彼方の大地で綴る【四章まで完結済み】

しいたけ農場

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第二章 魔法使いの追憶

2‐17

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 カナタ達が突入した建物の地下一階。

 石造りの地下室の中の一つは改造され、鉄格子によって封鎖された牢屋となっていた。

 申し訳程度の寝藁だけがある狭い部屋の中で、両手を枷によって拘束されたカナタとアーデルハイトはお互いに身を寄せ合って外側にいる者達を睨みつけている。


「ふひっ! いい表情でござるよー。ほら、もっと近くに寄って寄って!」

「……騙してたんだね、ボク達のこと」

「ふふん。これも小生の頭脳プレイの賜物でござるよ。素直なところも可愛いけど、簡単に騙されちゃこの先生き残れないでござるよ」


 内部に入り、アツキの案内で地下に突入したカナタは、隠れ潜んでいた位置からの襲撃と、背後のアツキが裏切ったことでいとも簡単に捕まってしまった。

 それから少しして、アーデルハイトも同じように捕らえられ、こうして二人は牢屋に放り込まれた。

 二人の両手に付けられた枷は、魔力を吸収するもののようで、アーデルハイトは魔法を使うことができない。

 カナタもどうにかセレスティアルを出すことができないかともがいたが、どういう理屈なのかは判らないがギフトも阻害されているようだった。


「……まさか、本当に彼を心から信じているなんてね」

「そ、それは反省してるけど、今言うことないじゃん!」

「今じゃなければいつ言うのよ……。これからどうなるかも判らないのに」

「アーデルハイトさんだって、あれだけ格好つけたのにあっさり捕まってるし」

「相手が悪すぎたのよ」

「そ、そしたらボクだってそうだよ」

「……あれが?」

「そんな目で見ないで欲しいでござる! ついでに喧嘩もしないで欲しいでござるよ」


 二人がそんなやり取りを続けていると、階段の上から足音が響き、例のモヒカンの男が現れた。


「アツキィ! おめえやるじゃねえか! 流石俺達超銀河伝説紅蓮無敵団の参謀役だな!」

「ふひっ! お褒めに預かり光栄でござる」

「よぉ、チビちゃん達! 俺の名は超銀河伝説紅蓮無敵団の団長、グレンだ! よろしくな! まずはお近づきの証として、兄妹の盃を交わそうじゃねえか!」

「いや、交わさないよ。兄妹じゃないし!」


 モヒカン男、グレンは何処からか盃を取りだしてそれに酒をなみなみと注ぐ。余程強いもののようで、アルコールの香りにカナタとアーデルハイトは顔を顰めた。


「あん? なんだ、アツキ……。おめぇ、こいつらを仲間にする手筈じゃなかったのか?」

「手筈も何も、まだ説得もしていないでござるよ。女性を口説くには時間が掛かるでござる」

「そうかそうか! 参謀であるお前が言うなら間違いねえだろうな! だが、俺は気が短けえんだ。俺がとっときの口説き文句ってやつを見せてやるよ」


 鉄格子に思いっきり顔を近づけ、グレンは全力でキメ顔を作る。

 それでもモヒカンヘッドと、両頬に星の形をしたペイントが入っている所為で、全く格好良くは見えなかったが。


「俺の、もんに、なれよ」


 カナタとアーデルハイトは顔を見合わせる。

 別に余りの格好良さに黄色い声を上げるためではない。無意識に、お互いにどちらが突っ込みを入れるか譲り合っていた。


「絶対、いや、よ」

 答えたのはアーデルハイト。

「ぐああぁぁぁぁぁぁぁ! 振られたぜぇ! これで俺が生涯に振られたのは百八十四回目だぁ!」


 石床を転がりまわるグレン。


「小生は告白する勇気もないままこの世界に来てしまったでござるううぅぅぅ! それに比べればリーダーは立派でござるよ!」

「畜生! 俺が、俺が、俺の魅力で、悪の心に染まったガキを救ってやろうってのによぉ! 現実ってのはどうして正義に厳しいんだ! 正しき道を進む者に苦難が降りかかるのはどうしてなんだぁ!」

「それでも戦うのが人生でござる! その行いこそが正義なのでござるよぉ! 正義とは険しくも厳しい、しかしその果てにある光を求める誇り高き道程! 小生、今格好いいこと言ったでござるねぇ! 少女達、お兄さんに惚れてもイイでござるよ!」


 取り敢えずアツキは無視する。それよりも気になる言葉が、グレンの口から出ていた。


「ちょっと待って! 悪の心ってなに? 悪いのは泥棒した貴方達でしょ!」

「なに言ってやがる! あんなもんを取り戻して、また悪事の片棒を担ぐつもりだろうが! そんなことは例えお天道様が許しても、このグレンが許さねぇってことよ! このモヒカンに賭けてな!」

「いや、モヒカンはどうでもいいよ!」

「なにぃ! モヒカン大事だろ、モヒカン! これは俺のソウルでありハート! つまり俺こそがモヒカンってことだ! 何ならお前も同じ髪型にしてソウルメイトにしてやろうか?」

「絶対、やだ!」

「ちょっと黙ってて」

「いたぁ!」


 手の使えないアーデルハイトの頭突きによる突っ込みを受けて、カナタは背中から床に倒れる。


「あんなもんっていうのはいったい何? 貴方が盗み出した研究資料に、いったい何が書いてあったの?」

「あぁん? そりゃあれだよ、あれ。ああもう、口に出すのも恐ろしい! ガクガクブルブル!」

「真面目に答えて」

「アーデルハイトちゃん。そこで凄んでも可愛いだけでござるよ」


 どうやら二人とも話すつもりがないというか、話が通じないというか。

 アーデルハイトは取り敢えず研究資料のことは置いておくことにしたらしく、話を転換させた。


「貴方達は何者なの? 賊というわけではなさそうだけど」

「賊は賊でも義賊ってやつよ。弱い者の味方。オル・フェーズの治安を陰から護る立役者」

「聞いたことないわ。まさか本職のアサシンを雇っているとは思わなかったけど」

「あぁ、ゼクスの奴か。あいつも色々あって行き倒れてたところを保護してやったんだよ。俺達超銀河伝説紅蓮無敵団は困ってる奴は放っておかねえからよ」

「今現在わたし達は困っているのだけど?」

「ううむ、確かに! よし、女子供を虐めるのは俺の趣味じゃねえ! 助けてやると……」

「黙れさてはいけないでござる! それは罠でござるよ! 小生が拘束された少女を眺める時間を短くしてはいけないでござる!」

「おぉっと、騙されるところだった! 子供ながら恐ろしい話術、そして知恵だぜ……」


 頭痛がしてきたのか、アーデルハイトはカナタの後ろに引っ込んだ。選手交代ということだろう。


「取り敢えず、ボク達研究資料の内容のことは何も知らないんだけど。もしそれが危ないものなら、盗むんじゃなくてちゃんとした手続きをして告発した方がいいんじゃないの?」

「あぁん? アツキ、どういう意味だ?」

「リーダーは今日も格好いいって意味でござるよ」

「見る目あるじゃねえか!」


 上機嫌になるグレン。


「ちょっと! そこの人馬鹿なの? いや、絶対馬鹿だよ!」

「俺をあんま怒らせんなよ? 子供だからって容赦しねえぞ。なぁ、アツキ!」

「そうでござる! 全身くすぐり一時間! ……は可哀想だから五分間の刑でござるよ」

「うわっ、地味に凄く嫌!」


 アツキにされるとするなら嫌悪感も倍増である。


「ちなみに小生は興奮してるでござる」

「最低だよこの人! 元の世界なら捕まってるよ!」

「大丈夫大丈夫。小生少女にはあくまでも紳士に接すると決めているでござるから」

「いや、嘘ついて後ろから攻撃するのは全然紳士じゃないでしょ」

「それは言わない約束でござろう」


 そんな埒のあかない会話にお互いが疲れ始めていると、外から妙な音と、それから建物全体を揺るがすような振動がその場に響いてきた。


「な、なんだぁ!?」

「敵襲でござる! 殿中でござる!」

「敵だとぉ! 上等だ、ぶっ殺してやるぜぇ!」


 何処の誰とも説明を聞かず、状況の把握もろくにせず。

 グレンは階段を駆け上がっていってしまった。


「ふぅ。悪い人ではないでござるが、ちょっと頭が悪いのが玉に瑕でござるな」

「……ちょっと?」

「それはさておき」


 アーデルハイトの疑問は無視して、アツキの会話を仕切りなおす。

 ずっと足元に置いてあった道具袋を拾い上げて、その中に入っている干し肉の数を数えているようだった。


「小生も様子を見て来るでござる。なぁに、心配いらない、ちょっと見たらすぐに戻ってくるさ。大したことない簡単な任務でござる。そして小生、その役目が終わったら田舎に引っ込んで親孝行でもするでござる」

「……どうしてその、なんて言うか……、言った人が戻ってこないような台詞をわざわざ言うかなぁ」


 そのやり取りに含まれた意味が判らず、アーデルハイトは首を傾げている。


「では、小生これにて!」
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