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最終話

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 空を飛び続けていくと、荒れ果てた大地がみえてくる。

「あれが、北の大陸か、みんなは大丈夫だろうか......」

「戦力は拮抗しています。 ですが操っている神を倒せば、彼らは統率を失い瓦解するはず」

「早くしないと、どこかわかる」

「あそこから強い魔力を感じます」

 そうセイちゃんは高い針のような山を指差した。

「それにしてもなにもない......」

「ええ、負の魔力が濃すぎて生物や植物もあまり育たないのでしょう。 ここではモンスターたちが食らいあう地獄のような場所だったはず」

「......そうか」

 山に近づくと洞窟がある。 中へと進む。 奥には扉があり、今にも崩れそうな石のピラミッドのように石がつまれた祭壇があった。

「先史文明の遺跡か......」

「おそらく、信仰心があったときのものでしょう」

「それを失った......」

 その祭壇に二本の柱が立っている。

「あそこは空間が歪んでいます。 おそらくあそこかと」

「いってみよう」

 祭壇に上り二本の柱の前に立つと、景色がかわる。 そこは空が夜のように真っ暗なのに辺りが見えた。

「きたか...... 近づいているのわかった」

 誰もいない円卓の椅子にディランタがすわっていた。

「他の神は......」

「みんな消えてしまった...... 信仰心のなくなった神は力を失い消えていくだけ......」

「アルトはお前たちが消したんだろ」

「アルトは、人によりすぎた。 神として契約を守るため勇者を作ったが、その勇者に憎まれ自我を失った。 お前の後ろの精霊からアルトの魔力を感じる......」

「セイちゃんから...... まさか!? あの黒いやつか!」

 おれは前に戦った黒いやつを思い出した。

「神でありながら、人を愛するとは愚かな......」

「お前はこの世界も滅ぼして、自らを信仰する者たちを産み出すつもりだろう」

「......いいや、私は死神として恐れられたゆえ存在している。 しかしこの世界が発達すれば私も消え去るだろう。 その時起こることはなんだと思う」

「神のいない世界...... それがどうした?」

「神は恐れ敬われる。 それは人に恐怖と愛を与える。 それゆえに罪をおかすことを恐れ、救いをえられると信じる。 それがない世界は自らの欲求に従い、人々はひとではなくなるだろう。 ただ生きている何かへとかわる...... 北の大陸のモンスターのように」

「だから滅ぼそうとするのか」

「私がいれば再び人々は生まれる...... しかし神がいなくなれば人々は生まれては来ない...... 例え異神がいてもだ」

「次の人間が生まれない...... だからこの世界を滅ぼすのか」

「そうだ。 このままだと文明は発達し神を失う。 そしていずれ滅んでしまう。 それは生命全ての滅びだ...... 神としての我らの意義を失う」

「それで、魔王も作ったのか」

「我らは人とモンスターを生んだ。 ハークレアは最後に魔王を命をかけて生み出した。 他の者たちもだ。 エンティーラは長命なエルフを、アルトは人間を、私はドワーフを生んだ。 もう私以外は消えてしまったがな...... 人が神は信じなくなったからだ」 

 そうディランタは目を伏せた。

「......ちがうな」

「ちがう? なにがちがう」

「神も人間を信じられなかったからだろう。 人間が滅ぶと決めつけた。 結果はわからなかったはずだ」

「我らが間違っていたと......」

「心という矛盾するものをもつ以上、完全なものなど存在しない。 お前たちも強大な力をもつがしょせん神という一種族に過ぎないんだ」

「......確かに、我ら自身、なんでもできるがゆえに万能によってしまっていたのかもしれぬな...... しかしそれが神であろう」

「あんたたちは神としての役割を演じていただけだ」

「......万能と決めつけていたというのか...... ではお前は神としてなにをする?」

「わからない...... 力があっても何をするべきなのかわからない。 多分悩みながら生きていくだけだ」

「そうか...... 悩むか...... 我らは悩むべきだったのかもしれないな...... さすればこの結果とちがう未来があったのか」

「それであんたはどうするんだ」

「......その剣で私をきるがいい。 さすれば私の操るモンスターは動きを止めるだろう」

「いいのか......」

「私はもうつかれたのだ...... 幾度も世界を滅ぼし、神としていきることに、生命は自らのいく末を自らで決めるがいい。 滅びも生きることも......」

 おれが剣をとりためらっていると、ディランタが剣に自らの胸を押し当てた。

「これでいい...... これで楽になれる」

 そうディランタは微笑むと光となって消えていった。


「マサト! どこいった!?」

「出てきなさーい!」

 いつものようにデュセとリーシェが、おれを追いかけて探し回っている。

「ふぅ、やっと逃げられた」

 戦争から一ヶ月立っていた。

 神の世界から戻るとこちらが勝っていた。 北のモンスターたちは同士討ちを始め、勝手に瓦解していったという。

「大変ですね。 毎日毎日」

 セイちゃんが同情してくれる。

「ほんとうだよ。 ここ最近、全然かまってくれないと追い回されてるんだから」

「それでどうされるおつもりですか?」

「うん?」

「もうあなたの力なればもとの世界に戻ることは可能なはず」

「多分ね...... ただどうしようか決めかねている」

「神としての役割ですか」

「ちがうよ。 そこに縛られるとおれも間違う気がするんだ」

「なんでもできるのにですか?」

「なんでもできるのは、なんにもできないことと変わらない気がする。 なにをしていいかわからなくなるから。 滅んだ神たちのように......」

「......かもしれません。 手本もなにもないですからね」

「この力はないほうがいいのか。 ある方がいいのか、おれは
これからも悩むんだろう。 そしてその方がいい」

「そうですか...... あなたもこれから自分でお決めになられるのですね」

「ああ、セイちゃんもね」

「ええ、私も役割をおりました。 もう必要ないですものね」

 そう寂しげにセイちゃんはいった。

「いいや」

 セイちゃんは怪訝な顔をしている。

「助言は必要だよ。 間違わないように、間違ったときただせるようにみんなからも話を聞くから」

「......そうですね。 わかりました」

 そうセイちゃんは微笑んだ。

 遠くからデュセとリーシェの声がちかづいてくる。

「ふー 相手でもするか」

 おれは、これからも悩みながらいきる。 神になってもそれは変わらないのだろう。

 そう思いながらおれは空をみた。

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