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「で、その悪魔様が今日は何の用事?」
彼女は唇を尖らせ、短く息を吹きかけて指先の炎を消した。
「世界征服。銀行に行こう」
彼女の突拍子のない言葉に、頭の理解が追いつかず私の口からは「は?」と声が漏れ出していた。
「わたしだって、人間界の勉強をしてるんだよ。人間界では何をするにも先ず、お金が必要。人間って不便だね。お金が一番あるのは銀行なんでしょ? だから、銀行から頂こうかなって」
私をからかう時の表情ではなく、彼女は大真面目に言っているらしい。だから、余計に頭を抱えてしまいそうになる。
可愛らしく言っているが、要するに彼女は「ちょっとコンビニ行こう」という感覚で銀行強盗を勧めてきているようだ。
私は大きくため息を付いた。
「え、ダメだった?」彼女は、なぜ私が呆れているのかわからないといったように首を傾げている。
「……世界征服への道筋、プランを教えてくれる?」
「敵になりそうな人間を全部倒せば、最後には世界征服出来るでしょ」
彼女なりに自信のある答えだったらしく、即答だった。
私はもう一度、さっきより大きくため息を付いた。彼女はどこぞの世紀末覇者か何かなのだろうか。
「間違ってる?」
「間違ってる。正しい部分が見当たらない」
世界征服への道筋なんて考えたこともない。それでも、彼女のすべての敵を倒してゆくやり方は、自分より強い敵が出てきたら、敵が共闘して自分より強くなったら躓くだろう。仮にすべての敵を倒せたとして、恐怖政治はクーデター等で打倒されるかもしれない。自分以外を力でねじ伏せ、味方が居ない状態は虚しいんじゃないだろうか。
そこまで思い浮かべて、世界征服について真面目に考えようとしている自分がおかしくて笑いそうになった。
「なら、アヤノが正解を教えて」
「……まずは社会勉強だね」
私は社会の全てを知ってはいない。ただの高校生で、交友関係の狭い自分は、寧ろ社会についての知識が狭い人種だろう。しかし、資金を得るために銀行強盗を提案する彼女よりは、アルバイトを考えられる自分のほうが人間界においての社会常識に通じているはずだ。
「出かけようか」
部屋に閉じこもっているよりは、外に出た方が社会勉強とやらになるだろう。私はドアノブに手をかけ、自室から出ようとした。
「その格好で行くの?」
彼女の言葉に、私は目線を降ろして自分の服装を確認する。大きく開いた胸元には自己主張の強い魔法陣があらわになっている。
「アヤノってばセクシー」ベルがからかうように言う。
胸元を見られていると自覚すると、私は急に恥ずかしくなり、両腕で覆うように魔法陣を隠した。
同性の着替えを観察する趣味があるのか、堂々と居座ろうとするベルを部屋の外に追い出し、簡単に着替えを済ませた。
ベルと合流し階段を降りる。「アヤノは何着てもカワイイ」という彼女の褒め言葉を私は「ありがと」と軽く流した。本心は外見で褒められることは少ないので、嬉しかった。
玄関へと向かう。途中、居間のお母さんに我が家のセキュリティ意識の甘さについて責めようかとも思ったが、ベルが帰ってからにしようと止めておいた。
玄関で靴を履こうとすると、私のスマートフォンからSNSアプリの新規メッセージを知らせる音が鳴った。
内容は友達からの勉強会という名目の遊び――誰かの部屋にお菓子を持ち寄っておしゃべりしたり。への誘いだった。
私がメッセージを確認していると、ベルは私の了承も得ず、無遠慮に背後からスマートフォンを覗き込む。
遊びに行く感覚で銀行強盗を提案してくるような悪魔に遠慮を求めても無駄かと。私は彼女を注意するのを諦めた。
「ごめん。今日は用事があるから行けない」私は友達への返信を入力した。
「行かなくていいの?」背後のベルが尋ねる。
きっと昨日までの人間の私なら周りからあぶれないようにと断りきれずに渋々行っていただろう。嫌々ながら行って、失礼にならない程度に相槌を打って、無理に笑顔を作って引きつった笑みを浮かべていただろう。今思うと、誘ってくれている友達に失礼な人間だ。
でも私は悪魔になったから、自分を曲げてまで行きたくない誘いに乗らなくても良い。無理やり人間に馴染む必要もないだろう。と思えた。
「先約があるから。それに今日は気が乗らない」
それに、今日は彼女といる方が楽しそうだ。
「ふうん。アヤノの友達ならきっと可愛いだろうから、会いたかったな」
「……ま、おいおいね」
私の了承も得ず、当たり前のように着いてくるつもりだったらしい。
「さ、行こうか」
わたしは玄関の扉を開けた。外に出て人と関わるのが億劫なわたしには重いドア。彼女と居るせいか、今日はいつもより軽い気さえする。
「行こう。デートに」
「デートじゃない! あんたの社会勉強!」
社会勉強といっても、ただの女子高生が知ってる社会なんてたかが知れてる。資金だって心許ない。大層な名目だけど、街をブラブラして軽く買い物をするくらいだろう。デートでも間違っていないのかもしれない。いや、小学生だって社会科見学という名目で動物園とか行ってるから問題ない。うん、問題ない。
「デートにしましょう。今日はアヤノとデートに行く気分なの」
うるさい。気まぐれ小悪魔め。
「デートデートしつこい。社会勉強って言ったら社会勉強なのっ」
……とりあえず彼女と居ればしばらくは退屈しなさそう。
彼女は唇を尖らせ、短く息を吹きかけて指先の炎を消した。
「世界征服。銀行に行こう」
彼女の突拍子のない言葉に、頭の理解が追いつかず私の口からは「は?」と声が漏れ出していた。
「わたしだって、人間界の勉強をしてるんだよ。人間界では何をするにも先ず、お金が必要。人間って不便だね。お金が一番あるのは銀行なんでしょ? だから、銀行から頂こうかなって」
私をからかう時の表情ではなく、彼女は大真面目に言っているらしい。だから、余計に頭を抱えてしまいそうになる。
可愛らしく言っているが、要するに彼女は「ちょっとコンビニ行こう」という感覚で銀行強盗を勧めてきているようだ。
私は大きくため息を付いた。
「え、ダメだった?」彼女は、なぜ私が呆れているのかわからないといったように首を傾げている。
「……世界征服への道筋、プランを教えてくれる?」
「敵になりそうな人間を全部倒せば、最後には世界征服出来るでしょ」
彼女なりに自信のある答えだったらしく、即答だった。
私はもう一度、さっきより大きくため息を付いた。彼女はどこぞの世紀末覇者か何かなのだろうか。
「間違ってる?」
「間違ってる。正しい部分が見当たらない」
世界征服への道筋なんて考えたこともない。それでも、彼女のすべての敵を倒してゆくやり方は、自分より強い敵が出てきたら、敵が共闘して自分より強くなったら躓くだろう。仮にすべての敵を倒せたとして、恐怖政治はクーデター等で打倒されるかもしれない。自分以外を力でねじ伏せ、味方が居ない状態は虚しいんじゃないだろうか。
そこまで思い浮かべて、世界征服について真面目に考えようとしている自分がおかしくて笑いそうになった。
「なら、アヤノが正解を教えて」
「……まずは社会勉強だね」
私は社会の全てを知ってはいない。ただの高校生で、交友関係の狭い自分は、寧ろ社会についての知識が狭い人種だろう。しかし、資金を得るために銀行強盗を提案する彼女よりは、アルバイトを考えられる自分のほうが人間界においての社会常識に通じているはずだ。
「出かけようか」
部屋に閉じこもっているよりは、外に出た方が社会勉強とやらになるだろう。私はドアノブに手をかけ、自室から出ようとした。
「その格好で行くの?」
彼女の言葉に、私は目線を降ろして自分の服装を確認する。大きく開いた胸元には自己主張の強い魔法陣があらわになっている。
「アヤノってばセクシー」ベルがからかうように言う。
胸元を見られていると自覚すると、私は急に恥ずかしくなり、両腕で覆うように魔法陣を隠した。
同性の着替えを観察する趣味があるのか、堂々と居座ろうとするベルを部屋の外に追い出し、簡単に着替えを済ませた。
ベルと合流し階段を降りる。「アヤノは何着てもカワイイ」という彼女の褒め言葉を私は「ありがと」と軽く流した。本心は外見で褒められることは少ないので、嬉しかった。
玄関へと向かう。途中、居間のお母さんに我が家のセキュリティ意識の甘さについて責めようかとも思ったが、ベルが帰ってからにしようと止めておいた。
玄関で靴を履こうとすると、私のスマートフォンからSNSアプリの新規メッセージを知らせる音が鳴った。
内容は友達からの勉強会という名目の遊び――誰かの部屋にお菓子を持ち寄っておしゃべりしたり。への誘いだった。
私がメッセージを確認していると、ベルは私の了承も得ず、無遠慮に背後からスマートフォンを覗き込む。
遊びに行く感覚で銀行強盗を提案してくるような悪魔に遠慮を求めても無駄かと。私は彼女を注意するのを諦めた。
「ごめん。今日は用事があるから行けない」私は友達への返信を入力した。
「行かなくていいの?」背後のベルが尋ねる。
きっと昨日までの人間の私なら周りからあぶれないようにと断りきれずに渋々行っていただろう。嫌々ながら行って、失礼にならない程度に相槌を打って、無理に笑顔を作って引きつった笑みを浮かべていただろう。今思うと、誘ってくれている友達に失礼な人間だ。
でも私は悪魔になったから、自分を曲げてまで行きたくない誘いに乗らなくても良い。無理やり人間に馴染む必要もないだろう。と思えた。
「先約があるから。それに今日は気が乗らない」
それに、今日は彼女といる方が楽しそうだ。
「ふうん。アヤノの友達ならきっと可愛いだろうから、会いたかったな」
「……ま、おいおいね」
私の了承も得ず、当たり前のように着いてくるつもりだったらしい。
「さ、行こうか」
わたしは玄関の扉を開けた。外に出て人と関わるのが億劫なわたしには重いドア。彼女と居るせいか、今日はいつもより軽い気さえする。
「行こう。デートに」
「デートじゃない! あんたの社会勉強!」
社会勉強といっても、ただの女子高生が知ってる社会なんてたかが知れてる。資金だって心許ない。大層な名目だけど、街をブラブラして軽く買い物をするくらいだろう。デートでも間違っていないのかもしれない。いや、小学生だって社会科見学という名目で動物園とか行ってるから問題ない。うん、問題ない。
「デートにしましょう。今日はアヤノとデートに行く気分なの」
うるさい。気まぐれ小悪魔め。
「デートデートしつこい。社会勉強って言ったら社会勉強なのっ」
……とりあえず彼女と居ればしばらくは退屈しなさそう。
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