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とつぜんのプロポーズ

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 軽やかな美しい音楽が流れ、ダンスがはじまった。
 集まったひとびとの視線が降りそそぐなか、ジェイク王子はお辞儀をして、わたしの手をとった。
 どうしよう、不安しかないよ……。
 そんなわたしの心を見透かしたように、
「ついてこいよ」
 ジェイク王子が耳もとでささやく。
「う、うん……!」
 わたしは言われたとおり、おずおずと足を動かしてステップを踏んだ。
 ほかにもおどっているひとがいたけれど、ジェイク王子のリードのおかげでぶつからずにすんだ。
 さすが、王子さま。ダンスが上手だなあ。
 それにきらびやかな衣装のせいか、ふだんより数倍はカッコよく見えるし。
 なんて思っていると、観衆のなかから、彼らの会話が耳に届いた。
「ジェイク王子さま、ステキ……!」
「なんてかわいらしい、魅力的なおふたりなのでしょう!」
「ええ、本当に」
 ドキッ、見られてる!
 恥ずかしくてたまらず、思わずカアッとほっぺが熱くなった。
「ひゃっ!」
 その拍子に、高い靴のかかとのせいで、ひざがガクンとなってしまった。それをジェイク王子がわたしの腰を抱いて助けてくれる。
「だいじょうぶか?」
 王子さまらしい優雅なほほ笑みに、胸がキュッとした。
 ほっぺが熱くなりながらも「うん」と答える。
 はあー、びっくりした。
 あぶないところだった。おおぜいのひとの前で恥をかくところだったよ……。
 すると、とつぜんチクチクと刺すような視線を感じた。
「ん?」
 まわりを見まわすと、『大司教のむすめ』ことエイプリルさんの姿を見つけた。
 わわっ、こっちをにらんでいる!
 ジェイク王子とダンスしているからだ!
「ね、ねえ! 大司教のお姫さまとおどるんじゃなかったの? わたしのことはいいから、はやく向こうに行きなよ!」
「ほっとけ、気にするな」
 わたしはムチャクチャ焦っているっていうのに、ジェイク王子はとんでもなく冷静だった。
「で、でも……! 気にするなってほうがムリだよっ。ちゃんと見て、あんなに怒っているよ! きのう、言ってたじゃん! 王子とおどりたいって!」
「おれは、チトセとおどりたいんだ」
「えっ!」
 わたしは目を見はった。
 王子の顔は、耳まで真っ赤だった。
「口ベタでうまく言えないが、これでも、おまえのことが気に入っている。王子とか異世界の姫とか、そういうのを全部抜きにして、おれとの結婚を考えてくれないか……?」
「ええーっ!!」
 いきなりプロポーズされてびっくりした。
 そのせいで、ジェイク王子の足まで踏んじゃった!
「でーっ!! おまっ、なっ、何するんだ!」
 かかとで思いっきりやっちゃったから、さすがに痛かっただろうな。
 ジェイク王子は涙目になって、必死に痛みをこらえているようすだった。
「ごめーん! だ、だって…! とつぜん、おかしなことを言うから……!」
 心臓がはげしくドキドキしている。
「何を言う……! 好きになったら、まずは申しこむのがあたりまえだろう! おれはホンキだ!」
「好きになったら」って!
「ホンキ」って!
 ジェイク王子、わたしのことが好きなの!?
「ほ、ホントに?」
「ああ」
 ジェイク王子は、わたしの手を自分の胸の上にみちびいた。
 ドキドキ、ドキドキ。
 激しく波打つ鼓動が手のひらを通して伝わってくる。
「これでわかったか?」
 見あげたジェイク王子の瞳は、あまりにもまっすぐ、わたしを見つめていた。ウソをついているようにも見えなかった。
 わたしもコトバを返す余裕がなくて、
「あの、えっと……」
 壁際まで追いつめられたような気分で、次のコトバを探しているときだ。
「あっ!」
 今度は、うしろにいるひとに背中をぶつけてしまった。
 ジェイク王子も予期しなかったことらしく、わたしの手をにぎる力がゆるむ。
「ご、ごめんなさい!」
 わたしは王子の手をふりほどき、パッとふり向いた。
「平気だよ、チトセ。ぼくのからだは、とてもがんじょうにできているから」
 そこにいたのは、ローブ姿のラベンダー色の髪をした、美しい青年だった。
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