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2章 約束と忘れた思い出

11.母との記憶、半身との約束

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かちり、かちりと壊れかけの時計を触っていると子供達の眠っているベットからうなり声があがり、真夜はそちらに目を向けた

「んぅ…ぇ…?」
「あら、目は覚めた?」
「だ、だれっ…!!」

先に目を覚ましたのは角が小さな女の子。
びくびくとおびえ少年を庇うようにこちらを見上げている
真夜は少女の頭を優しくなで、落ち着かせるように声をかけた

「大丈夫よ、あなた達を傷つけるものは何もいない
覚えてる?二人とも屋敷の前で倒れていたのよ?」
「え…?」

困惑したように首を傾げる少女の様子から見るになぜあそこにいたのか覚えてはいなさそうだった
いや、もしかしたら屋敷が二人を招いたのかもしれない…

「まぁ、急なことでおどろいてしまうわよね
ここは魔女の理想郷。
何もかもがあって何もない箱庭へようこそ」

すると少女が「え…?」と声を上げまだ夢見心地だった瞳を見開きこちらを凝視する

「まじょ…?魔女が…魔女がいるの?!
ならお願い!!私を魔女に合わせて!!」

震える手で服のすそをつかまれ、涙を浮かべながら訴える少女にただならぬ事情がありそうだと思いながらその小さな手を包み込んだ

「いいわ、でもどうしてだか事情を聞かせて頂戴。
あと、あなた達の名前も、ね」

ゆっくりと促すように頭を撫でると少女はこくりと頷き話し始めた

「うん…私の名前はシロエ、弟の名前はクロエ。
私は双子でずっと一緒なの
でも…クロエは魔王になる素質があるらしくて、それで私は魔力の少ないニーザー…
だから、私たち引き離されて生きていかなきゃいけないって言われてそれで…
逃げ出してきたの…」

俯きながらぽつぽつと語る少女、シロエに耳を傾け聞いていると知らない単語が現れ真夜は話が一旦終わると落ち着いた声で聴いてみた

「ねぇ、シロエ、ニーザーって何かしら?」
「知らないの?角がある人とない人、そのどちらでもないっていう者たちの称号よ」

ニーザー…きっとこの言葉はこの子達の世界での差別用語の1つのような気がする…

「へぇ…そうなのね、角がある人とない人ってどんな違いがあるのかしら?」
「角ありはね、魔素に対応するために進化した姿なの。
角が大きいほど魔力をため込めるからとても強いのよ!
角なしは、そもそも魔素に適応できる体質で体に溜め込んだ魔力じゃなくて、魔素自体から魔法を扱えるの
とてもすごい人になると魔女って呼ばれるようになるの」
「シロエは凄い物知りなのね
でもどうして魔女に会いたいのかしら?」
「…魔女なら、私とクロエを引き離されない方法を考えれれるんじゃないかって…思って…」
「それは、ずっと?死ぬまで一緒にいたいの?」
「うぅん、そこまでじゃないの。
大人になるまでずっと一緒。お母さまが死んじゃったときにクロエと約束したの」

そう言うとポロポロと涙を流し始めたシロエをそっと抱きしめトントンと背中をさすると「お母さま」と小さく呟き嗚咽をもらしはじめた

「ねぇ、シロエ。シロエのお母さまはどんな方だったの?」
「んぅ…おかあさまはね、お国一番の魔女だったの
でもね、私たちを生んだ後に、体調をくずしやすくなっちゃって…それで病気で…
わたしたち、生まれなければまだおかあさまは…」

寂しげに呟くシロエの頬を撫で、いいえと声をかけた

「いいえ、お母さまはシロエ達を産んだことを後悔していないはずよ
だってシロエは弟のクロエを守ろうと出来る優しい子だもの。
子は親を見て育つと言うけれど、優しい貴方のお母さまはきっと優しくて、あなた達の事を沢山愛していたと思うわ。」
「うん、おかあさまはやさしくて凄い魔女ったんだもの
それにいっつも私たちのことを大好きよって言ってくれてた」
「なら大丈夫よ、きっと大丈夫。
優しくて素晴らしい魔女に愛されたあなた達は幸せになれるわ」

ふふふとまだ涙を流しながら笑うシロエの頭を撫で涙を拭いながら考える
母親が魔女だったのならその同族を頼るという考えもできるのだろう
しかしこの子達の世界の魔女がどのような存在だったのかは知らない、分からない。
話を聞いている限り、その母のように心ある者であればいいがどんな存在、どんな種族にでも心のない、危ない者たちも存在する。
というか父親はどうしたのだろうか?
一度も話に出てこない父親のことをそれと無くシロエに問いかけてみた

「シロエ、お母さまがとっても凄い魔女だってことはよく分かったわ。
そんな素晴らしい人が見初めた人…あなた達のお父さまはどんな方なのかしら?」
「おとうさま?私たちにおとうさまはいないわ」
「あら…お母さまの話にも出てきたことはないの?」
「昔、クロエと一緒に聞いてみたことはあったけど…
いつか私たちが大きくなったらねって…」
「あら…そうだったの、ごめんなさいね。
ちょっと気になってしまって…」

なるほど、父親はいない…子供達が生まれる前に亡くなったか…もしくは表沙汰にできない人間…貴族との合間に生まれた子達か…
どちらにしても複雑なのは変わりない
まぁ、なんであれ箱庭で保護するのはもう決めたことだ

「いいわ、それよりいつここの主の魔女に合わせてくれるの?」

「ねぇねぇ」と聞いてくるシロエに少し面白くなってぎゅうっと抱きしめて言ってみる

「あら、シロエったらもう会ってるじゃない」
「え?」

どういうこと?と首をかしげているシロエにクスクスと笑いながらここ、と指をさして見せると驚き目を白黒とさせている

「改めて、ようこそ。魔女の理想郷へ。
つまり魔女は私。真夜っていう名前なの。
呼び方は魔女でもなんでも好きに呼びなさい
それとあなた達の願い、私がかなえてあげるわ」
「え?えぇ???」

目を白黒とさせていたシロエは理解が追いつくと屋敷が震えるほどに大きな声で「えぇぇぇぇええええ?!」と叫んだ











ところで、そんなに大声で叫んでも目覚めないクロエは大丈夫なのかしら?
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