あの雪の日の友達

師走こなゆき

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 どうして一切覚えていなかったのか、そして、もう何年も経っているのに、どうして彼女は記憶のままの、十一歳の頃のわたしとほとんど変わらない背丈なのかという疑問は浮かんできたけれど。それ以上に、ナエが言っていた、あの日、帰ってきたわたしは怖がって泣いていたという言葉が浮かんでしまう。

 あの頃と変わらない姿、どうやってか、わたしに昔からの友達だと思い込ませ、今が夜中だってことにも気づかせなかった。もしかしたら、ずっと忘れていたのだって彼女の仕業なのかもしれない。だからといって、小さな頃のわたしはどうしてこんな無害そうな子を怖がったんだろうか。

 今だって、姿相応の子供らしく無邪気に笑って跳ねているだけなのに。

「ねえねえ、約束は思い出せた?」
「約束?」

 そうだ。大切な約束。それが、コユキちゃんを思い出そうとしたきっかけだったはずだ。

 わたしが思い出せずに唸っていると、コユキちゃんは不服そうに眉間に皺を寄せた。

「もう、大切な約束だったでしょ。さ、思い出して」

 ぐっと顔を寄せ、鼻先がぶつかりそうな距離でコユキちゃんはわたしの目を見つめる。その瞳は氷のように冷え切っていて、何物も反射しない闇のように真っ黒だった。

『今度雪がたくさん積もったらまた会いに来るから、その時はもっとたくさん、ずっと、ずっと遊んでね。約束』

「あ」
「ふふ、全部思い出せたでしょう」

 思い出した。思い出してしまった。

 あの日、わたしが帰りたいとお願いしてもコユキちゃんは手を離してくれず、どうにかこの約束をして逃げ出したことを。
逃げなくちゃいけない。

 そう気がついた時には遅かった。コユキちゃんに掴まれた手の指先が無くなってしまったかのように痺れて感覚がなくなっていく。身体が徐々に凍りついてしまったように、動かせなくなっていく。

 身動き一つできず、恐怖で目を見開くしかできないわたしに向かって、コユキちゃんはニンマリと笑った。

「今度こそ、遊ぼう。これから、ずっとずっと、永遠に。ね」
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