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第二章 魔法使いの追憶
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シノによって破壊された魔法学院を囲う壁を乗り越えて外に出ると、そこは酷い惨状だった。
あの大型のキメラは本能的に人を襲い、その命を喰らおうとしているのだろうか。剛腕を振るい、建物の壁を破壊して、その中にいる人を無差別に口の中に放り込む。
身体中から生えた口は常に咀嚼を繰り返し、その度に悲鳴が聞こえ、消えていく。
夜中だというのに光る非常灯の灯りの中で繰り広げられる光景はまさに悪夢だった。
ヨハンに背を向けていたその怪物は一度多く震えると、身体に生えた獣や虫を切り離す。
それが地面に落ちれば、別の生き物と化してヨハンに向けて襲い掛かってきた。
「……どんな怪物を生み出したんだ」
ショートバレルに込められた散弾を断続的に発射する。
致命傷ではないが、それは生み出されたキメラの動きを鈍らせる。
そこに上空から降り注いだアーデルハイトの魔法が、次々ととどめを刺していった。
その一瞬の隙を突いて、ヨハンは駆けだす。
見上げるほどに巨大に膨れ上がったキメラ、シノは建物の窓ガラスを破壊して、そこに腕を突っ込んで人を掴んでいる。
撃ち切った散弾の弾倉を取り出して、次の弾丸を装填。
反動を抑えるために両手で武器を構えるが、それでもヨハンの両腕は一瞬、弾かれたように持ちあがった。
銃口から発射された弾丸、固い魔物の身体すらも貫き内部で炸裂し破壊する、徹甲榴弾が真っ直ぐにシノへと向かって飛んでいく。
徹甲榴弾は肩から生える腕の二の腕辺りに着弾すると、それを内側から爆発によって吹き飛ばす。
腕が千切れ、掴まれていた人は建物の奥へと無造作に吹き飛ばされた。
無事かどうかは祈るしかない。
そんなことをしている間に建物からは多くの人々が、我先に逃げ出そうと駆けだしてくる。
それは、最悪のタイミングだった。
シノからすれば、餌が大量にやって来てくれたようなものだ。
無差別に駆け回り、腕を振るい、衝撃波を放つだけで次々と命が消えてそれがキメラの身体に吸い込まれていく。
「……化け物!」
ヨハンはできるだけ自分に注目を集めるようにと声を張り上げ、重力弾を装填する。
その状況に覚えがあったからだろうか。
シノは食事を中断して、黒い甲殻に包まれた表情のない貌をこちらに向けた。
獣の下半身がこちらに向けて跳躍する。
上半身の、残った方の腕はその辺りの適当な建物の瓦礫を掴み取って、それをヨハンへと放り投げた。
空中で散ったそれは、拡散してヨハンへと飛来する。
重力弾を放ちそれがシノに直撃するのと、無数の石の弾丸がヨハンの身体を傷つけるのはほぼ同時だった。
片方は重力を受けて沈み込み、ヨハンは全身を打たれて地面を転がる。
尖った瓦礫は身体に穴を穿ち、そこから広がった出血が身体を伝って足元へと垂れていく。
「く、そ……。洒落にならんぞ」
シノが全力で、口を広げて咆哮する。
その音の衝撃波は周囲の建物を纏めて吹き飛ばし、そこにいた人々を一瞬にして単なる肉片へと変えた。
ヨハンの目前に迫る衝撃波を、空から落ちてきた魔力の塊が弾けて相殺する。
重力を受けながらなおも瓦礫を掴み、ヨハンに対して攻撃を続けようとするシノの周囲を、箒に乗ったままのアーデルハイトが旋回して攪乱する。
すれ違い様の雷撃。
仰向けに倒れながら、ヨハンは取り出した弾丸を装填する。
二発目の重力弾が直撃し、更にシノの動きを止めた。
その間にアーデルハイトは容赦なく魔力を打ち込む。
炎と雷。彼女が得意とする破壊を目的とした攻撃魔法が次々とシノの身体に直撃し、その光が辺りを眩く照らす。
それでも、シノは動きを止めない。
相当な痛手を負っているにも関わらず、いや、だからこそ手当たり次第に人を殺してその命を吸い取っていく。
ぼろぼろになったキメラの身体を排除し、それらはまた命を持って動きだす。
双頭の犬、尾が蛇となった獅子。魔物の肉体を持たされた人間。
ありとあらゆる異形が、シノの中に溜め込まれた命を与えられ、また彼の手足として動き始めた。
死者の生命力をエネルギーとして変換し、それを肉体へと注ぎ込む。それが彼の持つギフト。
シノの攻撃を上手く回避しながら旋回し、ありったけの魔法を叩き込むアーデルハイトだが、破壊された肉体は即座に分離し、新たな命となる。そしてそれを倒せばその命はシノに還っていくだけだ。
「疑似的な永久機関か……。エトランゼのギフトを使ったとしてもそれだけの技術が魔法学院にあるのか……?」
頭の中に浮かんだ疑問を、すぐに捨て去る。
今はそんなことを考察している場合ではない。考えるべきは、どうやってあれを倒すかだけでいい。
だが、相手もヨハンにそんな時間をくれるほど甘くはない。
既に周囲にはシノから分離したキメラ達が集まり、ヨハンを血祭りに上げるべく少しずつ距離を詰めている。
「……万事休すか……!」
先頭の一匹が飛びかかる。
アーデルハイトはシノの攻撃を引き寄せることに手一杯で、こちらにまで手が回る状況ではない。
双頭の獣が地面を駆けてヨハンの喉首を狙い、その牙を闇夜に閃かせる。
「間一髪! 格好良く助けに来たでござるよ!」
それがヨハンへと突き立てられることはなかった。
筋骨隆々のオーガの上半身を持ったアツキが、両腕で大きく開かれたその口を受け止める。
もう片方の首がアツキへと噛み付く前に、その獣の頭上から光の剣が脳天を貫くように突き立てられる。
「ヨハンさん、大丈夫?」
「ああ、無事だ。……あいつを倒すために力を貸してもらえるか?」
ヨハンの質問に、カナタは一瞬だけ表情を強張らせる。
「大丈夫。ボクは何をすればいいの?」
元より選択肢が多いわけではない。
永久機関と呼んだものの、決して本来の意味でのそれには遠く及ぶものではない。
単純に、異常にエネルギー効率がいいだけの話だ。
ならばそれを超える速度で破壊すればいい。
空を見上げれば、アーデルハイトがこちらを見下ろしている。
「大火力で一気に殲滅する。アーデルハイトが上空から魔法を放つから、それまで時間を稼いで、それから全力で付近から離脱すればいい」
カナタは頷いて、シノの方へと顔を向けた。
「シノ君」
そう呟く声は、最後の懺悔だったのだろうか。
何かを振り払うように頭を振ると、カナタは極光の剣を握って、シノに向けて一直線に駆けていく。
「で、小生は何をすればいいでござるか?」
「カナタの援護と……」
周囲にはシノから分離したキメラが、二人の獲物を仕留めるべく集まってきていた。
「こいつらの掃討でござるな! これは骨が折れそうでござる!」
「そうだな。……ここは任せた」
「えぇ!?」
ヨハンが懐から取り出して放り投げた球体は地面を転がり、数拍の間を置いて炸裂し、不可視の一撃を辺りに撒き散らす。
竜の咆哮。
滅多なことでは人の前に姿を現さず、魔物達の頂点とまで言われるドラゴンの声は、例え子供のものであってもあらゆる生き物を恐怖させる。
アツキも目を白黒させているが、立ち直るのは彼の方が早いだろう。竜の咆哮は人間よりも魔物への影響の方が大きい。ましてや子供のものならば、人への影響は大きな音がする程度のものしかない。
繋ぎ合わされたとはいえ魔物の集合体であるキメラにも相当な効果をもたらす。
魂を打ち砕くほどの声を不意打ちで聞かせられたキメラ達は、軽いパニック状態に陥って、その動きを鈍らせた。
駆けだしながら、こちらの様子を伺うアーデルハイトを見やる。
視線で合図を送ると言葉を交わさずとも彼女は頷いて、上空へと急上昇する。
『我が手に紡がれよ光よ。
我が言葉により具現せよ、掃滅の輝き』
歌うような声が空から降り注ぐ。
彼女の唇から紡がれるのは、魔法詠唱。
意識を集中し、肉体を静め、魂を世界と同調させる。
それほどまでの準備を必要とする、大魔法の先触れ。
何が起こるか判らなくとも、只事ではないと察したのか、シノは咆哮を上げて空を睨む。
そして空中を飛び回るアーデルハイトを迎撃すべく、瓦礫を巨大な手で一掴み握り込んだ。
それが発射される前に、ヨハンの放った鉄鋼榴弾がその腕を撃ち抜いて破壊する。
そこにカナタが飛びかかり、シノの下半身となっている獅子の顔へと極光の刃が斬りつけた。
『大気よ震え、
世界よ震え、
その怒りを形となって示せ』
空に幾つもの魔方陣が浮かぶ。
それらが生み出すエネルギーによる光。魔力光と呼ばれる光の圧倒的な輝きが、夜であるにも関わらず地上を照らしていく。
『流れる力よここに集え、
溢れる力よわたしの言葉に従え、
汝らが向かう先はただ一つ』
それは世界で最も美しい、破壊の歌。
彼女によって紡がれるそれは、彼女の成果。求め、学び、研鑽し続けた彼女の数年間。
シノは野太い片腕で、間近にいるカナタを握り潰そうとそれを振り下ろす。
しかし、カナタに迷いはない。
避けることもせずに、再び獅子の顔面を斬りつける。
痛みに悶える獅子の顔を踏みつけて、シノから生える無数の顔や鉤爪の付いた細腕を容赦なく斬り飛ばしていく。
最後の徹甲榴弾を装填。
両手で構え、狙いを付けて放つ。
目論見通りそれはシノの残った片腕に直撃して、それを内部から破壊して吹き飛ばす。
攻撃用の両腕がなくなったシノは叫び、咆哮によって生まれた衝撃波がカナタとヨハンへと襲い掛かる。
それを予想していたのか、カナタはすぐさまセレスティアルの壁を展開して後ろに立つヨハンまでも護りきって見せた。
――今までのカナタとは違う。
動きに迷いがない。まるで何か、他の力によって突き動かされているかのように、縦横無尽にその力を、ギフトを振るってシノを攻撃する。
『天を見上げるものよ、
愚かにも天に手を伸ばすものよ、
わたしが操るはそれを打ち砕く裁き、不遜なる者達を断罪する光の刃』
空に浮かび上がる魔方陣から浮かび上がった無数の雷が弾け、アーデルハイトの言葉に従って一つに収束していく。
それらは全て彼女の元に。
彼女が操る力へと変換されていく。
それを止めるために、シノは上を向いて咆哮を放とうと息を吸い込む。
「カナタ!」
エリクシルをカナタへと投げ渡す。
未完成品とはいえ、それは万能の霊薬。
最早ヨハンのギフトを取り戻すほどの力はないにしても、その赤色の石はカナタの手の中に収まると、溶けるように消えていく。
「……やらせない!」
エリクシルの力を体力へと変換し吸収したカナタは、その両手に光の刃を握る。
美しく輝く極光の剣はシノの甲殻に護られた本体に、十字の傷を刻んだ。
その痛みに耐えきれず、シノが泣き声にも似た悲鳴を上げる。
その哀しい悲痛な叫びは、まるで母を求める嘆きの声にも聞こえた。
そしてそれを打ち消すように美しくも残酷な審判が、天空より下されようとしていた。
『舞い降りよ、
蹂躙せよ、
力あるもの、力なきもの、全てに等しく、滅びを与えん』
時間稼ぎは充分。
アーデルハイトは短槍を取り出して、それを天に掲げる。
『――圧縮』
その一言で、膨大な魔力がその槍へと集っていく。
『天の声による粛清を、
掃滅の光による静寂を、
ディヴァイン・パージ!』
彼女が投げた光の槍が、一筋の光となって空からシノを撃ち抜く。
慌てて飛び退いたカナタはヨハンを庇うようにセレスティアルの壁を生み出す。
その威力の余りの大きさに、シノだけを狙って力を一点に圧縮したにも関わらず、溢れ出る余波が周囲に襲い掛かった。
あの大型のキメラは本能的に人を襲い、その命を喰らおうとしているのだろうか。剛腕を振るい、建物の壁を破壊して、その中にいる人を無差別に口の中に放り込む。
身体中から生えた口は常に咀嚼を繰り返し、その度に悲鳴が聞こえ、消えていく。
夜中だというのに光る非常灯の灯りの中で繰り広げられる光景はまさに悪夢だった。
ヨハンに背を向けていたその怪物は一度多く震えると、身体に生えた獣や虫を切り離す。
それが地面に落ちれば、別の生き物と化してヨハンに向けて襲い掛かってきた。
「……どんな怪物を生み出したんだ」
ショートバレルに込められた散弾を断続的に発射する。
致命傷ではないが、それは生み出されたキメラの動きを鈍らせる。
そこに上空から降り注いだアーデルハイトの魔法が、次々ととどめを刺していった。
その一瞬の隙を突いて、ヨハンは駆けだす。
見上げるほどに巨大に膨れ上がったキメラ、シノは建物の窓ガラスを破壊して、そこに腕を突っ込んで人を掴んでいる。
撃ち切った散弾の弾倉を取り出して、次の弾丸を装填。
反動を抑えるために両手で武器を構えるが、それでもヨハンの両腕は一瞬、弾かれたように持ちあがった。
銃口から発射された弾丸、固い魔物の身体すらも貫き内部で炸裂し破壊する、徹甲榴弾が真っ直ぐにシノへと向かって飛んでいく。
徹甲榴弾は肩から生える腕の二の腕辺りに着弾すると、それを内側から爆発によって吹き飛ばす。
腕が千切れ、掴まれていた人は建物の奥へと無造作に吹き飛ばされた。
無事かどうかは祈るしかない。
そんなことをしている間に建物からは多くの人々が、我先に逃げ出そうと駆けだしてくる。
それは、最悪のタイミングだった。
シノからすれば、餌が大量にやって来てくれたようなものだ。
無差別に駆け回り、腕を振るい、衝撃波を放つだけで次々と命が消えてそれがキメラの身体に吸い込まれていく。
「……化け物!」
ヨハンはできるだけ自分に注目を集めるようにと声を張り上げ、重力弾を装填する。
その状況に覚えがあったからだろうか。
シノは食事を中断して、黒い甲殻に包まれた表情のない貌をこちらに向けた。
獣の下半身がこちらに向けて跳躍する。
上半身の、残った方の腕はその辺りの適当な建物の瓦礫を掴み取って、それをヨハンへと放り投げた。
空中で散ったそれは、拡散してヨハンへと飛来する。
重力弾を放ちそれがシノに直撃するのと、無数の石の弾丸がヨハンの身体を傷つけるのはほぼ同時だった。
片方は重力を受けて沈み込み、ヨハンは全身を打たれて地面を転がる。
尖った瓦礫は身体に穴を穿ち、そこから広がった出血が身体を伝って足元へと垂れていく。
「く、そ……。洒落にならんぞ」
シノが全力で、口を広げて咆哮する。
その音の衝撃波は周囲の建物を纏めて吹き飛ばし、そこにいた人々を一瞬にして単なる肉片へと変えた。
ヨハンの目前に迫る衝撃波を、空から落ちてきた魔力の塊が弾けて相殺する。
重力を受けながらなおも瓦礫を掴み、ヨハンに対して攻撃を続けようとするシノの周囲を、箒に乗ったままのアーデルハイトが旋回して攪乱する。
すれ違い様の雷撃。
仰向けに倒れながら、ヨハンは取り出した弾丸を装填する。
二発目の重力弾が直撃し、更にシノの動きを止めた。
その間にアーデルハイトは容赦なく魔力を打ち込む。
炎と雷。彼女が得意とする破壊を目的とした攻撃魔法が次々とシノの身体に直撃し、その光が辺りを眩く照らす。
それでも、シノは動きを止めない。
相当な痛手を負っているにも関わらず、いや、だからこそ手当たり次第に人を殺してその命を吸い取っていく。
ぼろぼろになったキメラの身体を排除し、それらはまた命を持って動きだす。
双頭の犬、尾が蛇となった獅子。魔物の肉体を持たされた人間。
ありとあらゆる異形が、シノの中に溜め込まれた命を与えられ、また彼の手足として動き始めた。
死者の生命力をエネルギーとして変換し、それを肉体へと注ぎ込む。それが彼の持つギフト。
シノの攻撃を上手く回避しながら旋回し、ありったけの魔法を叩き込むアーデルハイトだが、破壊された肉体は即座に分離し、新たな命となる。そしてそれを倒せばその命はシノに還っていくだけだ。
「疑似的な永久機関か……。エトランゼのギフトを使ったとしてもそれだけの技術が魔法学院にあるのか……?」
頭の中に浮かんだ疑問を、すぐに捨て去る。
今はそんなことを考察している場合ではない。考えるべきは、どうやってあれを倒すかだけでいい。
だが、相手もヨハンにそんな時間をくれるほど甘くはない。
既に周囲にはシノから分離したキメラ達が集まり、ヨハンを血祭りに上げるべく少しずつ距離を詰めている。
「……万事休すか……!」
先頭の一匹が飛びかかる。
アーデルハイトはシノの攻撃を引き寄せることに手一杯で、こちらにまで手が回る状況ではない。
双頭の獣が地面を駆けてヨハンの喉首を狙い、その牙を闇夜に閃かせる。
「間一髪! 格好良く助けに来たでござるよ!」
それがヨハンへと突き立てられることはなかった。
筋骨隆々のオーガの上半身を持ったアツキが、両腕で大きく開かれたその口を受け止める。
もう片方の首がアツキへと噛み付く前に、その獣の頭上から光の剣が脳天を貫くように突き立てられる。
「ヨハンさん、大丈夫?」
「ああ、無事だ。……あいつを倒すために力を貸してもらえるか?」
ヨハンの質問に、カナタは一瞬だけ表情を強張らせる。
「大丈夫。ボクは何をすればいいの?」
元より選択肢が多いわけではない。
永久機関と呼んだものの、決して本来の意味でのそれには遠く及ぶものではない。
単純に、異常にエネルギー効率がいいだけの話だ。
ならばそれを超える速度で破壊すればいい。
空を見上げれば、アーデルハイトがこちらを見下ろしている。
「大火力で一気に殲滅する。アーデルハイトが上空から魔法を放つから、それまで時間を稼いで、それから全力で付近から離脱すればいい」
カナタは頷いて、シノの方へと顔を向けた。
「シノ君」
そう呟く声は、最後の懺悔だったのだろうか。
何かを振り払うように頭を振ると、カナタは極光の剣を握って、シノに向けて一直線に駆けていく。
「で、小生は何をすればいいでござるか?」
「カナタの援護と……」
周囲にはシノから分離したキメラが、二人の獲物を仕留めるべく集まってきていた。
「こいつらの掃討でござるな! これは骨が折れそうでござる!」
「そうだな。……ここは任せた」
「えぇ!?」
ヨハンが懐から取り出して放り投げた球体は地面を転がり、数拍の間を置いて炸裂し、不可視の一撃を辺りに撒き散らす。
竜の咆哮。
滅多なことでは人の前に姿を現さず、魔物達の頂点とまで言われるドラゴンの声は、例え子供のものであってもあらゆる生き物を恐怖させる。
アツキも目を白黒させているが、立ち直るのは彼の方が早いだろう。竜の咆哮は人間よりも魔物への影響の方が大きい。ましてや子供のものならば、人への影響は大きな音がする程度のものしかない。
繋ぎ合わされたとはいえ魔物の集合体であるキメラにも相当な効果をもたらす。
魂を打ち砕くほどの声を不意打ちで聞かせられたキメラ達は、軽いパニック状態に陥って、その動きを鈍らせた。
駆けだしながら、こちらの様子を伺うアーデルハイトを見やる。
視線で合図を送ると言葉を交わさずとも彼女は頷いて、上空へと急上昇する。
『我が手に紡がれよ光よ。
我が言葉により具現せよ、掃滅の輝き』
歌うような声が空から降り注ぐ。
彼女の唇から紡がれるのは、魔法詠唱。
意識を集中し、肉体を静め、魂を世界と同調させる。
それほどまでの準備を必要とする、大魔法の先触れ。
何が起こるか判らなくとも、只事ではないと察したのか、シノは咆哮を上げて空を睨む。
そして空中を飛び回るアーデルハイトを迎撃すべく、瓦礫を巨大な手で一掴み握り込んだ。
それが発射される前に、ヨハンの放った鉄鋼榴弾がその腕を撃ち抜いて破壊する。
そこにカナタが飛びかかり、シノの下半身となっている獅子の顔へと極光の刃が斬りつけた。
『大気よ震え、
世界よ震え、
その怒りを形となって示せ』
空に幾つもの魔方陣が浮かぶ。
それらが生み出すエネルギーによる光。魔力光と呼ばれる光の圧倒的な輝きが、夜であるにも関わらず地上を照らしていく。
『流れる力よここに集え、
溢れる力よわたしの言葉に従え、
汝らが向かう先はただ一つ』
それは世界で最も美しい、破壊の歌。
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動きに迷いがない。まるで何か、他の力によって突き動かされているかのように、縦横無尽にその力を、ギフトを振るってシノを攻撃する。
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愚かにも天に手を伸ばすものよ、
わたしが操るはそれを打ち砕く裁き、不遜なる者達を断罪する光の刃』
空に浮かび上がる魔方陣から浮かび上がった無数の雷が弾け、アーデルハイトの言葉に従って一つに収束していく。
それらは全て彼女の元に。
彼女が操る力へと変換されていく。
それを止めるために、シノは上を向いて咆哮を放とうと息を吸い込む。
「カナタ!」
エリクシルをカナタへと投げ渡す。
未完成品とはいえ、それは万能の霊薬。
最早ヨハンのギフトを取り戻すほどの力はないにしても、その赤色の石はカナタの手の中に収まると、溶けるように消えていく。
「……やらせない!」
エリクシルの力を体力へと変換し吸収したカナタは、その両手に光の刃を握る。
美しく輝く極光の剣はシノの甲殻に護られた本体に、十字の傷を刻んだ。
その痛みに耐えきれず、シノが泣き声にも似た悲鳴を上げる。
その哀しい悲痛な叫びは、まるで母を求める嘆きの声にも聞こえた。
そしてそれを打ち消すように美しくも残酷な審判が、天空より下されようとしていた。
『舞い降りよ、
蹂躙せよ、
力あるもの、力なきもの、全てに等しく、滅びを与えん』
時間稼ぎは充分。
アーデルハイトは短槍を取り出して、それを天に掲げる。
『――圧縮』
その一言で、膨大な魔力がその槍へと集っていく。
『天の声による粛清を、
掃滅の光による静寂を、
ディヴァイン・パージ!』
彼女が投げた光の槍が、一筋の光となって空からシノを撃ち抜く。
慌てて飛び退いたカナタはヨハンを庇うようにセレスティアルの壁を生み出す。
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だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
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