94 / 178
第二章 魔法使いの追憶
2-38
しおりを挟む
「アデル。怪我はないか?」
瓦礫を押し退けどうにか地上に這いだしながら、隣でローブの裾を掴んでいるアーデルハイトを気に掛ける。
ヨハンの少し後ろに続いて地上に出てきた彼女にも、幸いにして怪我はなさそうだった。
「問題ないわ。今の結界、凄いわね」
「カナタの極光を再現しようとしたんだがな。実際は別物だし、魔力を最大にまで充電しても一日一回しか発動できない。緊急回避用だ」
ローブに仕込まれた術式を、興味深げにアーデルハイトが指でなぞる。
既にこちらに来てからこれに助けられること三度目だが、今はその原理や改良点を詳しく説明している時間はない。
「二人とも、無事だったでござるか!」
その太った身体に似合わぬ俊敏な動きで近付いてきたのは、アツキだった。見れば腕と足が、魔物の部位へと変化している。
「カナタを見なかったか?」
「小生は見てないでござる。と、言うことはこの近辺に生き埋めでござるか?」
「……恐らくはな」
「ならばカナタちゃんを助けるのは小生に任せるでござる! お礼はほっぺにちゅうでよろしくと伝えておいてくれればいいでござるよ! ……で、そちらにはあれの相手をお願いするでござるよ!」
言い残して、アツキはカナタを探すためにヨハン達の元を離れていく。
遠目に見えるのは、獣の下半身に子供の上半身が接続されたキメラ。それは以前、エトランゼ街で戦ったキメラ達の統率者と同じ個体だろう。
その咆哮は恐らく地下に保存されていた全てのキメラを呼び覚ましたらしく、今も次々と瓦礫を破壊し、付き従うようにキメラの数は増えていく。
そしてそれらを従えた怪物、シノは学院内には目もくれず、その壁を破壊して何故か外側へと向かっていた。
「街に向かってる!」
「その前に足を止める!」
ショートバレルを構えて、ありったけの弾丸を打ち込む。
しかし、その前に殺到してきたキメラの群れが、まるでシノを護るように盾になり、反転してこちらに向かって襲い掛かってくる。
驚くべきはそれだけではなかった。
シノは腕を伸ばし、銃撃によって倒れたキメラを掴むと、その身体に生えた口の一つに持って行き、咀嚼して飲み込んでいく。
飲み込まれたのは人型の、大きな鉤爪を持ったキメラ。
シノの肉体、野太い腕の先がぼこぼこと隆起し、そこにその鉤爪が生えていく。
「……そんな馬鹿な……! キメラにあんな能力があるというのか……!」
幾ら魔法を使って縫合しているとしても、キメラはあくまでの生物の範疇にある。果たしてどんな生き物を組み合わせれば、喰らった生き物を即座に吸収して己の力にできるというのか。
「考察は後。囲まれてる」
アーデルハイトに袖を引かれて、ヨハンは状況を改めて把握した。
シノは既に壁を破壊し、夜の闇の中にその身体を躍らせている。視界の先で人の悲鳴と、破壊音が次々と響き渡る。
ヨハン達の目の前には足止めをするかの如く立ち向かってくるキメラの群れ。数は十に満たないが、一気に殲滅できるだけの火力はない。
アーデルハイトを庇いながら、牽制代わりに銃弾を打ち込みつつ、後退。
ショートバレルでは威力が足りない。強力な弾丸を持ってこなかったことを後悔しながら、どうにか彼女だけは生かそうとキメラ達と距離を取る。
こちらを警戒しながらも、大きな抵抗がないことに気が付いて、キメラ達はゆっくりとではあるが強気に距離を詰めてくる。
一歩、更にもう一歩と下がったところで、アーデルハイトがヨハンの身体を小さく押し退けた。
「アデル?」
「さっさと片付けて、街への被害を抑えないといけない」
「……だが、生憎ともう弾切れが近い。一応まだ幾つか武器はあるが」
「だったらそれは大物に取っておいて。わたしが何とかする」
「お前は魔力が……」
「足手纏いになるつもりはないの。……そう、絶対にならない。そう誓ったんだから」
決意を込めた言葉と共に彼女が取り出したのは、見覚えのある小瓶だった。
「それは……!」
以前、カナタに渡した魔法道具の鞄の中に入っていた、魔法力を回復させる薬。
効果のほどは判っている。
確かにそれを飲めば魔法力は回復するが。
「副作用でしょう? 判ってるわ」
「この状況で使うのは危険すぎる。体調を悪くするどころじゃない。下手をしたら動けなくなって、キメラに狙い撃ちされるぞ」
「……大丈夫。上から全部片付けて見せるから」
これ以上の問答をするつもりはないと言わんばかりに、アーデルハイトは小瓶の蓋を開けて、その中にある青い液体を一気に飲み干す。
「……もうちょっと、味にも気を遣って欲しいかも」
苦い顔をしながら、彼女は箒を取り出す。
手を振れずとも彼女に操られた箒は、横になってアーデルハイトの足元辺りに浮かんでいた。
そこに足を掛けて、両足で棒の部分をしっかりと踏みしめ、そのまま浮かび上がった。
「っと。練習していたけれど、なかなか難しい」
そう言いながらもバランスを取り、少しずつ高度を上げていく。
「全力で爆撃するわ。多分、力を使い果たしてしまうと思うけど……」
ふいと、アーデルハイトの視線は街へと向けられる。
既にそこにはシノの行進に吸い寄せられるように何匹ものキメラが集まり、逃げ回る人々で混沌の坩堝と化している。
「そうしたら受け止めて。……カナタにしたみたいに」
そう言って、空へと舞い上がる。
アーデルハイトがいなくなったことによってヨハンに狙いを定めた目の前にキメラ達は、天空から降り注いだ稲妻によって貫かれ、全てが灰同然の姿となって息絶えた。
そしてそのまま、箒に乗った少女は加速していく。
瓦礫を押し退けどうにか地上に這いだしながら、隣でローブの裾を掴んでいるアーデルハイトを気に掛ける。
ヨハンの少し後ろに続いて地上に出てきた彼女にも、幸いにして怪我はなさそうだった。
「問題ないわ。今の結界、凄いわね」
「カナタの極光を再現しようとしたんだがな。実際は別物だし、魔力を最大にまで充電しても一日一回しか発動できない。緊急回避用だ」
ローブに仕込まれた術式を、興味深げにアーデルハイトが指でなぞる。
既にこちらに来てからこれに助けられること三度目だが、今はその原理や改良点を詳しく説明している時間はない。
「二人とも、無事だったでござるか!」
その太った身体に似合わぬ俊敏な動きで近付いてきたのは、アツキだった。見れば腕と足が、魔物の部位へと変化している。
「カナタを見なかったか?」
「小生は見てないでござる。と、言うことはこの近辺に生き埋めでござるか?」
「……恐らくはな」
「ならばカナタちゃんを助けるのは小生に任せるでござる! お礼はほっぺにちゅうでよろしくと伝えておいてくれればいいでござるよ! ……で、そちらにはあれの相手をお願いするでござるよ!」
言い残して、アツキはカナタを探すためにヨハン達の元を離れていく。
遠目に見えるのは、獣の下半身に子供の上半身が接続されたキメラ。それは以前、エトランゼ街で戦ったキメラ達の統率者と同じ個体だろう。
その咆哮は恐らく地下に保存されていた全てのキメラを呼び覚ましたらしく、今も次々と瓦礫を破壊し、付き従うようにキメラの数は増えていく。
そしてそれらを従えた怪物、シノは学院内には目もくれず、その壁を破壊して何故か外側へと向かっていた。
「街に向かってる!」
「その前に足を止める!」
ショートバレルを構えて、ありったけの弾丸を打ち込む。
しかし、その前に殺到してきたキメラの群れが、まるでシノを護るように盾になり、反転してこちらに向かって襲い掛かってくる。
驚くべきはそれだけではなかった。
シノは腕を伸ばし、銃撃によって倒れたキメラを掴むと、その身体に生えた口の一つに持って行き、咀嚼して飲み込んでいく。
飲み込まれたのは人型の、大きな鉤爪を持ったキメラ。
シノの肉体、野太い腕の先がぼこぼこと隆起し、そこにその鉤爪が生えていく。
「……そんな馬鹿な……! キメラにあんな能力があるというのか……!」
幾ら魔法を使って縫合しているとしても、キメラはあくまでの生物の範疇にある。果たしてどんな生き物を組み合わせれば、喰らった生き物を即座に吸収して己の力にできるというのか。
「考察は後。囲まれてる」
アーデルハイトに袖を引かれて、ヨハンは状況を改めて把握した。
シノは既に壁を破壊し、夜の闇の中にその身体を躍らせている。視界の先で人の悲鳴と、破壊音が次々と響き渡る。
ヨハン達の目の前には足止めをするかの如く立ち向かってくるキメラの群れ。数は十に満たないが、一気に殲滅できるだけの火力はない。
アーデルハイトを庇いながら、牽制代わりに銃弾を打ち込みつつ、後退。
ショートバレルでは威力が足りない。強力な弾丸を持ってこなかったことを後悔しながら、どうにか彼女だけは生かそうとキメラ達と距離を取る。
こちらを警戒しながらも、大きな抵抗がないことに気が付いて、キメラ達はゆっくりとではあるが強気に距離を詰めてくる。
一歩、更にもう一歩と下がったところで、アーデルハイトがヨハンの身体を小さく押し退けた。
「アデル?」
「さっさと片付けて、街への被害を抑えないといけない」
「……だが、生憎ともう弾切れが近い。一応まだ幾つか武器はあるが」
「だったらそれは大物に取っておいて。わたしが何とかする」
「お前は魔力が……」
「足手纏いになるつもりはないの。……そう、絶対にならない。そう誓ったんだから」
決意を込めた言葉と共に彼女が取り出したのは、見覚えのある小瓶だった。
「それは……!」
以前、カナタに渡した魔法道具の鞄の中に入っていた、魔法力を回復させる薬。
効果のほどは判っている。
確かにそれを飲めば魔法力は回復するが。
「副作用でしょう? 判ってるわ」
「この状況で使うのは危険すぎる。体調を悪くするどころじゃない。下手をしたら動けなくなって、キメラに狙い撃ちされるぞ」
「……大丈夫。上から全部片付けて見せるから」
これ以上の問答をするつもりはないと言わんばかりに、アーデルハイトは小瓶の蓋を開けて、その中にある青い液体を一気に飲み干す。
「……もうちょっと、味にも気を遣って欲しいかも」
苦い顔をしながら、彼女は箒を取り出す。
手を振れずとも彼女に操られた箒は、横になってアーデルハイトの足元辺りに浮かんでいた。
そこに足を掛けて、両足で棒の部分をしっかりと踏みしめ、そのまま浮かび上がった。
「っと。練習していたけれど、なかなか難しい」
そう言いながらもバランスを取り、少しずつ高度を上げていく。
「全力で爆撃するわ。多分、力を使い果たしてしまうと思うけど……」
ふいと、アーデルハイトの視線は街へと向けられる。
既にそこにはシノの行進に吸い寄せられるように何匹ものキメラが集まり、逃げ回る人々で混沌の坩堝と化している。
「そうしたら受け止めて。……カナタにしたみたいに」
そう言って、空へと舞い上がる。
アーデルハイトがいなくなったことによってヨハンに狙いを定めた目の前にキメラ達は、天空から降り注いだ稲妻によって貫かれ、全てが灰同然の姿となって息絶えた。
そしてそのまま、箒に乗った少女は加速していく。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる