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隣同士ベンチに座り。私は息を整えるために、何度か深く呼吸をした。彼女は涼しげに座っている。それは彼女が悪魔だからなのか、普段からダンスを習っていて、体力があるからなのか私には分からない。
「どうだった?」
彼女が口を開く。
「……楽しかったよ」
私の答えを聞き、彼女は得意げに笑った。
「そう。わたしも楽しかった。でも、楽しそうにしているわたし達に話しかける人間はいなかった。当然、混ざろうとする人間なんて一人も居ない。そうでしょ。人間は他人に興味がないんだね。悪魔だったら、声をかけないほうが失礼ってものよ」
彼女は手を横にヒラヒラとさせ、うんざりといった表情を作って見せた。
子どもの頃、遊びの輪に入れなかった自分を思い出した。みんながドッヂボールをしている時も、お絵かきをしている時も私は声を掛ける勇気を出せなかった。「私も入れて」その一言が言えなかった。もし拒否されたらと考えると怖くて、言葉が出なかった。
そうして私は馴染まないといけないと自分に言い聞かせながら、何となく自分を受け入れてくれているような人たちに近づき、周囲からは馴染んでいるように見せかけていた。ただ殻に籠もってあぶれないようにと怯えていただけなのに。
「だからね、アヤノも他の人間に無関心になったら良いよ。他の人間なんて気にせず、もっとアヤノらしくしていれば良いの。どうせ他の人間は気にかけないから。それに、そのほうがアヤノはカワイイよ」
何だか、彼女といると自分が何故悩んでいたのかわからなくなる。実は悩む必要のない事だったんじゃないかとすら思えてくる。
彼女ともっと早くに出会っていたら、私はドッヂボールの輪に入れていただろうか? いや、もしかしたら彼女ならもっと別の遊びに誘ってくれていたのかもしれない。
「ベルは凄いね」
私の言葉を聞き、彼女は得意げな顔をして「ふふん。今更気がついた?」と嬉しそうに言った。
「うん。凄いよ」
私が見つめていると、彼女の頬が赤く染まってゆき、目をそらした。恐らく、あまり言われ慣れていない言葉を言われて、恥ずかしくなったのだろう。私と同じだ。可愛い。彼女の照れた顔を見ていると、私も恥ずかしくなってしまい、顔を背けた。
二人とも何も話さない。沈黙。虫の声。遠くで聞こえる車のエンジン音。遠くで聞こえる救急車の音。何となく、この空間が心地よかった。
「さ、そろそろアヤノの願いを教えて」
ベンチから飛び上がり、沈黙を破ったのは彼女だった。
「……願い?」
彼女の質問の意味が理解できず、私は首を傾げた。
「そ。言ったでしょ。わたしは願いを叶える悪魔だって。その代わり、死んだ後に魂をわたしの魔力として利用させてもらうけどね」
「……私の願い」
平凡な女子高生の私に魂を対価にするような願いなんて思いつかない。お金が欲しいとでも言えば良いのか。死後の話なら気にする必要ないのかもしれないけど。そもそも、彼女にも願い事を叶える力はないはず。
「今は思いつかない。また今度じゃ、だめ?」
「だーめ。明日にはわたしの気が変わってるかもしれない。もしかしたら、一秒後にもわたしの気が変わるかもしれないよ。悪魔は気まぐれなんだから」
言って彼女は大袈裟にため息をつき、困った人ね。と言いたげに呆れた顔をした。
本当に願い事が叶うなら、きっとお金持ちになるだとか、権力を手に入れるだとかそういった欲望に満ちた願いが正しいのだろう。でも、私が手に入れたところでどう使えばいいのかも分からない、その先も想像できない。
それなら、今の自分の心に、欲望に忠実になろう。
「私、ベルと一緒に居たい。ずっと」
私は彼女ともっと話したい。彼女と一緒に居たい。彼女と友達になりたい。
彼女は変わり者だ。悪魔に変わり者っていうのもおかしいかもしれないけれど、変わり者だ。きっと自分と同じで人間の中には馴染めていないだろう。でもそれで良い。彼女なら私を受け入れてくれるかもしれない。彼女なら初めて友達だと堂々と言えるかもしれない。彼女と一緒なら、私は良い方に変われるかもしれない。この世界で生きていける気がする。
「何その願い。愛の告白みたいね。それが、命を掛けた願いで良いの?」
私の口からもっと俗っぽい願いが発せられると思っていたのか、彼女は呆気に取られたようだ。
「そ、それでも良いよ。ベルと一緒に居られるなら、魂だけあげても良いと思う」
「くくっ……あはは……」彼女は笑いながら言う「良いね。その願い。とっても無欲に見えるけど、悪魔一人を縛りつけようとするって、とっても欲望に忠実」
「酷いね。本気で考えたのにさ。もしかして、ダメだった?」
「ううん。大丈夫よ。むしろ魂を貰うのが勿体ないくらい。ところでずっとっていつまで?」
いつまで? ずっと……分からない。こんな気持ちは初めてで、他人とずっと繋がっていたいなんて欲が、私の中のどこから出てきたのかすら分からない。
「……死がふたりを分かつまで?」
私の言葉を聞き、彼女はさらに笑いだした。
「あはは……それ、聖書の言葉だよ? 聖書の言葉で悪魔を口説こうなんて、やっぱり、アヤノは面白いね」
ひとしきり笑うと、急に止まり、仕切り直すように真面目な顔で私に向き直る。
「さて、始めようか」
私が疑問に首を傾げる。
「どうだった?」
彼女が口を開く。
「……楽しかったよ」
私の答えを聞き、彼女は得意げに笑った。
「そう。わたしも楽しかった。でも、楽しそうにしているわたし達に話しかける人間はいなかった。当然、混ざろうとする人間なんて一人も居ない。そうでしょ。人間は他人に興味がないんだね。悪魔だったら、声をかけないほうが失礼ってものよ」
彼女は手を横にヒラヒラとさせ、うんざりといった表情を作って見せた。
子どもの頃、遊びの輪に入れなかった自分を思い出した。みんながドッヂボールをしている時も、お絵かきをしている時も私は声を掛ける勇気を出せなかった。「私も入れて」その一言が言えなかった。もし拒否されたらと考えると怖くて、言葉が出なかった。
そうして私は馴染まないといけないと自分に言い聞かせながら、何となく自分を受け入れてくれているような人たちに近づき、周囲からは馴染んでいるように見せかけていた。ただ殻に籠もってあぶれないようにと怯えていただけなのに。
「だからね、アヤノも他の人間に無関心になったら良いよ。他の人間なんて気にせず、もっとアヤノらしくしていれば良いの。どうせ他の人間は気にかけないから。それに、そのほうがアヤノはカワイイよ」
何だか、彼女といると自分が何故悩んでいたのかわからなくなる。実は悩む必要のない事だったんじゃないかとすら思えてくる。
彼女ともっと早くに出会っていたら、私はドッヂボールの輪に入れていただろうか? いや、もしかしたら彼女ならもっと別の遊びに誘ってくれていたのかもしれない。
「ベルは凄いね」
私の言葉を聞き、彼女は得意げな顔をして「ふふん。今更気がついた?」と嬉しそうに言った。
「うん。凄いよ」
私が見つめていると、彼女の頬が赤く染まってゆき、目をそらした。恐らく、あまり言われ慣れていない言葉を言われて、恥ずかしくなったのだろう。私と同じだ。可愛い。彼女の照れた顔を見ていると、私も恥ずかしくなってしまい、顔を背けた。
二人とも何も話さない。沈黙。虫の声。遠くで聞こえる車のエンジン音。遠くで聞こえる救急車の音。何となく、この空間が心地よかった。
「さ、そろそろアヤノの願いを教えて」
ベンチから飛び上がり、沈黙を破ったのは彼女だった。
「……願い?」
彼女の質問の意味が理解できず、私は首を傾げた。
「そ。言ったでしょ。わたしは願いを叶える悪魔だって。その代わり、死んだ後に魂をわたしの魔力として利用させてもらうけどね」
「……私の願い」
平凡な女子高生の私に魂を対価にするような願いなんて思いつかない。お金が欲しいとでも言えば良いのか。死後の話なら気にする必要ないのかもしれないけど。そもそも、彼女にも願い事を叶える力はないはず。
「今は思いつかない。また今度じゃ、だめ?」
「だーめ。明日にはわたしの気が変わってるかもしれない。もしかしたら、一秒後にもわたしの気が変わるかもしれないよ。悪魔は気まぐれなんだから」
言って彼女は大袈裟にため息をつき、困った人ね。と言いたげに呆れた顔をした。
本当に願い事が叶うなら、きっとお金持ちになるだとか、権力を手に入れるだとかそういった欲望に満ちた願いが正しいのだろう。でも、私が手に入れたところでどう使えばいいのかも分からない、その先も想像できない。
それなら、今の自分の心に、欲望に忠実になろう。
「私、ベルと一緒に居たい。ずっと」
私は彼女ともっと話したい。彼女と一緒に居たい。彼女と友達になりたい。
彼女は変わり者だ。悪魔に変わり者っていうのもおかしいかもしれないけれど、変わり者だ。きっと自分と同じで人間の中には馴染めていないだろう。でもそれで良い。彼女なら私を受け入れてくれるかもしれない。彼女なら初めて友達だと堂々と言えるかもしれない。彼女と一緒なら、私は良い方に変われるかもしれない。この世界で生きていける気がする。
「何その願い。愛の告白みたいね。それが、命を掛けた願いで良いの?」
私の口からもっと俗っぽい願いが発せられると思っていたのか、彼女は呆気に取られたようだ。
「そ、それでも良いよ。ベルと一緒に居られるなら、魂だけあげても良いと思う」
「くくっ……あはは……」彼女は笑いながら言う「良いね。その願い。とっても無欲に見えるけど、悪魔一人を縛りつけようとするって、とっても欲望に忠実」
「酷いね。本気で考えたのにさ。もしかして、ダメだった?」
「ううん。大丈夫よ。むしろ魂を貰うのが勿体ないくらい。ところでずっとっていつまで?」
いつまで? ずっと……分からない。こんな気持ちは初めてで、他人とずっと繋がっていたいなんて欲が、私の中のどこから出てきたのかすら分からない。
「……死がふたりを分かつまで?」
私の言葉を聞き、彼女はさらに笑いだした。
「あはは……それ、聖書の言葉だよ? 聖書の言葉で悪魔を口説こうなんて、やっぱり、アヤノは面白いね」
ひとしきり笑うと、急に止まり、仕切り直すように真面目な顔で私に向き直る。
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