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2章 約束と忘れた思い出

22.鉛とワイン

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コンコンとつつく音に気が付き窓を見ると、小鳥が何かを足につけ、こちらを見つめていた

「おや、タージル坊ちゃんの使いですね?
失礼、今窓を開けましょう」

じいやが近づくとパタパタと飛び上がり、窓が開くとくるりと周り部屋へと入り込んだ

「では、小さなレディ、お嬢様のいる所までエスコートしてもよろしいでしょうか?」

クスリといたずらっぽい笑みに答えるように小鳥もピピピと鳴きながら、じいやの肩へと止まった

「えぇ、それでは行きましょうか」

◇◆◇◆◇
パラり、ペラリ、静かな図書室の唯一の音は真夜が本をめくり紙が擦れる音だけ。
文字の世界に没頭しているとコンコンとノックされる音に意識を現実へと戻し返事を返した

「どうぞ」
「読書中失礼致します。
坊ちゃんからの遣いがいらっしゃいました。」
「あら、早かったわね。」

ピチピチと鳴き飛んでくる小鳥を指に止まらせ、手紙を開き内容を読む…うん?

「ねぇ、じいや。ただの魔法瓶に葡萄酒…ワインを甘くする効果なんて無いわよね?」
「え?あぁ、はい。無いはずですが…
なんと書いてあったのですか?」
「うーん、最近は葡萄酒を魔法瓶に入れて甘くして飲むって言うのが貴族の間で流行っているって…」
「…鉛を使った魔法瓶では無いのですか?」
「違うみたいなのよ…」

はい、これ。と手渡された手紙には魔法瓶を調べてもごく普通の魔法瓶で鉛の検出が一切無かったっ書かれていた

「違うのですか…」
「そう、症状的にも鉛中毒かと思ったのだけど…
ほら、私の世界の歴史でもそういう国があったみたいだから…」

そう言って読んでいた本を示すように手を置いた。
確か葡萄酒と鉛の杯で飲む国が昔存在していて、そしてその国は鉛中毒で様々な有害な影響が出ていたと言われている。
タージル達がいる国はその国との現状がよく似ているように思えた…のだが…

「鉛が出ないなんて…それじゃあ何が原因なのかしら…」
「ふむ…お嬢様、もう一度坊ちゃんに魔法瓶を調べてみるよう言ってみてはどうでしょうか?
それも、貴族が今も使っている、魔法瓶が好ましいでしょう」
「えぇ…?あの子今軟禁状態よ…?
そんなのどうやって手にいれるのよ…」
「なに、丸々一個盗み出せ、と言う訳ではありませんよ」
「…じゃあどうするのよ」

そう首を傾げ眉を顰める真夜に、じいやはにっこりと笑い説明を始めた

「まず、空のワインボトルを調べるんですよ
その後に魔法瓶の中を少しだけ頂くんです。」
「それだけ?」
「えぇ、それだけです。
そうすれば、鉛がどこに使われているのか、もしくは使われていないのかを知ることが出来ます。」
「…最初から混ざっているとかも分かるわね…
まぁ、違ったら違ったで、少し狡をしてしまいましょう…」

全く、本当に面倒事ねと真夜は溜息をつきながらタージルへの手紙へと向かった
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