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第二十三話

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「これは妖精、ピクシーですな」

 ルキナの手のひらに乗る小さな女の子を見て、わーちゃんはうなづく。

「妖精? モンスターか」

「まあ、人間的には自分達以外ほとんどの種族をモンスターと称してますからな。 そうともいえます」 

「死んでるの?」

 ルキナは自分のしたことに後悔しているようだ。

「いえ死んではおりませんな。 気絶しているだけです。 ポイルのポーションて回復できるでしょう」

「ポイル! あっ!」

 ルキナは急いでポケットからポイルを出すも、ポイルはでろりと舌をだしてのびている。

「ポイルもやられたか...... ん? 動き出した」

「う、う......」

 ピクシーは目をあけた。

「なっ! なんなの!? 私の姿みえちゃってる!? あの音のせい!! なんてことしてくれたのよ人間!! やっぱりサイテーね!」

 ピクシーは早口でまくし立てるようにいった。

「ううん、声は私のせい、ごめん」

 ルキナがあやまった。

「あー、んん、あんたその耳モンスター、ならまあ、いいわ」 

 そうオレをみてバツが悪そうに咳払いをした。 そしてわーちゃんをみて驚いている。

「いや悪いわ! 何なのよ! この死神! 私死んだの! やっぱりみんなのおやつ、つまみ食いしたからなのね!」

(ショボいことで死んだと思ってんな)

「し、死神!? わ、私のことですか!」

(うん、お前しかいないだろ)

「そ、そんな、私がそんなものにみえていたなんて......」

 わーちゃんはショックを受けているようだ。

(みんな思ってたけど、言わなかっただけだし)

「まあ、わーちゃんはワイトなんだ。 死神じゃあない死霊だ」

「一緒よ! アンデッドじゃない!」

(人間だけじゃなくて、アンデッドも避けられてる?)

「まあとにかく大丈夫だよ。 ほら契約もしている」

「ほ、ほんとだわ! あんたモンスターと契約できんの!?」

「ああまあな。 それよりピクシー、オーク知らないか? オレたちはオークに会いに来たんだ」

「はぁ! 知らないわよ! 人間とアンデッドなんてオークになんかあわせるわけないでしょ! あっ!」

(こいつ、ちょろいな)

「教えてくれよ。 この子がオークの料理を食べたいんだ」

 ルキナの頭を撫でる。

「その子に料理? まあ確かにオークの料理はおいしいわ! ほっぺたが落ちちゃうくらいね。 でもダーメ! 人間とアンデッドなんかに教えるもんですか!」

 そうプイと横を向いた。

「ほっぺたが落ちちゃう......」

 ルキナがヨダレを垂らしている。

「じゃあさ、ルキナだけでもオークの料理食べさせてやってくんないか、頼むよ」

「だめ! みんなでごはん食べなきゃ! おいしくない!! だーめーー!」

 ルキナが手をつかみオレを振り回す。

「やめ、やめ、あぶな、あぶな、あああああーーー」

「マスター!!」

 すごい勢いでオレは飛び、大木をへし折った。

「う、う...... いたた......」

「いたた!? 嘘でしょ! 普通の人間なら即死してるでしょ! おんたモンスターなの!」

 ピクシーが驚いている。

「ルキナ、めっ!」

「ご、ごめんトラ」

「まあルキナどのは進化がはやすぎて、力の調整がうまくいけないのでしょうな」

 オレたちのやり取りを見ていたピクシーは、腕を組んで考えている。

「......まあ、あんたがモンスターに悪意がないのはわかったわ」

「本当か!」

「ええ、あんなぶん投げられて、その程度で許してるんだからね。 それにその子たちもなついているみたいだし」

 モンスターたちが目を覚ましている。 ルキナの声が怖かったのか、オレの方にすり寄ってきてた。

「それならオークに会わせてくれるか! 助かる!」

「ま、まあ、そこまでいうんなら、会わせてあげないこともないけどーー 会ってくれるかはわかんないよ」

 オレたちはピクシーの少女マゼルダについていった。


「ここ、さっき来たけどなんもなかったぞ。 そしてこの先は崖だ」

 崖下には川が流れているのがみえる。

「私たちが人間に見つからないように、オークの里に魔法をかけてんのよ」

 そういうとマゼルダは何かを唱える。 崖に道が現れた。

「おお、道が!」

「すごい!」

「隠蔽《いんぺい》の魔法ですかな! さすが妖精!」

「へへーん、当然よ!」

 そうマゼルダは胸を張っている。

 先にすすむと、原っぱのようなところに、田畑があり、樹木もしげる。 

「ひろーい!」

 ルキナがモンスターたちと駆け回っている。

「こんなに広いとはなるほど、オークが見つからんわけですな」

「まあ、こんなところがあるなら外に出る必要もないしな」

「......それならいいんだけどね」

(なんだマゼルダ? なにか含む言い方だな。 何かあるのか)

「うわぁ!」

 遠くで声がする。 そこにはキグルミのような二足歩行のぶたさんがいた。

「あれか! あれがオーク、イメージとぜんぜん違う!」

「ひぃぃぃぃ!!」

 オークはこちらをみると、そう叫んで走り去っていった。 

「あっ!」

 追いかけるとそこには土をくり貫いたのはような丸い住居が多くたち、それぞれオークたちは家にみな入ってしまった。

「ねっ、こうなったでしょ」

 マゼンダはそばまで来てそういった。

「この怯えかた。 臆病だとかなのか、ちょっと普通じゃないが......」

「まあ、あんたもだけど、そっちよ」

「えっ!? 私ですか」

「ええ、今オークたちはアンデッドに悩まされてんの」

「アンデッド?」

「一年くらい前、この森の奥にあった封印された遺跡に、人間たちが入ってアンデッドたちをよみがえらせたらしいわ。 それで夜な夜なアンデッドたちがこの近くをうろついて、オークやモンスターを襲うの」

 モンスターたちも怯えている。

(モンスターがモンスターを襲う、それに遺跡に人間が?)

「まあでも、ここにいれば平気だろ」

「それがそうでもないのよ。 ほら見てみなさい」

 小さな手で畑を指差す。 よくみると作物がしぼんでいるのがわかる。

「なんか枯れてる......」

 ルキナがそういった。

「そう、なんか魔力がその遺跡からあふれだして作物がうまく育たないのよ。 それでオークたちは森の中や川で魚や野菜をとらなければならなくなったの」

「まあ魔力が過剰に供給され耐えられずにかれたのでしょうな」

「それって暴走みたいなもんか。 それでそこにアンデッドか」

「ええ、昼は人間から隠れ、夜はアンデッドから隠れ、気が休まらないのよ」

「あっ! マゼルダ!」

 遠くからピクシーたちが大勢飛んできた。

「なに!? 人間をここにいれちゃったの! それにアンデッドまで!」

「だめだよ! オークたちが怖がっちゃう!」

「私たちがせっかく魔法でここを隠してたのに!」

 ピクシーたちがそう口々にいった。

「まあ、こいつらは変だけど、大丈夫よ。 ほらモンスターもなついているでしょ」

「えっ? ほんとだ。 なんなのこの人間?」

「ほら印がある契約してるみたい!」

「うそっ! モンスターをテイムできるの!?」

 ピクシーたちはそう飛び回って騒がしく話している。

「ああ、そうだ。 君たちもオークに話してくれないか」

「ええ、どうしよっか?」

「どうするのマゼルダ」

 ピクシーたちはこそこそと顔を寄せあって話し合っている。 そしてマゼルダがこっちに飛んできた。

「あんたたちアンデッドを退治してきてよ。 それなら私たちがオークに話をしてあげる」

 マゼルダはそういって条件をつけた。


「なあこっちかマゼルダ」

「そうよ。 この奥」

 オレたちはオークと会うため、遺跡の方へと向かっていた。

「それにしてもアンデッド討伐とはな。 わーちゃんアンデッドってポーションがきいたよな」

「ええ、まあ、今のマスターなら、剣でも魔法でも倒せるとは思います」

「えっ、そうなの」

「アンデッドは魔力でその命をつないでいますから、たちきれるだけの魔力があれば倒せます。 マスターはいままでの戦いにて魔力を体内に大量に取り込んでおりますからな。 その強さは通常の人間をはるかに凌駕するのですよ」

「なーるほど、それであんなに頑丈だったのか」

 マゼルダは納得している。

「そうだったのか、知らんかった。 オレって強くなってたのね」

「あんた適当ね。 それでこの後その子たちどうすんの?」

 マゼルダはあきれるようにいって、くいくいとあごをだした。 そこにはオレが契約したモンスターたちがいる。

「ん? ああ、もちろんオレたちと帰って暮らすよ」

「暮らす? モンスターと? なにいってんの? そんなの無理よ」

「無理じゃないよマゼルダ」

 ルキナが木の棒をふりながらいう。

「だって人間とモンスターが暮らすなんて、人間が許すもんですか」

「我らの島には人間はマスターともう一人の二人だけなのです。 そしてマスターはその島の主」

 わーちゃんはそう補足する。

「はあ? 人間が二人の島...... 主、そんな場所この世界のどこにあるのよ」

「魔王島だ。 オレたちは魔王島にすんでいるんだ」

「ま、魔王島!? あそこって強いモンスターしかいない場所じゃない。 そこに人間のあんたが統治してるっていうの......」

 マゼルダは言葉を失っている。

「なあそんなことより、オークは元々人間とすんでいたんだろ。 なんでこんなところに隠れてるんだ」

「え、ええ、それは人間に追いたてられたからよ」

「追いたてられた?」

「昔、この辺りで疫病が流行ったことがあったの。 でもその病気は人間にしかかからず、オークたちは無事だった......」

「まさか」

「......そう、人間たちはオークが、人間にわざとうつしたか、魔法や呪いをかけたと思い込んだ。 それでオークたちはこの森に隠れすんだってわけ。 昔、人間作った国は魔王に滅ぼされたあと、荒れたこの土地を開拓したのはオークたちなのにね」

 怒ったようにマゼルダがいった。

(そういうことか......)

「で、お前たちは何でオークたちと一緒にいるんだ」

「私たちはモンスターに住みかを追われて旅をしていたの。 その時、オークの森をみつけたのよ。 優しくて穏やかなオークたちは私たちを受け入れてくれたの」

「それで魔法で隠していたのか」

「ええ...... ほらここよ。 ここからアンデッドがでてくるの」

 マゼルダはヒラヒラ飛びながら、石造りの遺跡を指差した。
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