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第二十一話

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「まずいな。 仕事もない」 

「まあ、手持ちがあるから一週間はいられるけど、一度戻って仕事してくる?」

 そうメルムが袋をみながらいう。

「ごめんよ......」

 一人の子供がメリムにぶつかる。

「ちょっとまて」  

 通りすぎようとする子供の腕をレフィーネがつかむと、地面にメルムのサイフがわりの袋が落ちた。

「スリか」

「はなせよちくしょう! この金は返さないぞ!」
  
 小学生くらいの子供のスリは暴れている。

「まあ、そんなに手荒なことはしなくても......」

「子供のうちからしつけないと大変になるぞ」

 かばうメリムにレフィーネは強くいう。

「とりあえず君名前は」

 おれが聞くと無言だ。

「おにいちゃん......」

 そういって路地から、小さなおんなのこがこちらをおびえるようみている。

「ミリはあっちいってろ!」

 少年は手を振り、追い返そうとしている。
 
(関わったら巻き込まれるからか......)

 おれたちは顔を見合わせ、とりあえず、少年を連れて女の子のところへ近づく。

「ミリに何かしたら許さないぞ!」

 少年はこちらをにらみ、おれをけってくる。  

「なにもしないよ。 ただお金を返して欲しいだけだ」

「......妹にはなにもしないか」

「ああ」 

「わかった。 お金は返すよ」

 そういうとお金のはいった袋を素直にメリムに返した。

「もういいよ。 レフィーネはなしてあげて」

「きちんと反省させないとだめだがな」

 レフィーネが不満げに腕をはなすと、女の子がかけよってくる。

「ごめんな...... にいちゃんが何とかするから」

「ううん、だいじょうぶ。 もつそんなことしないで......」

「おれは伝説の義賊マルキスになるんだ」

 二人で手を繋いで去ろうとしている。 その顔は辛そうに見える。

(もしかして、おなかがすいてるのか...... でも無責任に助けても、おれたちになにもできないんじゃ......)

「トーマ......」

メリムが悲しげにこちらをみている。

(しかたない...... このまま泥棒にするわけにもいかない。 お金なら前の町に戻ればなんとかなる)

「ちょっとまって!」

 二人を呼び止め、近くの店でかった。 数個のパンを渡した。

 二人は受け取ったが、男の子は妹が食べるのをみながら食べずにみている。

(やはり、ただで受け取るのは気が引けるのか、もしくは警戒してる)

「少し聞きたいことがあるんだ。 そのお礼だよ」

「聞きたいこと...... なんだ」 

 少年はソールといい、安心したのかパンを少しだけ分けて食べ始めた。


「神剣なら、この奥にある閉鎖された鉱山にあるよ」

 そうソールは路地奥の掘っ立て小屋に招いて、教えてくれた。 そこは子供たちが多くいた。

「ありがとう。 それでソール、ここは」 

「ああ、みんなモンスターに親を殺されたり、捨てられたりしたんだ」

(どうやら、ソールはここのリーダーみたいだな。 渡したパンをみんなに分けていたし)

「だいぶこの国は腐ってるみたいね」

「そのようだな。 だがモンスターの襲撃と戦争で、多くの国でみられる光景だな。 ただここは政治の腐敗も関わってるから、なおひどいが......」

 メリムにレフィーネが苦々しく答える。

「そこで、この子たちを何とかしたいんだけど、一旦前の町にかえってお金を稼ぎたいんだ......」

「そうね。 このままじゃ、この子達がいずれ飢えてしまう」

「しかし、ずっと助け続けられるのか、それに我々には目的もある」

 メリムは同意したが、レフィーネは目を伏せた。

「そうだけど、なにもしないでおいておけるか?」

「......人の命を預かるのは容易くないぞ」

「確かに甘い考えだとはおもうけど、一応モンスターを倒せる力はあるんだ。 無力というわけでもないだろ」

「そうか、ならばなにもいうまい......」

 そういってレフィーネは口を閉ざした。

「にいちゃんたちはハンターなの?」

 そうソールは聞いてきた。

「まあ、ハントしたこともあるよ」

「それなら鉱山のモンスターを倒してよ!」

「鉱山? 神剣の?」

「そう、さっきいったにある山、そこにモンスターがすくってる。 昔は父さんも木こりだった。 あそこのモンスターがいなくなれば、そこで木こりとして働いてみんなをたべさせられる」

 そう輝いた目でおれをみる。

(いや、幼くてとても働けないだろう。 ......何かにすがりたいんだろうな。 ただ山を復活させたら、ここも景気がよくなるかも、それに盗みをやめさせられるか......)

 メリムをみるとうなづいているが、レフィーネは目を伏せたままだ。

 おれたちは山に行くことにした。
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