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最終章
55.どうやら結婚式日和です(最終話)
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メイベルが望んだためか、その日は、結婚式日和のうららかな日だった。
あの後、「その案件は一度持ち帰ってから検討させてください」と言い逃げしたメイベルは、逃げられているから追いかけたくなっているのかも、というバーナードから助言を受け、オズワルドにわがままなどを言って困らせようとしてみた。
しかしオズワルドは、いっこうにメイベルに呆れる様子がなく、二人の思惑をはらんだ綱引きは、ついには結婚式当日まで持ち越されることとなった。
ここまで来ては、さしものメイベルも観念するほかなく、しかし悪あがきに真っ青な空を、ぼんやりと見上げた。
「メイベル」
オズワルドがやってきて、メイベルの横に並んだ。
もうすぐ結婚式の時間だったが、王族の結婚式でありながら身内だけのこじんまりとした式であるのをいいことに、二人はまだ、新郎新婦の衣装に身を包んでいなかった。
「……オズ?」
言い淀む気配に、メイベルは怪訝になって隣を見た。
「――最後に、聞くんだが」
それに水を差し向けられたように、オズワルドは口を開いた。
「君は俺との結婚を、本当に受け入れているか? 俺は君との結婚を受け入れているし、望んでもいるけど、君がこの結婚を望んでいるとは思わない。今がラストチャンスだ。――この結婚を、了承しているのか。君の、本当の望みを言ってくれ」
「オズ……」
メイベルはこちらを決してみようとしない相手の姿に、オズワルドの後ろめたさを感じ取った。
「俺が君と結婚する理由は二つ。一つ目は、君が好きだから。二つ目は、それが俺たちの仕事だからだ。言っておくが、姉上は俺が嫌がるなら、この結婚をなかったことにしてる。君が嫌がっても、それは同じだ。……だから」
「望んでる」
まくし立てる言葉の数々をさえぎって、メイベルは言った。オズワルドの驚いた顔が、こちらを向く。
「私もちゃんと、望んでる。言ったじゃない、あなたは両方を選び取ろうと努力する人で、それを信じるって……。いえ、正直なところ、バーナードの助言を受けてこの数日を過ごしてきたけど、私のわがままに、なんか、こう、倍返しのような……、ぜんぜん、引かないから……、本当にもう、私たちは、新しい未来を選んで、進んでいるんだって、実感させられてたから……」
気がつけば、オズワルド以上に口を衝いていた。
「つまりね、あのね? 私の方が、ずっとオズワルドを好きだったのだから、いまさら、凹まないで?」
「んっ」
オズワルドは噴き出した。
「んん、OK。君の言い分は、もっともだ。俺たちは、今日から夫婦だ。そのことにお互い、負い目なんて一切ない。そうだな?」
メイベルはうなずく。
「ええ。私も、もう、心に決めました。…………これは、夢じゃないって」
始まりは、許婚。
貴族の結婚は、それが一つの仕事。だからその婚姻が持つ意味を、誰もが邪推する。
そのような中で、二人の少年少女は、お互い義務感で手を取り合い。いつしか倦んでいた。
でも、今は。
胸の内にひそかに抱いていた本音をさらけ出していいと、知っているから。
二人は夫婦。
女王と王配の、新たな門出を祝い、二柱の神竜が、聞こえざる咆哮を上げる。
メイベルは、カメリア色の長い髪を、祝福の風でなびかせながら、伴侶となったオズワルドを見つめ、その手を取った。
――お互いの、あふれる愛で、溺れるように。
*
さく、さく、と草の踏む音がする。
黒髪の彼はそこに足を止めると、ゆっくりと膝をつき、宙を見上げた。
そうして目を細める。
「待っていてくれて、ありがとう。迎えに来た」
*
あの後、「その案件は一度持ち帰ってから検討させてください」と言い逃げしたメイベルは、逃げられているから追いかけたくなっているのかも、というバーナードから助言を受け、オズワルドにわがままなどを言って困らせようとしてみた。
しかしオズワルドは、いっこうにメイベルに呆れる様子がなく、二人の思惑をはらんだ綱引きは、ついには結婚式当日まで持ち越されることとなった。
ここまで来ては、さしものメイベルも観念するほかなく、しかし悪あがきに真っ青な空を、ぼんやりと見上げた。
「メイベル」
オズワルドがやってきて、メイベルの横に並んだ。
もうすぐ結婚式の時間だったが、王族の結婚式でありながら身内だけのこじんまりとした式であるのをいいことに、二人はまだ、新郎新婦の衣装に身を包んでいなかった。
「……オズ?」
言い淀む気配に、メイベルは怪訝になって隣を見た。
「――最後に、聞くんだが」
それに水を差し向けられたように、オズワルドは口を開いた。
「君は俺との結婚を、本当に受け入れているか? 俺は君との結婚を受け入れているし、望んでもいるけど、君がこの結婚を望んでいるとは思わない。今がラストチャンスだ。――この結婚を、了承しているのか。君の、本当の望みを言ってくれ」
「オズ……」
メイベルはこちらを決してみようとしない相手の姿に、オズワルドの後ろめたさを感じ取った。
「俺が君と結婚する理由は二つ。一つ目は、君が好きだから。二つ目は、それが俺たちの仕事だからだ。言っておくが、姉上は俺が嫌がるなら、この結婚をなかったことにしてる。君が嫌がっても、それは同じだ。……だから」
「望んでる」
まくし立てる言葉の数々をさえぎって、メイベルは言った。オズワルドの驚いた顔が、こちらを向く。
「私もちゃんと、望んでる。言ったじゃない、あなたは両方を選び取ろうと努力する人で、それを信じるって……。いえ、正直なところ、バーナードの助言を受けてこの数日を過ごしてきたけど、私のわがままに、なんか、こう、倍返しのような……、ぜんぜん、引かないから……、本当にもう、私たちは、新しい未来を選んで、進んでいるんだって、実感させられてたから……」
気がつけば、オズワルド以上に口を衝いていた。
「つまりね、あのね? 私の方が、ずっとオズワルドを好きだったのだから、いまさら、凹まないで?」
「んっ」
オズワルドは噴き出した。
「んん、OK。君の言い分は、もっともだ。俺たちは、今日から夫婦だ。そのことにお互い、負い目なんて一切ない。そうだな?」
メイベルはうなずく。
「ええ。私も、もう、心に決めました。…………これは、夢じゃないって」
始まりは、許婚。
貴族の結婚は、それが一つの仕事。だからその婚姻が持つ意味を、誰もが邪推する。
そのような中で、二人の少年少女は、お互い義務感で手を取り合い。いつしか倦んでいた。
でも、今は。
胸の内にひそかに抱いていた本音をさらけ出していいと、知っているから。
二人は夫婦。
女王と王配の、新たな門出を祝い、二柱の神竜が、聞こえざる咆哮を上げる。
メイベルは、カメリア色の長い髪を、祝福の風でなびかせながら、伴侶となったオズワルドを見つめ、その手を取った。
――お互いの、あふれる愛で、溺れるように。
*
さく、さく、と草の踏む音がする。
黒髪の彼はそこに足を止めると、ゆっくりと膝をつき、宙を見上げた。
そうして目を細める。
「待っていてくれて、ありがとう。迎えに来た」
*
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