あの雪の日の友達

師走こなゆき

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「なにか気になることでもあるの?」
「うーん。何か、何かあった気がするんだけど……」

 苛立ちから、わたしはガシガシと髪を掻きむしる。水分を含んだ髪は空気の冷たさで少し凍っているようだった。

『約束だよ。カズサちゃん』

 コユキちゃんの言葉が蘇る。

「そうっ。何か、約束したんだよっ」

 あまりの嬉しさに、わたしはサキの手を握って跳ねていた。だけどすぐ、

「大切な……大切だった、はず?」

 と、またそこから先の記憶が朧げで、頭を傾げてしまう。
「カズサちゃんは思い出したいの?」
「それはそうだよ。約束だよ? 友達の約束を破るようなことはしたくない」
「ふうん。真面目だねえ」サキは口角を少しだけ上げて、人差し指を顎に当てた「なら、思い出してあげなきゃね」
「うん」

 わたしは頷く。

 とは言うものの、わたし自身は思い出せない。目の前の友人はコユキちゃんを知らないのでは、どうしようも無い。空から降る雪みたいに、記憶が降ってくるはずないし。

「そうだ」

 思いついたわたしは、コートのポケットからスマートフォンを取り出す。スマートフォンを操作出来る手袋なのでそのまま画面をタッチしてみたけど、指先が濡れてるせいで上手く操作できなかったので、結局、手袋を外して操作することにした。

「どうしたの?」
「ナエに聞いてみようと思って」

 サキの顔を見ずにこたえてから、わたしはメッセージアプリから発信ボタンを押した。

 ナエは小学校の頃からの友達で、彼女もまたサキと同じくわたしの交友関係を全て知っているであろう人物の一人だ。

 コール音が数回鳴っても出てくれなくて、もしかして出られない用事かと諦めだした頃、ようやく発信音が途切れた。

「……何?」

 ナエはとてもじゃないが親しい人以外には聞かせられない、知らない人が聞いたら威圧感を覚えるような低い声で短く言ってから、大きな欠伸を一度した。どうやら、寝てたらしい。

「えっと、起こしちゃった?」
「寝てたよ。思いっきり寝てたよ」
「もう、ナエはお寝坊さんだなあ。珍しくわたしが起きてるってのに」

 わたしがくすくすと笑うと、ナエは拗ねたのか、電話越しに大きく息を吐く音が聞こえた。

 わたしは朝が弱い。たまに起きるのが遅いせいで、朝ごはんを食べ損ねて学校に行くくらいベッドから出られない。それなのに、今日早起きできたのは雪が積もっていたのと、サキが迎えに来てくれたおかげだ。
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