彼方の大地で綴る【四章まで完結済み】

しいたけ農場

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第四章 空と大地の交差

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 もう十年以上も前の話になる。

 下っ端の船員として転がり込んだジャックはベアトリスの言葉をよく聞き、彼女の元で励んだ。

 乱暴者だった、頭が足りない馬鹿だった。

 だが、それでも努力をした。慕った船長に追いつくために、彼女と征く旅路を少しでも長く楽しみたいから。

 ――それはつい先日、終わりを告げた。

 後に残ったのは海賊の悪名を背負ったごろつき崩れが数名。

 頭を下げて、必死で頼みこんで武装商船団に乗り込んだ。その一隻を自分達の船にと借り受けた。

 もう命も惜しくはない。


「撃て撃て撃てぇ! 嬢ちゃん達の船の道を切り開くんだ!」


 甲板に立ち、自分もマスケットを向けながらジャックは叫ぶ。

 それに続くように命知らずの荒くれ者たちが、ベアトリスの元で共に過ごしてきた仲間達が歓声を上げて、矢や銃を放つ。

 武器がなければ石を投げる。石もなくなれば雄叫びを上げて仲間を鼓舞する。

 彼等はそうして今日まで戦い続けてきた。この海の上にいる強敵達を打ち破り、航海を続けてきたのだ。


「ジャック! もう武器がねぇ!」

「やることがない奴は白兵戦に備えろ! ほら来たぁ!」


 空を裂く鳥達が、先頭に躍り出た船を破壊するために目標を切り替える。

 翼をはためかせ、その圧倒的な力による蹂躙を行おうとマストを叩き降り、その巨体を押し付けて船体を砕こうと接近してくる。


「来た来たぁ! ちょうど退屈してたんだ!」


 それを縄で絡め捕り、銃を撃ち、近付くや否や銛で突きカトラスを振り下ろす。

 人間には程遠い敵。非凡な才の持ち主でなければ手に余るその怪物は、海賊団の生き残り程度ではまともに倒すこともできないほどの強敵だった。

 甲板が砕ける。木でできた船などあの化け物からすれば玩具のようなものだ。簡単に壊されてしまう。

 一人また一人と、悲鳴を上げる間もなく海賊達が倒される。

 頭を砕かれ、四肢をその翼で薙ぎ払われて、またある者は海へと投げ出されてその命を散らしていく。

 自身も翼に打ち据えられ、甲板の上に転がりながらもジャックの視線は、前を向いていた。

 もうこの船は止まらない。

 その行く先は決まっているのだから。

 そして、世界を切り裂く音が響いた。

 それよりも早く、トルエノ・エスパーダから放たれるものがあった。

 無論それは、人の目に捉えられる速度ではなかったが。

 世界をほんの一瞬だが真っ白に染めたそれは、神への冒涜。忌むべき毒を超高速の弾丸と化して発射する。

 マーキス・フォルネウスが揺らぐ。

 御使いのセレスティアルに護られてなおその船体は着弾の衝撃に耐えきれず、船を構成する木材を撒き散らして海へと撒き散らした。


「貫いた……!」


 誰かがそう言った。

 御使いによる強固な光の壁を、その一撃は確かに撃ち抜き破壊した。


「へっ」


 ジャックは嗤う。

 悪党は、ここで散った彼女と同じように神に唾を吐いて見せる。

 もう船は止まらない。

 ジャックの背後には巨大な鳥が迫るが、もうそんなことは関係ない。

 下にいる魚達が幾ら船体に穴を開けようと、どうしようもない位置にまで近付いているのだ。

 特等席で奴の姿が見える。

 我等が母を奪った憎き仇は、同じセレスティアルを使う少女でも、今しがたその障壁を撃ち抜いた男でもない。

 ジャックへとその憤怒を向けていた。


「神様の使いとやらよぉ! 奪った船の修理はしっかりとしたかい!」


 生き残りたちが声を上げて笑う。

 自分達の命は助からない、そんな状況でも彼等は笑い、歌う。

 腕を突いて身体を持ち上げて、最期の一言をぶちかませと、命を失いながら彼等は囃したてる。


「そのボロ船はよ、左舷が弱いんだよ!」


 遠くの海でやりあったクラーケンの置き土産。

 その巨大な足にやられた左舷には、今なお修復しきれない傷がある。

 ジャックの船はそこに向けて突撃していた。

 回避も迎撃も間に合わない。

 真っ白に明滅していく視界の中で、ジャックは大声を出して笑ってやった。

 ざまあみろ。

 海賊を舐めた結末がこれだ。

 神様の使いとやら、お前は神をも畏れぬ海賊を敵に回し、そして同じように海の底へと沈むがいい。

 大海賊ベアトリスとその仲間達が、深海で待っていてやる。
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