あの雪の日の友達

師走こなゆき

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「サキ? 誰それ?」

 いや、友達のサキだって。そう口にしようとしたけど、不意に頭に浮かんだ疑問で、わたしは言葉が出なくなってしまった。

 ――サキって誰だっけ?

 疑問を覚えた瞬間、魔法が解けたようにサキと呼んでいた女の子への不信感、そして得体の知れない存在がそばに立って微笑んでいることへの恐怖が込み上げてくる。

 どうしてわたしは知らない女の子を友達だなんて思い込んでいたんだ。わたしにこんな小学生くらいの友達なんているはずもないのに。

 雪が積もっているよと、この女の子は家に誘いに来てくれて、わたしは何の疑いもなく一緒に家を出た。そして、さっきまで少しの違和感も覚えることなく、昔なじみの友達のようにはしゃいでいた。

 しかし、わたしのこれまでの生涯の中にサキなんて女の子は存在していなかったはずで、今となっては恐怖の対象でしかない。

 わたしにサキなんて友達は居ない。サキなんて女の子は知らない。

 自分に向けられた異様な物を見る目から察したのか、サキはふっと笑ってこちらに寄って来た。驚きと怯えから逃げることもできず、わたしは立ちすくむ。

「どう? 思い出してくれた?」
「思い出すって、何を? わ、わたしはあなたなんて知らないよ」
「酷いなあ。カズサちゃん」

 女の子は拗ねたように唇を尖らせる。しかし、怒っている気配なんて微塵もなくて。むしろ、どこかわたしの反応を楽しんでいるようにも見えた。

「約束。思い出せない? 大切な約束だったんでしょ?」
「え? あ……」

 違う。居た。わたしの記憶の中に、たしかに目の前の女の子は存在していた。

 十一歳の冬。珍しく雪が積もった日。自分のベッドで寝ていたわたしは、外から窓を叩く女の子に誘われて、外で一緒に遊んだ。今日と同じように。その後、別れてから今まで、彼女と会ったことは一度もない。
あの日、あの時だけ一緒だった友達。

「……もしかして、コユキちゃん?」
「ふふ、せいかーい。カズサちゃんをびっくりさせたくて名前まで嘘ついちゃったんだけど、なかなか気付いてくれなくて、このまま思い出してくれないかもってヒヤヒヤしちゃったんだよ」

 名前を呼ぶと、コユキちゃんは心底嬉しそうに笑って、わたしの手を掴んで踊るように跳ねた。雪遊びで冷え切っているはずなのに、コユキちゃんの手はそれ以上に冷たかった。

「ようやく、思い出してくれた?」
「う、うん……」

 戸惑いながら、わたしは小さく頷く。
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