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最終話

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「超能力? それは魔法じゃなかったのか」

「なるほど、それでそんな力を」  

「それじゃリンは古代人なのか」

 アエルたちが不思議そうに、そして納得するように私をみている。

「それで魔素のないここで力を使えるのか...... 科学を超越する力か......」

 ゼフォレイドもこちらをみすえた。

「ええ、【時間移動】《タイムリープ》したみたい。 あのとき、生物兵器に反応して、やみくもに使ったことのない力を発動し、ここに来たんでしょうね」 

「ならば教えてくれ、古代人よ。 私は間違っていたのか...... ならばなにが正しいのだ?」  

 ゼフォレイドは懇願するように聞いてくる。

「......私にもわからない。 ただ、私が知る限り人類の歴史は間違いだらけ、けれどそうして進んできた。 それでも生きている。 それだけは事実......」

「......そうだ。 魔族も人も勇者も、結局ただの哀れな人間にすぎなかった。 これからどうするかはそれぞれ己で考えることだ。 他の人間が選ぶことじゃない」

 アエルはそうゼフォレイドをみていう。

「そうね。 罪があろうとなかろうと、私たちは精一杯いきるだけだわ。 やり直すならやり直せばいい」

「ああ、そうだな。 私は母と国をあきらめたことを後悔している。 そして、やり直して国と母を救うことができた」

 ケイレスとセリナはうなづく。

「魔族としての罪を私たちも受け入れるしかないのです」  

「そうね。 そうして、生きていくしかないのですもの。 いまは生きているのだから」

 レイエルとアストエルは互いの顔をみてそういった。

「罪を負いながらか...... それでも生きていかねばならないのか......」

「そうやってさまざまな罪をおかしながら、記憶を戻す薬や魔族の理性を戻す装置、魔族を正常にする装置を少ない情報で今の人はつくり得た人たちもいる」 

 そう私がいうと、ゼフォレイドはしばらく沈黙した。

「......私は絶望感にとらわれて、罪にばかり目がいってしまっていたのかもしれない......」

 そしてゼフォレイドが目を伏せた。  

「だから、あなたが一人で罪を背負う必要はないよ。 人間すべての罪だから......」

 そういうと、ゼフォレイドは無言で大粒の涙を流した。

(私も...... )

 そう思いながら私たちは町へと戻った。


 それから半月たった。 魔族と人間は停戦し、外交関係を樹立。 お互いに人を行き来させるまでになった。

「魔族と共同でモンスターの掃討を始めていますわ」

「モンスターは強くなっていますが、かなりの土地を開拓できていますね」

 アストエルとレイエルがそういうと、ダンドンさんが頷いた。

「これから忙しくなるぞ! 魔族との取引もある」

「ええ、ここの魔族が、他の魔族に知識と技能を伝えに向かっています」

 マーメルが微笑む。

「ディラルはなんとか意識が戻ったわ。 ゼフォレイドが助けてくれたの」

 ケイレスが安心したようにいった。

「ええ、ゼフォレイドと魔封珠の解析を進めて、他の古代遺物も分析していますよ。 そのうちモンスターも克服できます!」

 フォグが笑顔でそういう。 みんなもう次へとあるきだしている。 

(私も...... 向き合うしかない)


 私はアエルと海にきていた。 アエルが急にいきたいと言い出したからだ。 夕陽で海が赤い、波打ち際でアエルがはしゃいでいる。

「リン、どうした? 浮かない顔だな。 どうしてきたかがわかったなら、いずれ帰れるはずだろ」
 
 心配そうにアエルが聞いてきた。

「......それで急に私を連れ出したのね」

「......もし、過去に帰れるなら、帰ればいい。 そしてやり直せ、お前の世界をもう一度......」

 そう真剣な顔でアエルはこちらをみている。

「そんなことをしたら未来が変わる。 アエルたちはいなくなってしまうよ」

「そうかもしれない...... でも、お前がそんなに苦しむなら...... それでもいいんだ」

 そういわれて少し言葉がでてこなかった。

「......私が苦しんでいるのは、未来にきたからじゃない。 私が罪を犯したからだよ」

「罪...... ダルグタールのことか」

「......違うの。 幼い頃の話。 異能をもった私に気づいた両親は私を恐れ嫌悪した。 それを私は催眠によって変えたんだ。 二人に愛されるようにと......」

「それが失敗したのか」 

「いいえ、彼らはそれから私を愛した...... だがそれは偽りの感情、私が彼らを変えた。 でもそれは、本当の彼らではない別の誰かにししたということ...... そう気づいた私は、能力を封じた」

「......リンが催眠を使わなかったのはそれでか、それがお前の罪か」

「それもあるけど...... 私の力ならもっと大勢の人を救えたんだ。 そして力さえ使いこなせていたら、生物兵器さえとめられただろう。 大勢の人間か苦しんでいるのを知りながら、私は全て見捨ててきた。 罪から逃げたために...... そして新たな罪をおかした」

 アエルはしばらく沈黙した。

 静寂が流れる。

「......そうだな。 お前が罪と向き合っていれば、多くの人を助けられたかもしれない。 だがその罪の結果、私たちはここにいる...... リンは私たちと共に生きている、それが事実だろ」 

 そういうと、私をみてアエルは微笑んだ。

「......そうだね。 そうだ。 そう生きていくしかない」

(この世界と共に罪を抱えて......)

 そうアエルと日が暮れていく空をみながら、私はできるだけ明日のことを考えることにした。
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