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第四十五話

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「本当にいくつもり...... 死ぬかもしれないよ」  
 
 私の言葉にアエルたちはうなづいた。

「魔族の国の案内が必要だろう」 

「さすがにこのまま放置もできないですわ」 

「そうだな。 ザルギードさまを葬ってくれた。 その礼でもある」

「ええ、それに私がいないと、壊してしまう可能性もあるでしょう」
 
(説得は無理か......)

 アエルたち六人を連れて魔族の領地へととんだ。


 私たちは魔族領地に入るが、一度転移座標を指定するため、城から少しはなれた森に隠れ一晩野宿することにした。

「それにしてもアエルたちが魔族とはな」

「ええ、あの町に魔族たちがあれほどいるなんて......」

 セリナとフォグが驚いていた。 私たちはアエルたちの正体をあかしていた。

「あそこにいるものとたちは角が折れたか、もともとが小さなものたちかだ」

 アエルは持ってきた魚を火であぶりながらそういう。

「やはり角が小さなものほど攻撃性が少ない。 フォグのいっていた通りね」

「ええ、おそらく角を伝って心を乱しているのでしょう。 それらしいことを文献で読みました」

 フォグが作った焚き火に枝をいれながらそう答えた。

「魔素か...... 魔王が操作して、それで戦争も起こしているのでしょうか」

 レイエルかそういう。

「......そこまではわかりませんが、文献をひもとけば、どうやら一定の条件で人間を襲っているようです」

「一定の条件ってどういうことですの?」

 アストエルは首をかしげた。

「人間が多くなったり、人間同士の大きな戦いがあったり、そんな時には必ず魔族による進攻があるそうです」

 フォグがいうことにアエルがうなづいた。

「そういう話を聞いたことはある。 魔王の勅命は唐突に発せられると」

 レイエルとアストエルもうなづく。

「そういえば、アエルたちは魔王をみたことがあるの?」

「いいや、ない」

「というより、ほとんどの魔族は魔王の姿をみたことがないと思います。 魔王の城には封印がなされ、入ることは許されない。 命令のみが頭に伝えられるのです」

 レイエルが思い出すようにそう答えた。

(命令のみで魔族が従うのか?)

  
 次の日、座標を認識し、私たちは姿を消して空を飛び、魔族の国へと入った。

 眼下に前に入ったスラムがみえる。

 そして大きな壁を越えると、人間のような町がみえた。

「ここが上位、中位魔族の住む場所です」

 レイエルがそういう。

「人間の都市のよう。 魔族はこんな文化をもっていたのね」

 ケイレスが興味深げにいう。

「最初は人間を殺していただけでしたが、捕虜にしたものがいて、町を作らせたそうですの。 それを中位、下位魔族に真似をさせ作り上げたらしいのですわ」

 アストエルはそういった。

「そういえば、魔族は最初武具もない、ただの暴れるだけの人型のモンスターだったらしいですが、世代が変わるたび、少しずつ武具を揃え剣や槍の技を覚え、戦略、戦術を使うようになったそうです」   

 フォグが補足してくれた。 

「つまり、進歩していったということか、それでアエルのようなものたちまで生まれてきた」

 セリナがそういう。

「確かに若いものの方が角が小さく、攻撃性も少ない者が多い」

 アエルがそう答えた。

 すると遠くに巨大な城がみえてきた。

「城だ。 上からはいれるところがないか調べよう」

【遠隔透視】《リモートビューイング》を使うと、城には窓も扉もなく、完全に密閉されていた。

「中に移動はできないのですか? リン」

 アストエルがそういう。
 
「何があるかわからないからね。 感覚での座標指定だから、座標がくるい壁のなかに転移して即死もありうる。 安全なのはせいぜい見える範囲だけ」 

「やめとこう......」

 アエルがいうと、みんなうなづいた。

(【遠隔透視】《リモートビューイング》だと座標位置が指定しづらい。 だがこの内部は......)

「しかし、全く入り口もないとはな。 警備の兵すらいない」 

 セリナがそういう。

「封印されているなら、警備も必要ないのでしょうね。 どこかの壁を壊せないですかリンどの」

 そうフォグが聞いてきた。

「広すぎるから。 周囲から死角の場所を探して」

「あそこは、一番高い塔の裏」

 ケイレスがそういうので近づいてみる。

「ああ、ここの壁を壊そう」

「だが、音がすればさすがに嗅ぎ付けられますよ」

「大丈夫、レイエル、【音念力】《フォノンキネシス》」

 壁を破壊して中にはいる。

「なんだ!? 音がしなかった」  

「音波を操作して、壁の破壊と消音をしたんだろう」  

 アエルがそう説明する。

「なんなんですか? その文献や本でも、あなたの使う魔法は一つも聞いたことがない......」

 フォグが驚いている。

「まあ、リンだしね」

「そうだな。 考えても仕方ない」

 ケイレスとセリナはあきれたようにいうと、レイエルとアストエルはうなづいた。

「あれ? なんだ魔法が使えない......」

 中からアエルの魔法で壁を直そうとしているができないようだ。 

「本当にでないですね」

「確かに魔法がつかえませんね...... もしかしたら魔素が少ないからかも」

 レイエルとフォグが困惑している。

「リンはどうだ?」

 セリナにいわれる。

「暗いし試してみよう。【光念力】《フォトンキネシス》」 

 光の玉が城の内部を照らす。

「どうなってるのです!?」 

 アストエルたちが驚いている。

「さあ」

(まあ、私のは魔法と違い超能力だから)

 私たちは階段を降りていった。

 
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