魔女の理想郷で〜それは誰かを待ち続ける少女の話〜

無月

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1章 出会いと記憶

2.出会い

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かつり、かつりと男に先導されリオンとエーデルは長い屋敷の廊下を歩いていた。
屋敷は品の良い調度品が置かれ、廊下から見える庭はよく手入れされているように見える

「おや、庭に何か御座いましたかな?」
「あぁ、いえ素敵なお庭だと、見惚れてしまいましたの」
「それはそれは。お嬢様が手入れをされているので、ご挨拶が済んだら庭を見る許可を取ってみましょうか」
「あら、いいのですか?」
「いや待ってくれ!貴方がいいと言っても
そのお嬢様とやらが泊めてくれる確約など…」
「いいえ、お嬢様は来る者拒まず去るもの追わず、という方ですので大丈夫ですよ。」

そうクスリと男は笑い1つの大きな扉の前で止まりこちらに振り向いた

「さて、お嬢様はこちらの部屋に居られます。
お嬢様は温厚な方なので心配する事はありませんよ
あぁ、それとこの部屋は調合室なのであまり物には触れないように…」

男はいくつか注意事項を言ってトントンと扉を叩く
すると扉はギギギと重圧感のある音を奏でながら開き、男はそれを気にせず部屋に足を踏み入れた

「失礼します、お嬢様」
「お使いご苦労さま、じいや
あぁ、それとそちらのお客人の事ならもうネコが知らせてくれましたので説明は結構よ」

部屋には椅子に座り本を読みながら少女がこちらを見ていた
じいやと呼ばれた男がお嬢様と呼んでいたのでこの屋敷の主であるのは確かだろう

「はじめまして、お二方
私はこの屋敷、どうやら外では理想郷なんて呼ばれているけど…そこの主です。
別に名乗る名も無いですし…そうね、魔女とでも名乗っておきましょう
私の事は好きにお呼びなさい」

少女が魔女と名乗るとエーデルは思わず驚いた声を上げていた

「ま、魔女?!」
「あら、貴方達の国では忌避されるものだったかしら?」
「いいえ!その逆ですわ!
あぁ、お会い出来て光栄です魔女さま!
あっいけない、私ったら…
名乗り遅れました、エーデルと申します
それでこちらは…」
「その夫、リオンと申します。」

キラキラとした憧憬の眼差しを向けられ狼狽えた魔女は1つ咳をし。2人に問う

「随分と物好きなのね
なんて言う名の国なのかしら?」

しかし2人は顔を見合わせ口篭り、困った表情で黙り込んでしまった

「あら、なにか言えない事情でもあるのかしら」
「私達は国から逃げてきたのです」
「ですので魔女さまを疑っている訳では無いのですが…」
「あぁ、居場所がバレないか心配なのね?」
「えぇ…」「はい…」

申し訳なさそうに頷いたリオンとエーデルに魔女は少し息を吐いてじいやを呼んで紅茶の用意をするようにと命じた

「え、あの…」
「少し話が長くなるわ。
紅茶でも飲みながらお話しましょう?」
「はぁ…」

魔女はそう言い何かを呟くとパッと何処からか大きなテーブルとイス、そしてクッキーが現れる

「わぁ!」「おぉ…!」
「そんなに驚くようなものでは無いけど…
まぁ、座りなさい」

促され席に付いた2人の前にじいやが失礼しますと声をかけティーカップを置いた

「さて、あなた達が心配している…
国からの追っ手はこの屋敷には来れないわ」
「魔女さまそれはどういう…」
「だってこの屋敷と外の時間枠は違うし…
そもそも別世界なんだから来れるわけないわよ」
「待ってください、別世界…?!」
「あら、聞いた事なぁい?魔女の理想郷のお話」
「魔女の…理想郷…?」
「もしかして…」

エーデルは思い出す、その名前は昔母が眠る前のおとぎ話として話してくれていた物だと

「お母様が昔、おとぎ話として話してくれたあの…?」
「エーデルはその様子だともう知ってるのかしら
ここは完全なる異空間に存在する私の箱庭
強く願ったもの、そして私の害にならないものだけが招かれる理想郷
だからあなた達が心配するようなものなんて何も無いのよ」
「箱庭…もしや、魔女の箱庭…?」
「あぁ、そっちの名前で広がったりするのね」
「ではここは本当に…?」
「そうよ。だから安心して2人の事を教えてちょうだい」

魔女はティーカップを持ち上げ1口紅茶を口に含んだ
その様子にエーデルは少し口篭りながらも話し始める

「…私達の祖国は、ブージアと言う国です。
私、エーデルにはリオン以外の婚約者がおりました。
でも、浮気や、扱いが酷くて…」
「それで駆け落ちを?」

国にいた頃の辛い記憶を思い出したのか涙ぐむエーデルに変わりリオンが言葉を続ける

「はい…褒められた事ではないと分かっております。
ですが、幼なじみとして、好きな女の子が憔悴しているのは見ていられなかった」
「ふぅん…なるほど事情は分かったわ
そう言えば夫婦として2人はあるわけだけどもう神への誓いはしたのかしら?
それともあまり重要視しないお国柄?」
「あぁ、いえ、誓いは2人だけの教会で、簡易的にですが…」
「あら素敵ね
そんな素敵な2人にいい知らせがあるわ」

魔女は楽しそうにクッキーを摘みながらそう言った

「いい知らせ…?」
「えぇ、知り合いの商人があなた達と同じ世界のようでね、話を聞いたのよ」
「はぁ、それで何が…?」
「ブージア国、滅んだそうよ」
「え?!」「そんなっ…!!」

驚くリオンとエーデルを気にせず魔女は話を続ける

「エーデル、あなた第一王子イリスの婚約者だったのでしょう?
危なかったわね、あのまま国に残り続けていたら無実の罪を着せられ殺されるとこだったわ」

何やら思い当たる事があるのか真っ青になるエーデルに魔女は一封の封筒を差し出した

「あの、魔女さまこれは…?」
「あの商人の先見の明には驚かされたわ
エーデル、あなたのお兄さんからです。
今読んでいいわ。落ち着いたら呼びなさい
私は少し用があるの」

魔女がそう言って扉を開く前にあっと何かを思い出したかのようにこちらを振り向き口を開いた

「ネコ、あとはよろしくね」
みやぁ

「「…え??」」

魔女が座っていた椅子にはいつの間にか赤い首輪をつけた黒猫がちょこんと座っていた
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