夏が終わっても

師走こなゆき

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 アイナは小学校の頃のわたしの一番の友達だった。

 三年生になると。何が気に食わなかったのかクラスメイトの高飛車な女の子に目をつけられ、虐められ始めた。元々気の弱い子だったアイナは悪口を言われる度、物を隠される度に泣いていた。

 そんなアイナを、わたしは最初こそ自分だけは見捨てないと、高飛車な子たちに隠れてではあるけど仲良くしていた。しかし、しばらくすると自分も目を付けられるんじゃないか怖くなって、徐々に距離を置くようになってしまった。

 クラスが変われば虐めはなくなる。きっと先生がどうにかしてくれる。時間が解決してくれる。この件が終われば、また元の通り、ううん。これまで以上に目一杯アイナと仲良くしよう。そう、自分に都合のいい甘い言い訳をして、アイナを見捨てた。

 そして孤立してしまったアイナは自ら命を立つことを選んだ。どこで知識を得たのか、自室で首を吊っていたらしい。いじめっ子たちへの恨み言と、仲の良かったわたしへの感謝を書いたノートを残して。

 死人が生き返るはず無いとか、どうして今更私の前に現れたのかだとか、常識的な思考は捨てていった。

 そのアイナが眼の前に居る。

「ひっ……」

 恐怖のあまり悲鳴も上手くあげられなかった。女の子の体ごと投げ飛ばさんばかりの勢いで思い切り腕を振ると、今度はすんなりと手が離れた。

 アイナに向き直るなんてできるはずもなく、わたしは逃げ出した。足がもつれてバランスを崩しそうになっても、呼吸するのが苦しくなって、胸が痛くなってもわたしは走った。

 ただ、ひたすらに怖くて仕方なかった。

 ごめんなさい。許して。どうして私が。何度も呪文のように繰り返し心のなかで唱える。眼の前が涙で滲んで見えづらい。この涙が恐怖からなのか、悲しみからなのか、わたしには分からない。

「わたしは怒ってないよ」

 不意に、耳元で囁かれた。体温を持った何かがわたしの背中に覆いかぶさる。

「むしろ、すごく嬉しいんだよ。みーちゃんとまた友達になれたんだから」

 はしゃぐように楽しげな声が、余計にわたしの恐怖を沸き立たせる。

「さっき約束したでしょ。ずっと友達だって。夏が終わっても、ずっと、ずうっと、わたしたちは友達。ね、みーちゃん」
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