夏が終わっても

師走こなゆき

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 わたしの手元で線香花火がチリチリと火花を散らしている。

 めいめいが線香花火に火をつけて、何も言わずにその火花を見つめている。十人程度の男女が夜中の墓場で円形に集まって、黙ったまま線香花火を見つめているのだから、通りすがりの人が目撃すれば、さぞかし不気味な光景だろう。妖しい儀式をしているのかと疑われてもおかしくない。

 さっきまで楽しい予感にドキドキしていた私の心も、今はすっかり静まって、夜の闇に溶けてしまいそうなほど落ち着いている。

「どうして、線香花火だけなんですかー?」
「そうそう、もっと綺麗な、バーって広がるやつとか無いんですかー?」

 墓場に似つかわしくない楽しげな口調で、参加者の女の人がセンカさんに尋ねる。

「お墓で騒ぎ回るなんて不謹慎でしょう。近所迷惑にもなるし。それに、これはこれで乙なものに思えない?」

 センカさんの答えに、わたしは大きく頷く。派手な花火みたいに動き回ってはしゃぐような楽しさはないけれど、これはこれで日常では味わえない不思議な感じがして楽しい。そもそも、夜中の墓場に集まっている時点で不謹慎もなにもない気がするけど。

「そういうもんですかね―」
「ですかねー」
「そうだね」

 女の人たちは合わせたように言ってから、仲良さそうにクスクスと笑った。一緒にイベントに参加してくれる知り合いの居ないわたしには羨ましく映る。良いなあ。

 暗闇の中、いくつもの火花がチリチリときらめいては消えて、また現れる。幻想的な雰囲気。眼の前の火花を見つめていると、目眩のように視界がぼうっとして焦点が定まらなくなる。心がトランスしたような、不安定に震えているような。頭がぼんやりとして現実と夢の境目があやふやになる不思議な感覚。

「こんばんは」
「あ、えと、こんばんは」

 いつの間にか隣に来ていた女の子に声をかけられて、わたしははっと我に返った。

 小学生くらいだろうか。私より背が低いのと、少し俯いているから前髪で陰ができて顔がよく見えない。白っぽいワンピースのような服に可愛らしいキャラクターものの赤色のサンダルを履いている。

「お姉さん、一人なの?」
「うん。まあね。あなた、お母さんは?」
「来てない。わたしは一人だから」

 あたりを見回すけど、確かに親らしき人は近くに見当たらない。こんな夜中に小さな子が出歩くなんて、とわたしは驚いた。うちのお母さんは今でも許してくれないから、今日だってこっそりと家を出てきたのに。
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