上 下
46 / 146
出会いと別れ

キノコとはなんとゆうものか-2-

しおりを挟む
 「少し嗅がせてください…これだ、このにお、ん」
 瓶からこぼれ出たソースが紳士の手に触れる。瓶をそっと置き、ハンカチで丁寧にソースが微塵も残らないように拭く。中々取れないのか時間がかかっている。タスクは待ちぼうけてる。
 「ん、ん~ん…うま、うまい、うま、うーまい。ーー」
 紳士は小さく声で呪文を唱える如く、呟いている。拭いていた手を急に力が抜け、少しまえのめりになる。腕を振りこのように揺れている。揺れは徐々におさまっていく。腕が綺麗に平行線になった時に。
 「なんですかーこのソー~ースこの底が見えない深いコク。香りたつ何にも変えられない絶対的な存在。わからなーいなんなんだこれは~。ぶどう酒、酸味が強いぶどう…葡萄酢、なのかだが塩胡椒はわかるだがあと三つ、いや二つだ。二つは入っている。これは……」
 興奮し大声を出したと思えば自問自答のように呟き出す。
 「それじゃあ、正か…」
 タスクがソースのミソキモを喋ろうとすると紳士は、顔の前に人差し指を出されてそのまま、口に持っていく。
 「それを言ったらつまらないじゃないか」
 紳士は、手を戻し、顎に手を当てる。また静かに呟き出す。このままでは埒が明かない。
 「すみません…ロードシルト卿。こちらでよろしかったですか」
 机の上に岩茸が置かれている。少し臭いがする程度だったが、周囲の反応は顔を顰める。鼻をつまむものもいた。
 「そうだ、キノコだ。キノコだよぉ。この匂い、この風味。もちろん頂いていく」
 また、興奮している。
 「キノコだろ~」
 タスクの顔前により目を見開き笑みを浮かべる。タスクはのけぞり答える。
 「正解です」
 シルト卿は、タスクから離れ、体を揺らし足はステップをふんでいる。
 「あのー…」
 受付の子は待たされ、呆れている。
 「わかっている。今、食の向こうが側に私は今、まさに、立っている。この感動この荒ぶり抑えられるわけないだろう」
 シルト卿は受付の子のことばを遮ぎり、早口で品がありながらまくしたてる。
 その後、すぐに岩茸を取り、タスクに話しかける。
 「キノコのソースは私が売ってあげよう。私の店がマトンセットにある。そこにくればいい…ん、これは、リリーファ嬢ではありませんかー、ご機嫌麗しゅう」
 シルト卿はリリーファに気づき声をかける。シルト卿は親しく話すがリリーファは躊躇して押されている。
 「私,この後用があるので」
 リリーファはそう言うと、ギルドから出ていってしまった。
 「あ、ああ、行ってしまった。それではソースの件待っていますよ。私も暇ではないのでこれで失礼するよ」
 (ああ、キノコとはなんとゆうものなのか)
 シルト卿は嬉しそうに帰っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】禁断の家庭教師

幻田恋人
恋愛
私ことセイジは某有名私立大学在学の2年生だ。 私は裕福な家庭の一人娘で、女子高2年生であるサヤカの家庭教師を引き受けることになった。 サヤカの母親のレイコは美しい女性だった。 私は人妻レイコにいつしか恋心を抱くようになっていた。 ある日、私の行動によって私のレイコへの慕情が彼女の知るところとなる。 やがて二人の間は、娘サヤカの知らないところで禁断の関係へと発展してしまう。 童貞である私は憧れの人妻レイコによって…

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

処理中です...