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序章
偽高麗人参事件 後
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左近は伊勢屋に屋根から侵入し、天井裏に忍び込んだ。
剣の桜に忍びの左近と源心
三人はそれぞれの特技を生かし、任務を行なっている。
「取り逃しただと?」
「申し訳ない。あの腕からしておそらく公儀の隠密。。三河屋夫婦は口を封じたからここまでは足がついてないとは思うが」
「まずいぞ。隠密はどこまで調べ上げてるのかわからぬが、江戸での商売はいったん切り上げて上方〔現代の関西〕にでもブツを運び込むか」
この会話を左近が天井裏で聞いていた。
「上方になど逃すものか」
「伊勢屋が近日中に偽の高麗人参を上方に運ぶというのか?」
大岡越前の問いに左近が答える。
「はい。伊勢屋は昼間に通常の積荷を陸路から運んで奉行所の検分を逃れ、夜に川から船を使って偽の高麗人参を運ぶつもりのようです」
大岡越前はしばらく考えていた。
確たる証拠もなしに奉行所は動くことは出来ない。
それを察して左近が大岡越前に提案する。
「大岡様、私と桜でその船を取り押さえます。証拠となる偽の高麗人参が出てくれば奉行所が動けます。万一違っていたとしても奉行所には何の関係もございません」
「わかった。くれぐれも気をつけてな」
⭐︎⭐︎⭐︎
「早くしねえか!」
怒号が飛ぶ中、夜中の川に船が数隻。
船には次々と荷物が積まれていく。
その周辺には見張りと思われれる用心棒風の侍と威勢のいい若手集が辺りを警戒している。
ネズミ一匹入り込む隙もない。
はずであった。
その包囲網をあざ笑うかのように二人の御庭番が斬り込んでいく。
「何者だ、てめえら」
襲い掛かる侍たちに桜と左近の剣が悲鳴と血飛沫の霧を舞わせる。
「何事だ?」
「旦那様、積荷が襲われています。恐らく隠密の仕業。。」
「隠密はどれくらいいるのだ?」
「それが。。二人でございます」
「二人? たった二人にこれだけの人数で抑えられぬとは。お前たちにいくら払ってると思っているのだ」
伊勢屋五郎右衛門は怒りをあらわにする。
「始末しろ! 生かして帰すな」
その掛け声と共に用心棒の浪人たちが一斉に桜と左近に襲い掛かる。
その数十人。
桜は四方からくる浪人たちをまるで無人の荒野を進むが如く斬り倒していく。
左近も逆手斬りで一人また一人と斬り倒す。
「桜、船の積荷を!」
左近の声に桜が素早く船に乗り込み、積荷の一つを刀で斬り裂くと中から大量の木箱が崩れ落ちる。
その内の一つを手に取り、蓋を開けると中身は予想通り偽の高麗人参であった。
「姉さん、あったよ。動かぬ証拠が」
「よし、大岡様にご報告する」
左近は持っていた筒を取り出して火をつけると上に向けて狼煙を上げた。
南町奉行所で合図を待っていた大岡越前は左近の上げた狼煙を確認するとすぐさま出動命令を出した。
「これより日本橋積荷問屋、伊勢屋を取り押さえる」
南町奉行所から同心たちが一斉に出動する。
積荷の中身を確認した桜と左近に伊勢屋の主人、伊勢屋五郎右衛門が近づいてくる。
「お前が伊勢屋の主人か?」
「まさかこんな女子二人にここまでやられるとは。。貴様ら隠密か?」
「将軍家御庭番。松平桜」
「同じく十文字左近」
二人の正体を知ると五郎右衛門は懐から火縄銃を取り出した。
「わしのせめてもの抵抗としてお前らの命をもらう。いくらお前らが手練れでも銃には勝てまい」
五郎右衛門が桜に銃を向けると桜も剣を中段に構える。
「死ね!」
"斬‼︎"
五郎右衛門が銃の引き金を引こうとした時、彼の腕は地面にポトリと落ちていた。
「な。。」
「桜流抜刀術焔乃舞」
十メートル以内の距離なら銃よりも桜の剣の方が速い。
一瞬にして腕を斬り落とされた五郎右衛門は悲鳴をあげてその場にうずくまった。
「私たちの命を狙った代償が腕一本。それで済ませてやったんだ、感謝しな」
桜は冷たい目で言い放つ。
「桜、大岡様が到着するよ」
左近の声で桜は血降りをし、納刀すると急ぎ伊勢屋から離れた。
「私たちの仕事はここまで。あとは大岡様にお任せしよう」
左近の言葉に桜もうなずいた。
こうして江戸で偽の高麗人参を売り捌いていた伊勢屋とその手下たちは積荷が動かぬ証拠となり、南町奉行所に捕らえられた。
追って厳しい沙汰が降るであろう。
「桜、左近。よくやってくれた。これで偽の高麗人参が出回る事もあるまい。彩雲からも感謝の言葉をもらっているぞ」
大岡越前の礼の言葉に桜と左近はお辞儀をする。
「私たちは自分の役目を果たしただけでございます。大岡様のご協力に感謝致します」
こうして偽の高麗人参事件は一件落着した。
吉宗は需要に対して供給の追いつかない朝鮮人参を国内で生産する事に力を入れていた。
その努力もあり、享保十年 (一七二五年) 日光にある幕府直営の農園での栽培に成功した。
それから朝鮮人参の栽培は日本全国に広がり、江戸のほか、小石川、佐渡島、仙台、土佐にも栽培拠点を構えていたとも言われている。
「それはようござんしたね」
源心が不貞腐れた態度で桜と左近に言う。
「ねえ、源心は何を怒ってるの?」
桜の耳打ちに左近がにやにやしながら答える。
「置いてきぼり食わされたから機嫌悪いんだよ」
「なあんだ。源心って案外子供なんだね」
「子供とは何だ!」
「おお、怖い。姉さん、源心の頭が冷えるまで一人にしといてお団子でも食べに行こう」
「いいね。じゃあ源心、留守番よろしくね」
「ちょっと待て。。また留守番かよ」
哀れ源心。
女性陣二人を敵に回したら恐ろしいとあらためて知る事になったのである。
剣の桜に忍びの左近と源心
三人はそれぞれの特技を生かし、任務を行なっている。
「取り逃しただと?」
「申し訳ない。あの腕からしておそらく公儀の隠密。。三河屋夫婦は口を封じたからここまでは足がついてないとは思うが」
「まずいぞ。隠密はどこまで調べ上げてるのかわからぬが、江戸での商売はいったん切り上げて上方〔現代の関西〕にでもブツを運び込むか」
この会話を左近が天井裏で聞いていた。
「上方になど逃すものか」
「伊勢屋が近日中に偽の高麗人参を上方に運ぶというのか?」
大岡越前の問いに左近が答える。
「はい。伊勢屋は昼間に通常の積荷を陸路から運んで奉行所の検分を逃れ、夜に川から船を使って偽の高麗人参を運ぶつもりのようです」
大岡越前はしばらく考えていた。
確たる証拠もなしに奉行所は動くことは出来ない。
それを察して左近が大岡越前に提案する。
「大岡様、私と桜でその船を取り押さえます。証拠となる偽の高麗人参が出てくれば奉行所が動けます。万一違っていたとしても奉行所には何の関係もございません」
「わかった。くれぐれも気をつけてな」
⭐︎⭐︎⭐︎
「早くしねえか!」
怒号が飛ぶ中、夜中の川に船が数隻。
船には次々と荷物が積まれていく。
その周辺には見張りと思われれる用心棒風の侍と威勢のいい若手集が辺りを警戒している。
ネズミ一匹入り込む隙もない。
はずであった。
その包囲網をあざ笑うかのように二人の御庭番が斬り込んでいく。
「何者だ、てめえら」
襲い掛かる侍たちに桜と左近の剣が悲鳴と血飛沫の霧を舞わせる。
「何事だ?」
「旦那様、積荷が襲われています。恐らく隠密の仕業。。」
「隠密はどれくらいいるのだ?」
「それが。。二人でございます」
「二人? たった二人にこれだけの人数で抑えられぬとは。お前たちにいくら払ってると思っているのだ」
伊勢屋五郎右衛門は怒りをあらわにする。
「始末しろ! 生かして帰すな」
その掛け声と共に用心棒の浪人たちが一斉に桜と左近に襲い掛かる。
その数十人。
桜は四方からくる浪人たちをまるで無人の荒野を進むが如く斬り倒していく。
左近も逆手斬りで一人また一人と斬り倒す。
「桜、船の積荷を!」
左近の声に桜が素早く船に乗り込み、積荷の一つを刀で斬り裂くと中から大量の木箱が崩れ落ちる。
その内の一つを手に取り、蓋を開けると中身は予想通り偽の高麗人参であった。
「姉さん、あったよ。動かぬ証拠が」
「よし、大岡様にご報告する」
左近は持っていた筒を取り出して火をつけると上に向けて狼煙を上げた。
南町奉行所で合図を待っていた大岡越前は左近の上げた狼煙を確認するとすぐさま出動命令を出した。
「これより日本橋積荷問屋、伊勢屋を取り押さえる」
南町奉行所から同心たちが一斉に出動する。
積荷の中身を確認した桜と左近に伊勢屋の主人、伊勢屋五郎右衛門が近づいてくる。
「お前が伊勢屋の主人か?」
「まさかこんな女子二人にここまでやられるとは。。貴様ら隠密か?」
「将軍家御庭番。松平桜」
「同じく十文字左近」
二人の正体を知ると五郎右衛門は懐から火縄銃を取り出した。
「わしのせめてもの抵抗としてお前らの命をもらう。いくらお前らが手練れでも銃には勝てまい」
五郎右衛門が桜に銃を向けると桜も剣を中段に構える。
「死ね!」
"斬‼︎"
五郎右衛門が銃の引き金を引こうとした時、彼の腕は地面にポトリと落ちていた。
「な。。」
「桜流抜刀術焔乃舞」
十メートル以内の距離なら銃よりも桜の剣の方が速い。
一瞬にして腕を斬り落とされた五郎右衛門は悲鳴をあげてその場にうずくまった。
「私たちの命を狙った代償が腕一本。それで済ませてやったんだ、感謝しな」
桜は冷たい目で言い放つ。
「桜、大岡様が到着するよ」
左近の声で桜は血降りをし、納刀すると急ぎ伊勢屋から離れた。
「私たちの仕事はここまで。あとは大岡様にお任せしよう」
左近の言葉に桜もうなずいた。
こうして江戸で偽の高麗人参を売り捌いていた伊勢屋とその手下たちは積荷が動かぬ証拠となり、南町奉行所に捕らえられた。
追って厳しい沙汰が降るであろう。
「桜、左近。よくやってくれた。これで偽の高麗人参が出回る事もあるまい。彩雲からも感謝の言葉をもらっているぞ」
大岡越前の礼の言葉に桜と左近はお辞儀をする。
「私たちは自分の役目を果たしただけでございます。大岡様のご協力に感謝致します」
こうして偽の高麗人参事件は一件落着した。
吉宗は需要に対して供給の追いつかない朝鮮人参を国内で生産する事に力を入れていた。
その努力もあり、享保十年 (一七二五年) 日光にある幕府直営の農園での栽培に成功した。
それから朝鮮人参の栽培は日本全国に広がり、江戸のほか、小石川、佐渡島、仙台、土佐にも栽培拠点を構えていたとも言われている。
「それはようござんしたね」
源心が不貞腐れた態度で桜と左近に言う。
「ねえ、源心は何を怒ってるの?」
桜の耳打ちに左近がにやにやしながら答える。
「置いてきぼり食わされたから機嫌悪いんだよ」
「なあんだ。源心って案外子供なんだね」
「子供とは何だ!」
「おお、怖い。姉さん、源心の頭が冷えるまで一人にしといてお団子でも食べに行こう」
「いいね。じゃあ源心、留守番よろしくね」
「ちょっと待て。。また留守番かよ」
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