に入らせる訳にはいきませぬぞ。それに大奥に入るのに腰の物を持ち込まれてはなりませぬ」
「こやつは御庭番だ。お主も知っておろう。大奥で月光院の命を狙う輩がいる事を」
吉宗の問いに高島は「はい」と小さな声で返事をした。
「こやつは月光院と天英院を守るために大奥に使わすのだ。二人の命を守る者を余が使わすのに何の害があろう?のう高島」
吉宗にそう言われてしまったら高島は内心舌打ちをしながら認めるしかなかった。
「さようでございましたか。上様のご深謀、私の及ぶところではございませんでした。ご無礼をお許し下さい」
「上様、ご機嫌麗しゅう」
月光院は久しぶりの将軍との会食に心が躍るようであった。
二人は食事をとりながら御中臈たちの目もあり、他愛のない会話を交わせていたが、食事が一段落したところで吉宗がお付きの中臈と女中たちに命じる。
「これより二人で話がしたい。他の者は外せ」
吉宗の命令に高島を始めとする女中が躊躇したが、月光院から「上様の仰せであらせられるぞ。下がりなさい」と言われると全員が部屋から退出した。
この時、高島は密かに隣り部屋に残り会話を盗み聞きしようとしたが、桜に恫喝された。
「上様の仰せに逆らうのであれば御中臈と言えどもこの場で無礼討ちにする」
小太刀を首筋当てられ、高島は慌てて部屋から逃げ出していった。
「そちの命を狙う輩がこの大奥に潜んでいるとおおよそは伺っている。危険なのお前だけではない。天英院や他の者にも危害を加える可能性もある。その人物の狙いが大奥で権力を握る事であるならな」
「私はこの大奥に来て長うございます。この程度でいちいち怖気ていては御台所など務まりません」
月光院はそう言って笑った。
それが吉宗には強がっているようにも見えた。
「桜。来い!」
吉宗が桜を呼び寄せる。
「松平桜と申します。月光院様、どうぞよろしくお願い致します」
桜は月光院に平伏して挨拶する。
「この桜は余の御庭番でも最強の実力を持つ剣客。桜をお前の護衛に付ける。普段は女中の姿をしているので普通に使ってくれて構わぬぞ」
月光院は吉宗の言葉にも驚くが、桜の容姿にも目を見張る。
「桜と申しましたね。そなた、普通に大奥に女中として来ても御台所になれるほど容姿端麗で驚きました」
「恐れ入ります」
「よせ、余は桜を御台所にするつもりはないぞ」
「ほんの戯れにございますよ」
月光院と吉宗は笑いながら会話していたが、桜は唐突な月光院の言葉に心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。
「桜は鬼頭泉凪とは気心しれた仲。二人で協力してお前と天英院を守ってくれるだろう。この事は天英院と錦小路にも伝えてある。大奥にはびこる悪を炙り出すため、この二人と鬼頭泉凪の手助けをよろしく頼んだぞ」
「上様のお心遣い、感謝致します」
月光院がそこまで言い終えるか終えない時、桜が突然刀に手を掛け身構えた。
吉宗も何者かの気配に気がついた。
「上様、月光院様。お気をつけ下さい」
「何やら得体の知れぬ者がいるようだな」
吉宗は腰の物を置いてきている。
ここは桜に任せるしかない
だが、「得体の知れない」殺気は間もなく消え失せた。
「消えました。。ひとまず危険は去ったようです」
「しかしこれでは月光院から目が離せぬな。桜を連れてきて正解だったと言うことか」
そこに泉凪がかけつけてきた。
「月光院様、ご無事で?」
部屋に入るなり、桜の姿を目にした泉凪だが吉宗の顔を知らずに思わず剣に手をかけた。
「何者か?月光院様から離れろ!」
「泉凪!控えよ!上様であられるぞ」
桜の声に泉凪は一瞬きょとんとしたが、状況が理解出来るとその場に平伏して謝罪した。
「上様とは存じ上げず大変なご無礼を申し上げました」
その光景に吉宗は笑い声を上げる。
「余の顔もまだまだ知られておられぬものよの。良い良い。お主が鬼頭泉凪か?」
「はい。大奥別式、鬼頭泉凪でございます」
「見ての通り桜を連れて来た。二人で月光院と天英院を守ってくれ」
「はっ!」
それを見ていた月光院からも思わず笑みがこぼれる。
「久しぶりに心から笑った気がします。上様、今宵は楽しかったです。ありがとうございました」
吉宗が中奥へと戻るまで月光院と桜、泉凪は見送りした。
「まったく。。吉宗様でなければその場で打ち首ものだったぞ」
「すまない。。」
桜に注意され泉凪はしきりに頭を掻く仕草をする。
「そなたたち、今宵はもう遅いから私は床に着きますが、後を頼みますよ」
月光院にそう言われて二人は平伏した。
「月光院様、初めて会った時に比べればずいぶん物腰柔らかくなった気がする」
「泉凪が信頼出来るとお認めになられたのかも知れないね。その信頼に応えるためにも必ずお守りしなければ」
桜と泉凪は互いに目を合わせて頷き合った。
「泉凪、お前は月光院様をお守りしろ。私は天英院様のところへ行く。何事も無ければいいが」
「わかった。月光院様は任せてくれ。天英院様をよろしく頼む」
⭐︎⭐︎⭐︎
「。。ちっ!高島殿から吉宗と月光院が揃っているから標的を変更だと言われて来たが、思わぬ邪魔者がいた。あれが別式か。。大魚を逃したわ」
高島は吉宗来訪を聞きつけて、源九郎に急遽変更して月光院と吉宗の命を狙わせたが、桜に防がれる形となった。
源九郎はもしあの場で桜に斬りかかれば良くて相打ちと判断して諦めたのだ。
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