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最終章
49.処刑だけは、と思うのだけど
しおりを挟む メイベルは、さすがに憐みの気持ちを抱かずにはいられなかった。
ヨルノスレルムの主となっては、冤罪などいまさら些末なもの。なにも従姉やダイヤモンドスターを断罪する必要はなかった。
本当に。立国するにあたり人の身を捨てたメイベルにとって、不要と断ずるほかない彼らはもはや、有象無象に等しいのだ。
たかが一人間。王侯貴族であろうがなかろうが、神と呼ばれる身になったメイベルには、どうでもよい。そのうち忘れる存在である。
しかし隣国との良好な関係のためには、立国と即位ついでに膿を出す手伝いくらいは、メイベルにも人らしい感情が残っている。
そもそもが、ユージェニーのため、そのための立国だ。
そういった経緯で、アヴァルランドの貴族からすれば庶民でしかないはずの、メイベルが宣言式に参加していたのだが。
フィリッパたちが愚かにも、性急に栄光を望んだかりに。
メイベルは、彼女たちが栄誉を望むことを愚かとは思わなかったが、その手段の拙さは憐れんだ。
とはいえ、そんな拙い計略に、まんまと落ちてしまっていたのがメイベルなわけだが、ある程度心を許していた侍女なのだから仕方がないだろう。
手落ち程度には相手にした結果、こうもあっさりと話が進むと苦笑するほかない。
「ソフィー女王。この者らの処断、今しばし、お待ちいただけますか?」
「命を狙われたのは御身です。この場であれば、御随意に。後はわたくしどもが責任をもって、お片づけいたしましょう」
「ありがとう存じます。女王陛下」
メイベルは目礼し、ダイヤモンドスターと元侍女を見た。
フィリッパは顔色を悪くしていたが、後ろに控えるスーザンは、断罪の今にあっても平然としている。
その心はいまだに分からないが、ここまで来るとスーザンの姿は感心させられた。
スーザンは貴族の子女。その賢さもメイベルは知っている。少なくともこの侍女には、今の状態を理解する頭はあるはずだった。
「まず、床に捕らえられている者たちよ。伝えることがあります。
そなたらの同胞、サイラス・コールドですが、彼の本名がアダン・フロワというのはご存じでしょう。パーティーキラーとして指名手配を受けています。彼はすでに捕らえてあります。
わたくしのことは構いませんから、指名手配犯を匿っていた咎について、釈明があるならば考えておきなさい」
メイベルがリオンを護衛に彼らと再会した際、サイラスの言動に違和感を感じ、オズワルドに相談すると、外様ではもっぱらの話題だったその指名手配犯に行き当たったのだ。
周辺諸国の被害状況に曰く、その男は三角関係にあるパーティーを引っ掻きまわすのを好むらしい。
メイベルの思い違いでなければ、今はここに居ない付与術師キャロル・メイズは、ここにいる副リーダー、ジャン・リークに思いを寄せていたはずだった。
リーダーのバーバラ・スレイもそうで、まさに三角関係といえよう。
メイベルは幼馴染の二人がくっつくものと思っていたのだが、話を聞いたオズワルドたち男性諸君の見解によれば、ジャンはバーバラをキープ感覚でキャロルを本命にしている、とのことであった。
なるほど?
キャロルが居ないところをみるに、案の定、のようである。
そして襲撃を決行したバーバラとジャンは、衛士に口を強く縛られて声を出せずにいた。もがくたびに強く殴られる。
衛士が頭を下げる。
「お見苦しいところを」
「構いません」
話を済ませたメイベルは、二人から視線を外した。それを認めて、ユージェニーが命令を出す。
「近衛兵、彼らはもう牢屋へ下げてよろしい」
「はっ」
次に、とメイベルはフィリッパではなく、大神官を見た。
ヨルノスレルムの主となっては、冤罪などいまさら些末なもの。なにも従姉やダイヤモンドスターを断罪する必要はなかった。
本当に。立国するにあたり人の身を捨てたメイベルにとって、不要と断ずるほかない彼らはもはや、有象無象に等しいのだ。
たかが一人間。王侯貴族であろうがなかろうが、神と呼ばれる身になったメイベルには、どうでもよい。そのうち忘れる存在である。
しかし隣国との良好な関係のためには、立国と即位ついでに膿を出す手伝いくらいは、メイベルにも人らしい感情が残っている。
そもそもが、ユージェニーのため、そのための立国だ。
そういった経緯で、アヴァルランドの貴族からすれば庶民でしかないはずの、メイベルが宣言式に参加していたのだが。
フィリッパたちが愚かにも、性急に栄光を望んだかりに。
メイベルは、彼女たちが栄誉を望むことを愚かとは思わなかったが、その手段の拙さは憐れんだ。
とはいえ、そんな拙い計略に、まんまと落ちてしまっていたのがメイベルなわけだが、ある程度心を許していた侍女なのだから仕方がないだろう。
手落ち程度には相手にした結果、こうもあっさりと話が進むと苦笑するほかない。
「ソフィー女王。この者らの処断、今しばし、お待ちいただけますか?」
「命を狙われたのは御身です。この場であれば、御随意に。後はわたくしどもが責任をもって、お片づけいたしましょう」
「ありがとう存じます。女王陛下」
メイベルは目礼し、ダイヤモンドスターと元侍女を見た。
フィリッパは顔色を悪くしていたが、後ろに控えるスーザンは、断罪の今にあっても平然としている。
その心はいまだに分からないが、ここまで来るとスーザンの姿は感心させられた。
スーザンは貴族の子女。その賢さもメイベルは知っている。少なくともこの侍女には、今の状態を理解する頭はあるはずだった。
「まず、床に捕らえられている者たちよ。伝えることがあります。
そなたらの同胞、サイラス・コールドですが、彼の本名がアダン・フロワというのはご存じでしょう。パーティーキラーとして指名手配を受けています。彼はすでに捕らえてあります。
わたくしのことは構いませんから、指名手配犯を匿っていた咎について、釈明があるならば考えておきなさい」
メイベルがリオンを護衛に彼らと再会した際、サイラスの言動に違和感を感じ、オズワルドに相談すると、外様ではもっぱらの話題だったその指名手配犯に行き当たったのだ。
周辺諸国の被害状況に曰く、その男は三角関係にあるパーティーを引っ掻きまわすのを好むらしい。
メイベルの思い違いでなければ、今はここに居ない付与術師キャロル・メイズは、ここにいる副リーダー、ジャン・リークに思いを寄せていたはずだった。
リーダーのバーバラ・スレイもそうで、まさに三角関係といえよう。
メイベルは幼馴染の二人がくっつくものと思っていたのだが、話を聞いたオズワルドたち男性諸君の見解によれば、ジャンはバーバラをキープ感覚でキャロルを本命にしている、とのことであった。
なるほど?
キャロルが居ないところをみるに、案の定、のようである。
そして襲撃を決行したバーバラとジャンは、衛士に口を強く縛られて声を出せずにいた。もがくたびに強く殴られる。
衛士が頭を下げる。
「お見苦しいところを」
「構いません」
話を済ませたメイベルは、二人から視線を外した。それを認めて、ユージェニーが命令を出す。
「近衛兵、彼らはもう牢屋へ下げてよろしい」
「はっ」
次に、とメイベルはフィリッパではなく、大神官を見た。
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