29 / 39
とつぜんのプロポーズ
4
しおりを挟む
軽やかな美しい音楽が流れ、ダンスがはじまった。
集まったひとびとの視線が降りそそぐなか、ジェイク王子はお辞儀をして、わたしの手をとった。
どうしよう、不安しかないよ……。
そんなわたしの心を見透かしたように、
「ついてこいよ」
ジェイク王子が耳もとでささやく。
「う、うん……!」
わたしは言われたとおり、おずおずと足を動かしてステップを踏んだ。
ほかにもおどっているひとがいたけれど、ジェイク王子のリードのおかげでぶつからずにすんだ。
さすが、王子さま。ダンスが上手だなあ。
それにきらびやかな衣装のせいか、ふだんより数倍はカッコよく見えるし。
なんて思っていると、観衆のなかから、彼らの会話が耳に届いた。
「ジェイク王子さま、ステキ……!」
「なんてかわいらしい、魅力的なおふたりなのでしょう!」
「ええ、本当に」
ドキッ、見られてる!
恥ずかしくてたまらず、思わずカアッとほっぺが熱くなった。
「ひゃっ!」
その拍子に、高い靴のかかとのせいで、ひざがガクンとなってしまった。それをジェイク王子がわたしの腰を抱いて助けてくれる。
「だいじょうぶか?」
王子さまらしい優雅なほほ笑みに、胸がキュッとした。
ほっぺが熱くなりながらも「うん」と答える。
はあー、びっくりした。
あぶないところだった。おおぜいのひとの前で恥をかくところだったよ……。
すると、とつぜんチクチクと刺すような視線を感じた。
「ん?」
まわりを見まわすと、『大司教のむすめ』ことエイプリルさんの姿を見つけた。
わわっ、こっちをにらんでいる!
ジェイク王子とダンスしているからだ!
「ね、ねえ! 大司教のお姫さまとおどるんじゃなかったの? わたしのことはいいから、はやく向こうに行きなよ!」
「ほっとけ、気にするな」
わたしはムチャクチャ焦っているっていうのに、ジェイク王子はとんでもなく冷静だった。
「で、でも……! 気にするなってほうがムリだよっ。ちゃんと見て、あんなに怒っているよ! きのう、言ってたじゃん! 王子とおどりたいって!」
「おれは、チトセとおどりたいんだ」
「えっ!」
わたしは目を見はった。
王子の顔は、耳まで真っ赤だった。
「口ベタでうまく言えないが、これでも、おまえのことが気に入っている。王子とか異世界の姫とか、そういうのを全部抜きにして、おれとの結婚を考えてくれないか……?」
「ええーっ!!」
いきなりプロポーズされてびっくりした。
そのせいで、ジェイク王子の足まで踏んじゃった!
「でーっ!! おまっ、なっ、何するんだ!」
かかとで思いっきりやっちゃったから、さすがに痛かっただろうな。
ジェイク王子は涙目になって、必死に痛みをこらえているようすだった。
「ごめーん! だ、だって…! とつぜん、おかしなことを言うから……!」
心臓がはげしくドキドキしている。
「何を言う……! 好きになったら、まずは申しこむのがあたりまえだろう! おれはホンキだ!」
「好きになったら」って!
「ホンキ」って!
ジェイク王子、わたしのことが好きなの!?
「ほ、ホントに?」
「ああ」
ジェイク王子は、わたしの手を自分の胸の上にみちびいた。
ドキドキ、ドキドキ。
激しく波打つ鼓動が手のひらを通して伝わってくる。
「これでわかったか?」
見あげたジェイク王子の瞳は、あまりにもまっすぐ、わたしを見つめていた。ウソをついているようにも見えなかった。
わたしもコトバを返す余裕がなくて、
「あの、えっと……」
壁際まで追いつめられたような気分で、次のコトバを探しているときだ。
「あっ!」
今度は、うしろにいるひとに背中をぶつけてしまった。
ジェイク王子も予期しなかったことらしく、わたしの手をにぎる力がゆるむ。
「ご、ごめんなさい!」
わたしは王子の手をふりほどき、パッとふり向いた。
「平気だよ、チトセ。ぼくのからだは、とてもがんじょうにできているから」
そこにいたのは、ローブ姿のラベンダー色の髪をした、美しい青年だった。
集まったひとびとの視線が降りそそぐなか、ジェイク王子はお辞儀をして、わたしの手をとった。
どうしよう、不安しかないよ……。
そんなわたしの心を見透かしたように、
「ついてこいよ」
ジェイク王子が耳もとでささやく。
「う、うん……!」
わたしは言われたとおり、おずおずと足を動かしてステップを踏んだ。
ほかにもおどっているひとがいたけれど、ジェイク王子のリードのおかげでぶつからずにすんだ。
さすが、王子さま。ダンスが上手だなあ。
それにきらびやかな衣装のせいか、ふだんより数倍はカッコよく見えるし。
なんて思っていると、観衆のなかから、彼らの会話が耳に届いた。
「ジェイク王子さま、ステキ……!」
「なんてかわいらしい、魅力的なおふたりなのでしょう!」
「ええ、本当に」
ドキッ、見られてる!
恥ずかしくてたまらず、思わずカアッとほっぺが熱くなった。
「ひゃっ!」
その拍子に、高い靴のかかとのせいで、ひざがガクンとなってしまった。それをジェイク王子がわたしの腰を抱いて助けてくれる。
「だいじょうぶか?」
王子さまらしい優雅なほほ笑みに、胸がキュッとした。
ほっぺが熱くなりながらも「うん」と答える。
はあー、びっくりした。
あぶないところだった。おおぜいのひとの前で恥をかくところだったよ……。
すると、とつぜんチクチクと刺すような視線を感じた。
「ん?」
まわりを見まわすと、『大司教のむすめ』ことエイプリルさんの姿を見つけた。
わわっ、こっちをにらんでいる!
ジェイク王子とダンスしているからだ!
「ね、ねえ! 大司教のお姫さまとおどるんじゃなかったの? わたしのことはいいから、はやく向こうに行きなよ!」
「ほっとけ、気にするな」
わたしはムチャクチャ焦っているっていうのに、ジェイク王子はとんでもなく冷静だった。
「で、でも……! 気にするなってほうがムリだよっ。ちゃんと見て、あんなに怒っているよ! きのう、言ってたじゃん! 王子とおどりたいって!」
「おれは、チトセとおどりたいんだ」
「えっ!」
わたしは目を見はった。
王子の顔は、耳まで真っ赤だった。
「口ベタでうまく言えないが、これでも、おまえのことが気に入っている。王子とか異世界の姫とか、そういうのを全部抜きにして、おれとの結婚を考えてくれないか……?」
「ええーっ!!」
いきなりプロポーズされてびっくりした。
そのせいで、ジェイク王子の足まで踏んじゃった!
「でーっ!! おまっ、なっ、何するんだ!」
かかとで思いっきりやっちゃったから、さすがに痛かっただろうな。
ジェイク王子は涙目になって、必死に痛みをこらえているようすだった。
「ごめーん! だ、だって…! とつぜん、おかしなことを言うから……!」
心臓がはげしくドキドキしている。
「何を言う……! 好きになったら、まずは申しこむのがあたりまえだろう! おれはホンキだ!」
「好きになったら」って!
「ホンキ」って!
ジェイク王子、わたしのことが好きなの!?
「ほ、ホントに?」
「ああ」
ジェイク王子は、わたしの手を自分の胸の上にみちびいた。
ドキドキ、ドキドキ。
激しく波打つ鼓動が手のひらを通して伝わってくる。
「これでわかったか?」
見あげたジェイク王子の瞳は、あまりにもまっすぐ、わたしを見つめていた。ウソをついているようにも見えなかった。
わたしもコトバを返す余裕がなくて、
「あの、えっと……」
壁際まで追いつめられたような気分で、次のコトバを探しているときだ。
「あっ!」
今度は、うしろにいるひとに背中をぶつけてしまった。
ジェイク王子も予期しなかったことらしく、わたしの手をにぎる力がゆるむ。
「ご、ごめんなさい!」
わたしは王子の手をふりほどき、パッとふり向いた。
「平気だよ、チトセ。ぼくのからだは、とてもがんじょうにできているから」
そこにいたのは、ローブ姿のラベンダー色の髪をした、美しい青年だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】魔法道具の預かり銀行
六畳のえる
児童書・童話
昔は魔法に憧れていた小学5学生の大峰里琴(リンコ)、栗本彰(アッキ)と。二人が輝く光を追って最近閉店した店に入ると、魔女の住む世界へと繋がっていた。驚いた拍子に、二人は世界を繋ぐドアを壊してしまう。
彼らが訪れた「カンテラ」という店は、魔法道具の預り銀行。魔女が魔法道具を預けると、それに見合ったお金を貸してくれる店だ。
その店の店主、大魔女のジュラーネと、魔法で喋れるようになっている口の悪い猫のチャンプス。里琴と彰は、ドアの修理期間の間、修理代を稼ぐために店の手伝いをすることに。
「仕事がなくなったから道具を預けてお金を借りたい」「もう仕事を辞めることにしたから、預けないで売りたい」など、様々な理由から店にやってくる魔女たち。これは、魔法のある世界で働くことになった二人の、不思議なひと夏の物語。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
ミズルチと〈竜骨の化石〉
珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。
一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。
ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。
カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
ユイユメ国ゆめがたり【完結】
星乃すばる
児童書・童話
ここは夢と幻想の王国。
十歳の王子るりなみは、
教育係の宮廷魔術師ゆいりの魔法に導かれ、
不思議なできごとに巻き込まれていきます。
骨董品店でもらった、海を呼ぶ手紙。
遺跡から発掘された鳥の石像。
嵐は歌い、時には、風の精霊が病をもたらすことも……。
小さな魔法の連作短編、幻想小説風の児童文学です。
*ルビを多めに振ってあります。
*第1部ののち、番外編(第7話)で一旦完結。
*その後、第2部へ続き、全13話にて終了です。
・第2部は連作短編形式でありつつ、続きものの要素も。
・ヒロインの王女が登場しますが、恋愛要素はありません。
[完結しました。応援感謝です!]
小さな王子さまのお話
佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』……
**あらすじ**
昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。
珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。
王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。
なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。
「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。
ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…?
『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』――
亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。
全年齢の童話風ファンタジーになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる