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第二十四話

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「グオオオ!!」

 そう巨大な猿がこちらに気づき向かってくる。

 ーー水よ、たゆたう汝の身を凍てつかせろーー

「ビルド、アイスフィールド」

 アエルがそう唱えると、水が放たれ猿たちが一瞬凍る。

「【炎念力】《パイロキネシス》」

 凍った猿を私は炎の熱でやく。

(これで、皮膚はもろくなるはず......)

「みんな、攻撃!」

 私の念話で、左右から冒険者たちと騎士たちが襲いかかる。

 巨大な猿が次々と倒れていく。 

(冒険者も騎士団も若いのにかなり強いな。 特にディラルとケイレスは別格だ...... これなら少し手を貸すだけですみそう)

 更に猿たちを一瞬、【念動力】《テレキネシス》で動きを止めて、みんなに倒させた。

「結構あっさり倒せたわね」

「グランドエイプをこんなに簡単に倒せるなんて......」

 ディラルとケイレスはそういって驚いている。

「二人とも、こんな風に山にいるモンスターを狩っていくよ」

「はい!」

「ええ!」

 それから私たちは山に住むモンスターたちを一掃していった。

 夕方までにはかなりの数のモンスターたちを倒すことに成功する。

「これでほとんどのモンスターは倒せた...... あとは最後に強いものを倒すだけだ」

 アエルがそういって笑顔で食事を取っている。

【遠隔透視】《リモートビューイング》で周囲を確認する。

「本当にスタンピードを止められるだなんて......」

 ディラルはそう言葉を止めた。

「あら、あんた自分の力を信じてないの?」

 ケイレスはそういって笑う。

「そ、そういうわけではないが、今までスタンピードを止められたことなどなかったから」

「まあ、できて避難がせいぜいだからね」

 感慨深げにケイレスはそうつぶやく。

「ですが、リンさんの全体への指示でうまく連携がとれました」

「そうね。 これだけの人数全員に的確に指示できるなんて、すごいわ」

 二人は感嘆していう。

「別に大したことはないよ。 騎士団も冒険者も優秀だから」

(実際、かなり戦術や戦闘技能がたかい。 よく考えて動いている)

「それにしても、強いとはいえ、新人にこんな危険な任務を与えるとはな」

 アエルが不満げにいう。
 
「お二人の名声もありますが、正直すべてのスタンピードを止めることは難しいと考えていたようですね」

 ディラルはそういった。

「それで可能なところを優先してベテランたちに対応させ、こっちは少しでも減らせればいいという考えね」

「......まあ、ここに兵力をさいてもし失えば、ゼヌエラと魔族に襲われかねないものね」

 腕組みしていたケイレスは真剣な顔でそういう。

「元々人間の二つの国はひとつだったんだろ」

 アエルがいうとディラルとケイレスは怪訝そうな顔をしている。

「すまない。 私たちは世間から離れて必死に魔法を鍛練していて、世の中にはうといんだ」

 そうフォローした。 ディラルとケイレスの二人は納得したようにうなづいている。

「なるほど、それでそんな強力な魔法を使えるのか......」

「ゼヌエラも元々はラクエス国の一部でした。 しかし、十年前の【元勇者】ザルギードによる反乱戦争でゼヌエラは独立し、敵対しております」

 ディラルはそう教えてくれる。

「元勇者......」

「そのザルギードは勇者だというのは知っている。 それがなぜ国を離反したのだ」

 アエルが聞いた。

「ええ、それについてはあまり詳しくは...... 権力を欲したとしか」

「まあ、勇者はみんな大戦後失踪してるから、おそらく巨大な力を得て勇者になったものの呪いのようなものだとみんな噂してるわ」

 ディラルが口ごもるとケイレスはそう補足した。

(ザルギード以外の勇者はすべて姿を消しているのか...... ん?)

(......それでも私はあの人のような勇者になりたい。 人々を救いたい)

 そうディラルの心の声が聞こえた。

(ディラルは勇者を目指しているのか......)

「あとは、最後に残したモンスターを討伐するよ」

「はい」

「ええ」

 私たちは最後に残したモンスターのいる場所へとむかう。


「最後、あれが本当にいるのですか?」

「信じられないけど......」

 ディラルとケイレスは緊張していう。

「ああ、間違いない。 九本の首をもつ巨大な蛇だ」

【遠隔透視】《リモートビューイング》でみたその姿を二人に伝える。

「ヒュドラだな」

 アエルがそういう。

「......そんな神話のモンスターがいるなんて」

「だとすると九本の首を切り落とさないと再生して殺せないわね」

 ディラルとケイレスはそううなづく。

(ヒュドラか...... だが...... いやいまはいい。 毒と再生能力を止めるのを考えよう)

 みんなに作戦を伝え、私たちは山頂へとすすむ。

 
「いた」

 山頂付近広くなったところに多頭の大蛇がとぐろを巻いている。

「みんな作戦通りにやるよ」

「はい」

「ええ」

 私とアエルが先行する。 蛇が気づきその鎌首をもたげ口から紫の液体を吐き出した。

(来た毒液)

「アエル」

「わかった!」

 ーー水よ、汝のその身を球にかえ溢れさせよーー

「ビルド、アクアスフィア」

「【冷念力】《クライオキネシス》」

 アエルが水球を毒液にぶつけ、それを私が凍らせた。 

「【離転移】《アスポート》【炎念力】《パイロキネシス》」

 凍りついた毒液を蛇の頭上に転移させ、それを炎でとかした。

「ギャオオオ!!」

 蛇が自分の毒液を浴びのたうちまわっている。

(いまだ、みんな攻撃を)

 全員に伝えると、一斉に周囲から飛び出し、剣や槍、斧、弓、魔法などで攻撃を加える。

「アエル、ディラル、ケイレス首を狙え」

 私が暴れる蛇を【念力】《サイコキネシス》で押さえつけ、ディラルたちは首を切り落としていった。
 
「グオオオオオ......」

 すべての首を切り落とすと、蛇はそう咆哮して地面に伏せた。
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