あの雪の日の友達

師走こなゆき

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 サキは小首を傾げる。彼女は昔からの幼なじみで、人見知り気味なわたしの数少ない友達の一人。狭いわたしのこれまでの交友関係をすべて知っていると言っても過言じゃない。そんな彼女が小さな頃の友達を知らないはずがない。

「コユキちゃんだよ。ほら、小さな頃友達だった?」
「私は知らないよ。そんな子、本当に居た?」

 重ねて確認されると、わたしは言葉に詰まってしまう。

 元々、わたしは気が強くなくて、自分が正しいことであっても、相手の勢いに気圧されて、間違っているのは自分の方だと言い聞かせて口を噤んでしまうことが多々ある。

 その上、雪の日に遊んだ思い出についても、遊んだという事柄は思い出せても、コユキちゃんの容姿が全くと言っていいほど思い出せない。可愛い女の子という印象は思い出せる。けれど、その子がどんな顔だったか、どんな髪型だったか、どんな服を着ていたのかが一切思い出せないのだ。

 それに、コユキちゃんと雪遊びをした記憶がある。というか、雪遊びをした記憶しか無い。小学生の頃のわたしにクラスメイト以外の知り合いなんて居なかったのに、教室の中で彼女と会った覚えがない。他のクラスに知り合いが居ないのだから、当然、学校外の友達なんて居るはずがない。それなのに、コユキちゃんが同じクラスに居た覚えは無いし、雪の日のこの公園以外で会った記憶が無い。

「ううん?」

 首を傾げながら、わたしは唸り声を上げる。喉まで出かかっている、思い出せそうで思い出せない時ほど気持ちの悪い時は無い。

「本当に、そんな子いたの?」

 サキが顔を覗き込んでくる。クリクリとした大きな目はこちらの心の奥まで覗き見てくるみたいで、わたしは顔を逸らす。

「いやいや、こんなにリアルに覚えてるんだもん。夢とか幻のはずないよ」

 言ってから、わたしは当時のわたしとコユキちゃんがどんな遊びをしたのかを身振り手振りを交えながら説明した。といっても、さっきまでサキとしていた遊びとほとんど変わらなかったけど。

「でも、今は居ないんでしょ? なら、思い出さなくても良いんじゃない?」
「そう、なんだけど……」

 微笑むサキに、わたしはバツの悪い返事をする。

 確かにサキの言う通りだ。コユキちゃんは過去の存在。今は居ない。もしかしたら、今後再会することもあるかもしれないけど、その時には思い出せるはずだ。

「でも……」

 それなのに、何だかとても気になってしまう。
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