夏が終わっても

師走こなゆき

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 片付けをするセンカさんを、わたしを含め数人が手伝う。幽霊に会いたいからって墓場で花火をする不謹慎な変人だけど、最低限の常識はあったらしい。黙って帰ってしまったのか、さっきよりも人は少ない。

「じゃあ、お先に失礼します」
「またイベントあったら呼んでくださいねー」

 片付けが終わると、朗らかに言いキイロさんとエナガさんは帰ろうとした。ふたりで。ピッタリと傍に居たもう一人の女の人はどこにいったんだろう。片付けを始めたときにはもう居なかった。

「あれ、もう一人の人は先に帰っちゃったんですか?」

 わたしが素直に疑問を口にすると、不思議そうに二人は顔を見合わせてから首を傾げた。

「何言ってるの? わたしたち二人で来たんだよ」
「もう。センカさんと一緒であなたも怖がらそうとして。やめてよね」

 唇を尖らせるキイロさん。しかし、二人とも口角が引き攣っていた。あははと笑ってみせたけど、気不味くてわたしはそれ以上何も言えなかった。

「じゃあ、わたしもこれで……」
「ヒロさん」

 センカさんに頭を下げ、帰ろうとすると女の子に背後から呼び止められた。

「ヒロさん、友達いないんですか」
「蒸し返さないでよ」

 あまりに歯に衣着せぬ物言いに、少しの怒りすら湧かずに苦笑してしまう。

「わたしと一緒ですね」
「ななたも?」

 わたしは虐められていました。既に乗り越えた過去のように話していたのに、実際はまだ少女の中で燻り続けていて、そのせいで友達が作れないのかもしれない。

「それなら、あの……」

 それまで以上に、もう顎と胸元がくっついちゃうんじゃないかってくらい俯いて恥ずかしそうに口籠ったので、わたしは微笑ましく待つことにした。

「わたしと、友達になってくれませんかっ?」

 墓場中に響き渡る声量。まるで愛の告白みたいな気合の入りよう。

 わたしはアイナと出会った日のことを思い出して、胸の奥がチリリと傷んだ。

 小学校の入学式の後、席が隣になったという理由だけで「わたしと友達になってください」と恥ずかしさでこちらを見もできていないのに、気合の入りすぎた声量で教室中の視線を集めたアイナ。

 いつも不安げにオドオドしていて、電車ごっこをしているみたいにずっとわたしの後ろをついてきていたアイナ。

 わたしはそんなアイナの慣れていないようなぎこちない笑顔が、可愛らしくて好きだった。

 それなのに、わたしは見捨ててしまった。

「だめ?」

 困った顔で女の子は首を傾げる。

 後ろめたい気持ちを振り払うために、わたしはゆっくりと首を横に振った。

「いいよ。わたしで良ければ」
「ありがとうっ。嬉しい。ずっと友達ですよっ」

 突き飛ばさんばかりの勢いで抱きつかれて、わたしはふらついてしまう。予想以上に喜ばれてしまって、嬉しいような申し訳ないような、複雑な気分になった。

 わたしなんかがこの子の慰めになるのなら、これが虐められていた過去を乗り越えられるきっかけになるなら、それで良い。

 それに、新しい友達と呼べる存在ができれば、わたし自身も過去を乗り越えられるかもしれない。なんて、打算的な考え。

「帰ろ。ヒロさん」

 上機嫌の少女に手を引かれる。

「はいはい。それじゃあ、センカさん。今度こそ……」

 転ばないように慌てて振り返るけど、そこには誰も居なくなっていた。わたしたちが気づかないうちに帰っちゃったんだろうか。一言くらい、掛けてくれてもいいのに。
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