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 普通の人間であったはずの、自分の祖母が神様だと呼ばれて、私は首を傾げる。
 
 少女は目を輝かせて答えた。

「神様は凄いんだよ。私の文字には力が宿るのよ。ってよく言っててね、神様が文字を書いてくれたお守りを持ってるとね、書かれたことが本当になるんだよ」

 興奮気味に言いながら、少女はみかんポーチから小さく折りたたまれたいくつかの紙片を取り出した。

 少女が丁寧に開き、紙片を私に手渡す。お守りと呼ぶにはお粗末な、何の包みもされていない、床に落ちていたら捨ててしまうだろう紙切れ。

 いつも持ち歩いているのか、綺麗な物は少なく、ぼろぼろになって今にも破けそうな紙、すでに破けてしまって半分になってしまった紙もある。

 和紙に墨で文字が書かれている。達筆だ。書かれている内容は『失くしたビーズが見つかります』『明日のテストで百点が取れます』『お姉ちゃんと仲直りできます』『かけっこで早く走れます』といった子供らしいお願い事だった。

 達筆な文字と、子供らしい幼い内容の文章のアンバランスさがおかしくなって、私は吹き出してしまった。バカにされたと感じたのか、少女が私を睨みつける。

 祖母を神様だと信じている少女には申し訳ないが、私にはこの紙に効力や神がかったご利益なんて感じなくて、ただの小汚い紙切れにしか見えない。

「大人はみんなインチキだって信じてくれなかったよ。友達にも信じてくれない子もいる。でもね、みんな本当になったんだもん。失くしたビーズだって見つかったし、かけっこだっていつもはリュウジに勝てないのに、ばあちゃんからお守りを貰ったら勝てたんだよ」

 それはきっと、祖母からお守りを貰ったから絶対に見つかると信じて、少女がそれまで以上にビーズをより熱心に探した結果。かけっこも勝てると自信がついて少女が努力した結果だろう。

 要は思い込み。プラセボ効果。

「そりゃあ、私も歳だからね。力が衰えてきたから外れることもあるさ。って、言ってたけどさ……。それでもっ。神様なんだよっ」

 興奮気味というよりは少し怒りながら、少女は地面を蹴って言い切った。

 祖母を神様だと信じきっている少女を見ながら、私は母が愚痴っていたのを思い出した。

 祖母は昔占い師だった。何の力も無いのに口だけは上手くて、一部ではカミサマと呼ばれる人気だったとか。ただ、高額な御札を売りつけトラブルになって、家族を連れてこの村に逃げてきたらしい。

 少女が大切にしている何の変哲もない紙片が、恐らく御札だったんだ。

 この村に来てから、祖母が占いのようなインチキをすることはなかったと聞いていたが、私たち家族が村を出ていってから、また再開したらしい。子供しか信じてくれなかったようだが。

 また、昔のようにカミサマだと崇められ、チヤホヤされたかったのだろうか。それとも、娘夫婦と孫が出ていって、独りになったのが寂しかったのだろうか。もし、後者なのだとしたら、少し罪悪感。

「あっ」

 少女は何かを思い出して声を上げ、軽く手を叩いた。

「神様、村から出ていった孫に力を盗まれた。って言ってたけど……」

 私を見つめる少女の瞳に、期待と好奇心が満ち溢れてくるのが見て取れる。私は嫌な予感がした。

「もしかして、お姉さんが盗んだの?」

「孫には違いないけど、カミサマの、では無いよ」

「ね、どうやってカミサマの力を盗んだの? お姉さんは何ができるの?」

 私の否定なんて耳に入っていないように、少女は縁側に乗り上げ、前のめりになって矢継ぎ早に質問を投げつけてくる。ワンピースのスカートがヒラリと揺れた。

「人は殺せるの? カミサマは私にそんな力は残ってないって、殺してくれなかったんだよね。残ってないってことは、お姉さんが盗んだんじゃないの?」

 あまりに無邪気な声で物騒なことを言うので、私は驚いて言葉を失ってしまった。

「ね、誰を殺すの? さっきお姉さんに嫌味を言ってたばあちゃん? それとも、コソコソ悪口言ってたおばさん? あたし見てたんだよ。あんな意地悪しなくていいのにね」

 少女は更に前のめりになり、上目遣いに私を見つめる。

「ホント、みんな大嫌い。村のみんなも、お母さんもお父さんも、みんなみんな死んじゃえばいいのに」

「私に人を殺せるような力はないよ」

「……なあんだ、そうなんだ」

 否定すると、少女はつまらなさそうに呟いた。

「……冗談でも、他人が死ねばいいとか言わないほうが良いよ」

 恐る恐る、少女を刺激しないように、できるだけ優しく努めて私は言った。無邪気に他人の死を願える少女に対して、私は違う世界で育った未知の生命体のような不気味さを覚えて、少し怯えている。

「どうして?」

「どうしてって、親しい人が亡くなったら悲しいでしょ? あなたが死んじゃえって願ってるその誰かにも、親しい人はいるんだよ」
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