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第十話

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「かなり集まったね。 正直、人間の私を信じると思ってなかったのだけど」

 マーメルがここにいる下位魔族たちに働きかけて、この建物に魔族たちが集まって来ていた。

「ああ、ここにいたら戦争の肉壁に使われるか、狩られるか、玩具にされるか、飢えるかしかないからな。 それなら敵対種族でも一筋の希望にすがり付くのも無理はない」

 アエルがそういうと、マーメルはうなづく。

「特に私たち若い世代は、戦いを好まなくなっております。 昔は好戦的なものしかいなかったようですが...... それに昔からアエルさまはここのものたちに救いの手をさしのべてきました。 だからみんな動いたのです」

(確かに若者が多い。 まあ、こんな扱いならそうなるだろうけど、それにしてもアエルの影響力はすごいな)

 みんなが慕うアエルの姿をみる。 

「マーメルあと、どのくらい集まりそうだ。 あまり人の移動が激しいと気づかれる恐れもある」

「あと一日あれば、ほとんどのものを説得できます」

「わかった。 それまでに座標を調整する」

「マーメル! まずい! 兵士を率いて上位魔族がきている!」

 若者の一人が走ってきた。

「そんな! なんで!」

 アエルは焦っている。

「......多分戦争のための兵あつめだろうね」

 私がいうとアエルは唇をかんだ。

「......兵というよりは、ただの捨て駒だ」

 アエルはそうはきすてた。

「わかった。 そいつは私たちが何とかするから、マーメルたちは残っているものを早く集めて」

「はい!」

 私とアエルは姿を消し外にでた。

 
 多くの兵士と、背丈ほどの槍をもつ大柄の者が乗っている竜のようなものと地面に降りてきた。

「どういうことだ...... あやつらがいない」

 その魔族は低い声で話した。

「わかりません...... ここより向こうはモンスターのいる山道、皆がそこにいったとしても、全員死ぬのはまちがいありません」

「戦より死を選らんだ...... 魔族にはあり得ん惰弱さだな。 追って皆殺しにしてくれよう。 いやいるな...... 向こうに大勢集まっておる。 それに......」

「ガイエルさま? ぐはっ!」
 
 ガイエルと呼ばれたその男は、その巨大な槍で鎧ごと兵士を突き刺した。 その鮮血が私たちにかかる。

「なっ! 誰だきさまは! 人間と魔族だと!!」

 兵士たちは私たちを囲んで剣を抜いた。

(血液で光が遮られたか......)

 力を解除し、姿を現した。

「きさま...... そっちはアエルか、まだ生きていたか......」

「なぜ、そのように非道をする!」

 アエルが叫んだ。

「非道? この兵士のことか」

 槍先の兵士を無造作に投げ捨てた。

「こやつら下位、中位魔族は我ら上位魔族のために生きている存在だ。 役にたったのだから感謝すべきだろう」

 事も無げにそういった。

「なにをいっている! 同じ命だぞ!」

「同じではない。 我らはこの世界に上位魔族としての役割がある」

「その役割ってなんなの」

 私が聞くとガイエル眉を動かす。

「心の声か...... 珍しい魔法だな。 我らには人間たちを駆逐し、魔族の世界をつくる役割がある」

 そういうとすさまじい勢いで槍を私の方に振り下ろしてきた。

「【念力】サイコキネシス」

 周囲の兵士たちの剣が私の前に集まり、槍を防いだ。

「なんだその力、魔法か...... しらぬ魔法だな。 貴様ただの人間ではないな」

 ーー大気よ、汝集まりて、荒ぶるその力を放てーー

「ビルド、エアロバースト」

 こちらに圧を感じた。

「テレポート《瞬間移動》」

 アエルをかかえ後ろに距離を取ると、目の前で空気がはぜる。

「ぐわぁ!!」

 兵士たちが、その爆発で吹き飛ばされた。

「なんだ...... 回避したのか、その移動魔法、詠唱もなしなど聞いたこともない」

 ガイエルはそういうと槍を構える。

「アエルこいつやってもいい」

「......ああ、構わない。 奴ら上位魔族は多くのものを自らの私欲で苦しめ殺めた。 罪を償うべきだ」

「......罪、それは貴様のことだアエル。 我ら上位魔族の責務を捨て、慈悲や優しさなどを説くなど惰弱にも程がある。 この場にて死をくれてやろう」

(レッサーデーモンより強いだろうけど......)

「アエル離れていて」

 離れたアエルを確認していると、槍が突き刺してきた。

 それをかわす。 後の家が槍で破壊された。

(速い。 しかも当たったら即死。 だけど......)

 つぎつぎ突き刺してくる槍を全てかわす。

(こいつ、なぜ当たらない。 肉体的にそれほどの力があるようには見えない。 何かの魔法か......)

 ガイエルがそう考えている。

(まあ、【念話】《テレバス》で思考を読んでるから。 とはいえ広範囲に攻撃してくれば、危険がアエルたちに及ぶから気を付けないと......)

(勇者...... いや奴らは感情もなく魔族を殺戮する。 こいつが勇者ならばアエルが生きているわけがない)

 保険に【共感】《エンパス》も使ってるが、ガイエルがかなり困惑している感情が伝わる。

(まあいい、これで殺す。 最大の風の貫通魔法だ。 この距離なら回避も防御もできぬ)

 ーー風よ、汝の身を流れを束ね、その刃よ、瞬いて穿てーー

「ビルド」

 ガイエルの周囲にすさまじい風が集まり複数の槍のようになる。

「エアロハルバート!!」

「【空念力】《エアロキネシス》」
 
 ガイエルから放たれた風が方向をかえ、風の槍は騎乗の竜ごとガイエルを貫いた。

「なっ! 我の風が...... がはっ!!」

 ガイエルは地面に落ち、そのまま動かなくなった。
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