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正直に言うと、彼女が悪魔かどうかは未だに信じてない。願い事を叶える力だってないんだと思う。それでも彼女と友達になれるなら、彼女を縛りつけられるならそれも良いと思う。
「良いね。で、儀式はどうすればいいの?」
彼女は少し舌を出し、舌の先を尖った犬歯で噛んだ。滲んだ血液が唾液と混ざって彼女の舌を赤色に染める。その行動は私のイメージの悪魔のそれと同じだった。
淫靡で大人びた表情。まるで私を誘惑しているみたい。いやらしい。男性だったら喜ぶのだろうか。
何が起こるのかわからず、ただ眺めていた私の顔に彼女は顔を近づけ、私の肩に腕を回す。
そのまま私の唇に彼女の唇を重ねて、キスをした。
性別に関わらず、初めての唇を重ねる行為に驚いた私は「んんっ」とくぐもった声を漏らす。どうすればいいのか分からず、ただ彼女に任せて身を強ばらせる。
彼女がキスを止めて、離れる。少し唾液が糸を引いていた。きっと数秒の事だったのだろうが、初めての事態に無意識に身体中の神経を過敏にさせていたのか、私には何分にも感じられた。
快感とはまた違うのかもしれない。でも、彼女とキスをした事で特別な関係になれたような気がして。悪い気はしない。
心臓が私の知らない速度で鳴っている。
口の中に彼女の血の味が残っている。生臭いような、鉄臭いような、口の中を切った時と同じ、人間の血と同じ味。
彼女の味。そう思い浮かべて、とてもいやらしい考えをした気がした。頬が熱い。私の顔はきっと真っ赤になっているのが見なくても分かる。
「これが、悪魔になるための儀式?」
私が尋ねると、彼女はにんまりと子どもが悪戯をしたときのように笑った。今日何度か見た表情。私をからかっている時の表情だ。
「ううん。違うよ。本当は悪魔になるのを同意して、わたしの血を飲めばいいだけ。今のはアヤノが悪魔のわたしを、結婚式での聖書の言葉なんかで縛ろうとするから、そのお返しの誓いのキス」
楽しそうに言い、舌を出す彼女を見ると、怒る気も起きなかった。呆れているのに近い。初めてのキスに悪い気がしなかったのも確かだ。
「でも、本当に私なんかと一緒に居てくれるの?」
不安になって私は尋ねる。
「もう、アヤノはしつこい。わたしが条件を呑んで、納得したんだから良いの。まあ、心配性なアヤノも可愛いけどね」
語尾になるにつれて彼女の声はボソボソと小さくなっていた。私が彼女を理解しつつあるのか、私が彼女と同じ悪魔になったからなのかは分からないけど、何となく彼女が照れているのは分かる。
「わたしも嬉しいんだよ。何度人間に話しかけても、誰も受け入れてくれなかった悪魔のわたしを、アヤノが受け入れてくれてさ」
「悪魔だって名乗ったのに、自分とは相容れない存在だと怖がりもせず、馬鹿にするように笑い飛ばしたりもしない」彼女がそう言っていたのを思い出した。
「それに、初めて会った時に言ったでしょ。人間の偉い小説家の言葉じゃなかった?」
今日、彼女に初めてかけられた言葉を思い出す。
ああ、そうだ。それは愛の言葉。
「月が綺麗ですね」
「うん。綺麗だね」
言って二人で月に手を伸ばした。
二人でならいつか手の届きそうな月に。
「良いね。で、儀式はどうすればいいの?」
彼女は少し舌を出し、舌の先を尖った犬歯で噛んだ。滲んだ血液が唾液と混ざって彼女の舌を赤色に染める。その行動は私のイメージの悪魔のそれと同じだった。
淫靡で大人びた表情。まるで私を誘惑しているみたい。いやらしい。男性だったら喜ぶのだろうか。
何が起こるのかわからず、ただ眺めていた私の顔に彼女は顔を近づけ、私の肩に腕を回す。
そのまま私の唇に彼女の唇を重ねて、キスをした。
性別に関わらず、初めての唇を重ねる行為に驚いた私は「んんっ」とくぐもった声を漏らす。どうすればいいのか分からず、ただ彼女に任せて身を強ばらせる。
彼女がキスを止めて、離れる。少し唾液が糸を引いていた。きっと数秒の事だったのだろうが、初めての事態に無意識に身体中の神経を過敏にさせていたのか、私には何分にも感じられた。
快感とはまた違うのかもしれない。でも、彼女とキスをした事で特別な関係になれたような気がして。悪い気はしない。
心臓が私の知らない速度で鳴っている。
口の中に彼女の血の味が残っている。生臭いような、鉄臭いような、口の中を切った時と同じ、人間の血と同じ味。
彼女の味。そう思い浮かべて、とてもいやらしい考えをした気がした。頬が熱い。私の顔はきっと真っ赤になっているのが見なくても分かる。
「これが、悪魔になるための儀式?」
私が尋ねると、彼女はにんまりと子どもが悪戯をしたときのように笑った。今日何度か見た表情。私をからかっている時の表情だ。
「ううん。違うよ。本当は悪魔になるのを同意して、わたしの血を飲めばいいだけ。今のはアヤノが悪魔のわたしを、結婚式での聖書の言葉なんかで縛ろうとするから、そのお返しの誓いのキス」
楽しそうに言い、舌を出す彼女を見ると、怒る気も起きなかった。呆れているのに近い。初めてのキスに悪い気がしなかったのも確かだ。
「でも、本当に私なんかと一緒に居てくれるの?」
不安になって私は尋ねる。
「もう、アヤノはしつこい。わたしが条件を呑んで、納得したんだから良いの。まあ、心配性なアヤノも可愛いけどね」
語尾になるにつれて彼女の声はボソボソと小さくなっていた。私が彼女を理解しつつあるのか、私が彼女と同じ悪魔になったからなのかは分からないけど、何となく彼女が照れているのは分かる。
「わたしも嬉しいんだよ。何度人間に話しかけても、誰も受け入れてくれなかった悪魔のわたしを、アヤノが受け入れてくれてさ」
「悪魔だって名乗ったのに、自分とは相容れない存在だと怖がりもせず、馬鹿にするように笑い飛ばしたりもしない」彼女がそう言っていたのを思い出した。
「それに、初めて会った時に言ったでしょ。人間の偉い小説家の言葉じゃなかった?」
今日、彼女に初めてかけられた言葉を思い出す。
ああ、そうだ。それは愛の言葉。
「月が綺麗ですね」
「うん。綺麗だね」
言って二人で月に手を伸ばした。
二人でならいつか手の届きそうな月に。
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