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いじわる王子との出会い
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やがて馬は落ち着きを取りもどし、おとなしくなった。
「ふう、助かった……」
ホッと胸をなでおろす。どうなるかと思った。
でも、息をつくヒマなんてなかった。
「いつまで、おれの上に乗っている! 無礼者!」
ふたつの青い瞳がわたしをギラッとにらんでいたんだ。
「おれの上?」
わたしがしがみついていたのは、この馬の乗り手、そのひとの首根っこだった。
「わあっ、ごめんなさい!」
おどろいてパッと手を離したせいでバランスを失った。馬から落っこちて、思いっきり強く、地面におしりをぶつけてしまった。
「いたた……」
あまりの痛さに顔をしかめていると、
「さては、おまえ、魔女だな!」
馬上のそのひとは、こわい顔でわたしを見おろしていた。
彼のマントのフードがはらりと肩に落ちる。
はじめて、その顔をまともに見た。
よく見ると、彼はわたしと同じ年ごろの男の子だ。燃えるような赤い髪に、青い瞳。非の打ち所がなく整った顔立ちだった。
しりもちをついたままのわたしは、あんぐりと口をひらいた。
おとぎ話にでてくる旅の騎士みたい。
こんなのって信じられないよ。
夢にしては、なんてリアルなんだろう。
まばたきをするのも忘れて見つめていたら。
その男の子は抜刀し、剣の切っ先をわたしに向けてくる。
「答えろ、わが城の中にどうやって入ってきた!」
キラッと光るその切っ先を目にしたとたん、
「ひええっ!」
わたしは思わずパッと両手をあげて、バンザイの姿勢をとった。
こ、殺されちゃう!
「まっ、魔女じゃありません! いたって、ふつうの人間です!」
のんびり見とれている場合じゃなかった!
なんとかしてゴカイを解かなくちゃ!
「ふつうの人間が急にあらわれるもんか! 言え、どこの国の魔女だ! なんの目的でやってきた!」
ちゃんと説明したのに、彼は剣をしまってくれない。
わたしのこと、すっかり魔女だと思いこんでいるみたい。
どうしよう。
どう言えば、信じてくれるの?
「ですからっ、あの――」
時間かせぎしながら、必死に考えた。
これは夢、きっと夢だ。だって、こんなことありえない。
白馬に乗った騎士なんて、現実にいるわけがないもの。
そんなのお話のなかだけのできごとだよ。
現実のわたしはきっと、おばあちゃんの書斎で眠っているんだ。
そうにちがいない。
だから、だから――!
「さっさと答えろ!」
ハッと意識を引き戻される。
でも彼の関心は、すでに次へと移っていた。
「なんだ、その紙切れは?」
「え?」
わたしは右手におばあちゃんの手紙をにぎっていた。彼に言われて、はじめて気づいた。
あっ、知らずに書斎から持ってきちゃったんだ。
そう気づいたとき、カッ、馬のひづめの音がした。
ビクッとなったひょうしに、手紙を抜きとられてしまう。
「おばあちゃんの手紙!」
わたしは立ちあがって、手を伸ばそうとした。でも、剣の切っ先にねらわれているので、馬上の彼のところまでは届かない。
「返して!」
彼は手紙をヒラヒラさせながら、「フン」と鼻で笑った。
「なんだ、この文字は。見たことがない。暗号か?」
「あっ、暗号じゃないよ! ちゃんとした言葉! 日本語だよっ」
「ニホンゴ? ふむ、やはりあやしいな。観念して白状するんだ。どこのだれに情報をもらそうとした! 何をたくらんでいる!」
「ここがどこだかわかっていないわたしに、そんなスパイみたいなことできるわけないじゃん! 言いがかりもいいとこだよ!」
そうしたら、彼は首をかしげた。
「ここがどこだかわかってない……? そのようないいわけ、はじめて聞いたぞ。ははあ、わかったぞ。そういえば信じてもらえるとでも思っているのか? つかまったら、記憶がないふりをする作戦なのだろう? ハッ、おれもなめられたものだな」
そんな! 本当のことなのに。
わたしは奥歯をギュッとかみしめた。
私が何を言っても、彼は信じてくれそうにない。どうしたらいいの?
おばあちゃん!
おばあちゃん、助けてー!
もうダメだと思って心のなかでさけんだ、ちょうどそのとき。
「ジェイク王子! こちらにいらっしゃったのですね~! 勝手にお出かけになられてはいけません! と、あれほど申し上げましたのに~!」
いきなり背中の方で、緊張感をやぶるような、のんびりとした声がした。
「ふう、助かった……」
ホッと胸をなでおろす。どうなるかと思った。
でも、息をつくヒマなんてなかった。
「いつまで、おれの上に乗っている! 無礼者!」
ふたつの青い瞳がわたしをギラッとにらんでいたんだ。
「おれの上?」
わたしがしがみついていたのは、この馬の乗り手、そのひとの首根っこだった。
「わあっ、ごめんなさい!」
おどろいてパッと手を離したせいでバランスを失った。馬から落っこちて、思いっきり強く、地面におしりをぶつけてしまった。
「いたた……」
あまりの痛さに顔をしかめていると、
「さては、おまえ、魔女だな!」
馬上のそのひとは、こわい顔でわたしを見おろしていた。
彼のマントのフードがはらりと肩に落ちる。
はじめて、その顔をまともに見た。
よく見ると、彼はわたしと同じ年ごろの男の子だ。燃えるような赤い髪に、青い瞳。非の打ち所がなく整った顔立ちだった。
しりもちをついたままのわたしは、あんぐりと口をひらいた。
おとぎ話にでてくる旅の騎士みたい。
こんなのって信じられないよ。
夢にしては、なんてリアルなんだろう。
まばたきをするのも忘れて見つめていたら。
その男の子は抜刀し、剣の切っ先をわたしに向けてくる。
「答えろ、わが城の中にどうやって入ってきた!」
キラッと光るその切っ先を目にしたとたん、
「ひええっ!」
わたしは思わずパッと両手をあげて、バンザイの姿勢をとった。
こ、殺されちゃう!
「まっ、魔女じゃありません! いたって、ふつうの人間です!」
のんびり見とれている場合じゃなかった!
なんとかしてゴカイを解かなくちゃ!
「ふつうの人間が急にあらわれるもんか! 言え、どこの国の魔女だ! なんの目的でやってきた!」
ちゃんと説明したのに、彼は剣をしまってくれない。
わたしのこと、すっかり魔女だと思いこんでいるみたい。
どうしよう。
どう言えば、信じてくれるの?
「ですからっ、あの――」
時間かせぎしながら、必死に考えた。
これは夢、きっと夢だ。だって、こんなことありえない。
白馬に乗った騎士なんて、現実にいるわけがないもの。
そんなのお話のなかだけのできごとだよ。
現実のわたしはきっと、おばあちゃんの書斎で眠っているんだ。
そうにちがいない。
だから、だから――!
「さっさと答えろ!」
ハッと意識を引き戻される。
でも彼の関心は、すでに次へと移っていた。
「なんだ、その紙切れは?」
「え?」
わたしは右手におばあちゃんの手紙をにぎっていた。彼に言われて、はじめて気づいた。
あっ、知らずに書斎から持ってきちゃったんだ。
そう気づいたとき、カッ、馬のひづめの音がした。
ビクッとなったひょうしに、手紙を抜きとられてしまう。
「おばあちゃんの手紙!」
わたしは立ちあがって、手を伸ばそうとした。でも、剣の切っ先にねらわれているので、馬上の彼のところまでは届かない。
「返して!」
彼は手紙をヒラヒラさせながら、「フン」と鼻で笑った。
「なんだ、この文字は。見たことがない。暗号か?」
「あっ、暗号じゃないよ! ちゃんとした言葉! 日本語だよっ」
「ニホンゴ? ふむ、やはりあやしいな。観念して白状するんだ。どこのだれに情報をもらそうとした! 何をたくらんでいる!」
「ここがどこだかわかっていないわたしに、そんなスパイみたいなことできるわけないじゃん! 言いがかりもいいとこだよ!」
そうしたら、彼は首をかしげた。
「ここがどこだかわかってない……? そのようないいわけ、はじめて聞いたぞ。ははあ、わかったぞ。そういえば信じてもらえるとでも思っているのか? つかまったら、記憶がないふりをする作戦なのだろう? ハッ、おれもなめられたものだな」
そんな! 本当のことなのに。
わたしは奥歯をギュッとかみしめた。
私が何を言っても、彼は信じてくれそうにない。どうしたらいいの?
おばあちゃん!
おばあちゃん、助けてー!
もうダメだと思って心のなかでさけんだ、ちょうどそのとき。
「ジェイク王子! こちらにいらっしゃったのですね~! 勝手にお出かけになられてはいけません! と、あれほど申し上げましたのに~!」
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