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「わたしの名前はベル」
ベル……顔立ちは日本人に見えるけど、外国の人、もしくはハーフ、クオーター。それとも、たまにテレビで聞くキラキラネームというやつだろうか。
「本当の名前はもっと長いんだけどね。人間には教えちゃいけない決まりなの。だから、ベルって呼んで」
その言葉を聞き、私は彼女の名前について考えるのをやめた。
不思議なことを言う子。他人と接する時に特殊なキャラクターを自分に付与し個性的な人間だと見せたい人が居ると聞いたことはある。私顔は悪くないんだから、普通にしていれば良いのに。話すと損をする人って彼女のような人のことを言うのだろうか。
「お近づきの印にわたしの秘密を教えてあげる」
何故か私を置いてけぼりに、彼女は一人で楽しそうにしている。
「アヤノには普通の人間に見えているかもしれないけど、わたしはね悪魔なんだ。人間の願い事を叶える代わりに、死後その魂をもらってるの」
彼女が何を言っているのか分からなかった。耳に入ってはいるけど、理解が追いつかなかった。私の周りには居ない人種だ。もしかしたらそういう妄想したことのある人はいるのかもしれない。けれど、その妄想を自身のことのように面と向かって自信満々に話せる人間に初めて出会った。
私を無視して、彼女は少し早口で自身で考えたであろう妄想の設定らしきものを話し続ける。
彼女は魔界から来た悪魔で、この世界――人間界の歴史に名を残すために来た。見た目は若くみえるかもしれないけど人間年齢で換算すると千歳は超えている。悪魔としては若い。この世界は魔力とやらが足りていないから、魔法は使えない。だから魔力の代わりにできる人間の魂を集めている。自分は優しいからその代価に願いを叶えてやっている。だそうだ。
彼女の言う悪魔の話は全く信じていない。けれど、聞く人によっては奇特な目で見られ嘘つきだと非難されるかもしれない、笑われて一蹴されのけ者にされるかもしれない内容の話を、とても楽しそうに話す彼女に興味が湧いていた。自分の考えた妄想を話すのは楽しいのだろうか? それは自分には到底できないことで、少し彼女が羨ましい。
「証拠はあるの?」
「証拠?」
「ベルが悪魔だって証明できる証拠。見た目は私と変わらない人間。不思議な能力は魔力とやらが無いから使えないじゃあ、悪魔かどうかわからないでしょ」
彼女の嘘を明かして論破してやりたいだとか、彼女を追い詰めてやりたいといった考えはない。ただ、彼女の妄想がどこまで作り込まれているのか、疑問を投げかけられた時にどう返答するのかが気になった。
「証拠を求めるってことは、わたしに興味を持ってくれたんだあ。嬉しいな」
「茶化さないの」
「証拠ねえ……」
言いながら彼女はに近づきつつ、服の胸元のボタンを上から一つずつ外してゆく。その行為はなんとなく艶めかしい。
「ち、ちょっと何してるのさっ? 女同士だからって。はしたないから止めなさいっ」
突然の彼女の行動に混乱しているのか、私の口からは母親が注意するかのような言葉が出ていた。
「証拠を見せろって言ったのはアヤノだよ?」
「だからって……」
同性同士で相手の同意があるのだから見ても問題はないのだろうけど、わたしは顔を背けていた。
生物の構造上、同性だから同じものがついているからといって、全てを見せられるのとは違う。わたしは大浴場やプールの更衣室といった、肌を他人の目にさらさないといけない場所は嫌いだ。どうしても身長や肉付き、肌の綺麗さ等を比べてしまい、劣等感に苛まれる。相手も私と自分を比べているかもしれないと思えてくる。隠すために人間は服を着ているんだ。
「ほら、自分の発言に責任を持ちなよ」
彼女は私の頭を掴み、無理矢理自分の正面に顔を向けさせた。
私の見まいとしていたものとは違い、彼女の胸元、首元あたりにはタトゥーなのシールなのかは分からないけど、魔法陣――映画や漫画などで杖を持った魔法使いのおじいさんが儀式で使っていそうな図形のような痕があった。
妄想のためとはいえ、よくわからない図形を体に描くなんて、かなりファンキーな子なのかもしれない。
「何を想像したの? ……エッチなことかな?」
疑問形ではあるが、彼女は私の想像を見透かしているのだろう。その口調は笑いを堪えているように聞こえる。
彼女が私に胸を見せてくるのではないかと想像してしまったのを、今更恥ずかしくなり、私は大袈裟に振り払うようにして彼女から離れた。
「あははっ。アヤノってばいやらしい。アヤノはエッチな子なのかな?」
彼女は楽しそうに笑いながら、踊るように私の周りを跳ねからかってくる。私は頬が熱くなり、彼女の顔を見られないでいた。
ベル……顔立ちは日本人に見えるけど、外国の人、もしくはハーフ、クオーター。それとも、たまにテレビで聞くキラキラネームというやつだろうか。
「本当の名前はもっと長いんだけどね。人間には教えちゃいけない決まりなの。だから、ベルって呼んで」
その言葉を聞き、私は彼女の名前について考えるのをやめた。
不思議なことを言う子。他人と接する時に特殊なキャラクターを自分に付与し個性的な人間だと見せたい人が居ると聞いたことはある。私顔は悪くないんだから、普通にしていれば良いのに。話すと損をする人って彼女のような人のことを言うのだろうか。
「お近づきの印にわたしの秘密を教えてあげる」
何故か私を置いてけぼりに、彼女は一人で楽しそうにしている。
「アヤノには普通の人間に見えているかもしれないけど、わたしはね悪魔なんだ。人間の願い事を叶える代わりに、死後その魂をもらってるの」
彼女が何を言っているのか分からなかった。耳に入ってはいるけど、理解が追いつかなかった。私の周りには居ない人種だ。もしかしたらそういう妄想したことのある人はいるのかもしれない。けれど、その妄想を自身のことのように面と向かって自信満々に話せる人間に初めて出会った。
私を無視して、彼女は少し早口で自身で考えたであろう妄想の設定らしきものを話し続ける。
彼女は魔界から来た悪魔で、この世界――人間界の歴史に名を残すために来た。見た目は若くみえるかもしれないけど人間年齢で換算すると千歳は超えている。悪魔としては若い。この世界は魔力とやらが足りていないから、魔法は使えない。だから魔力の代わりにできる人間の魂を集めている。自分は優しいからその代価に願いを叶えてやっている。だそうだ。
彼女の言う悪魔の話は全く信じていない。けれど、聞く人によっては奇特な目で見られ嘘つきだと非難されるかもしれない、笑われて一蹴されのけ者にされるかもしれない内容の話を、とても楽しそうに話す彼女に興味が湧いていた。自分の考えた妄想を話すのは楽しいのだろうか? それは自分には到底できないことで、少し彼女が羨ましい。
「証拠はあるの?」
「証拠?」
「ベルが悪魔だって証明できる証拠。見た目は私と変わらない人間。不思議な能力は魔力とやらが無いから使えないじゃあ、悪魔かどうかわからないでしょ」
彼女の嘘を明かして論破してやりたいだとか、彼女を追い詰めてやりたいといった考えはない。ただ、彼女の妄想がどこまで作り込まれているのか、疑問を投げかけられた時にどう返答するのかが気になった。
「証拠を求めるってことは、わたしに興味を持ってくれたんだあ。嬉しいな」
「茶化さないの」
「証拠ねえ……」
言いながら彼女はに近づきつつ、服の胸元のボタンを上から一つずつ外してゆく。その行為はなんとなく艶めかしい。
「ち、ちょっと何してるのさっ? 女同士だからって。はしたないから止めなさいっ」
突然の彼女の行動に混乱しているのか、私の口からは母親が注意するかのような言葉が出ていた。
「証拠を見せろって言ったのはアヤノだよ?」
「だからって……」
同性同士で相手の同意があるのだから見ても問題はないのだろうけど、わたしは顔を背けていた。
生物の構造上、同性だから同じものがついているからといって、全てを見せられるのとは違う。わたしは大浴場やプールの更衣室といった、肌を他人の目にさらさないといけない場所は嫌いだ。どうしても身長や肉付き、肌の綺麗さ等を比べてしまい、劣等感に苛まれる。相手も私と自分を比べているかもしれないと思えてくる。隠すために人間は服を着ているんだ。
「ほら、自分の発言に責任を持ちなよ」
彼女は私の頭を掴み、無理矢理自分の正面に顔を向けさせた。
私の見まいとしていたものとは違い、彼女の胸元、首元あたりにはタトゥーなのシールなのかは分からないけど、魔法陣――映画や漫画などで杖を持った魔法使いのおじいさんが儀式で使っていそうな図形のような痕があった。
妄想のためとはいえ、よくわからない図形を体に描くなんて、かなりファンキーな子なのかもしれない。
「何を想像したの? ……エッチなことかな?」
疑問形ではあるが、彼女は私の想像を見透かしているのだろう。その口調は笑いを堪えているように聞こえる。
彼女が私に胸を見せてくるのではないかと想像してしまったのを、今更恥ずかしくなり、私は大袈裟に振り払うようにして彼女から離れた。
「あははっ。アヤノってばいやらしい。アヤノはエッチな子なのかな?」
彼女は楽しそうに笑いながら、踊るように私の周りを跳ねからかってくる。私は頬が熱くなり、彼女の顔を見られないでいた。
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