ケットシーの異世界生活

曇天

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第三話

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「ふぅ、元にもどってない。 やはり夢じゃなかったんだ」

 朝、宿で目がさめると、黒い毛でおおわれた腕をみて思う。

 昨日あれから、アシュテア王女からなんとか逃れ、リディオラさんからもらったお金で宿に泊まっていた。

(危なかった...... あのままだとペットにでもされていた)

「ただ気持ちもわかる。 この柔らかい毛並み、自分なのについさわってしまう。 なんか胸に白いぶちもあるな。 きもちい...... い」

 そのもふもふの毛を撫でる。

「う...... はっ、だめだ! また寝てしまう」

 また眠ってしまう前に、あわてて服を着て宿をでた。

(リディオラさんから当面のお金はもらったけど、さすがに頼ってばかりにはなれない。 仕事を探してお金を得ないと......)

 ぼくは町を歩きながら、そう考えていた。 色々みて店を回るが、雇ってくれそうな所はなかった。

「だめだ。 体よく断られる。 ......とはいえ、バイトもほとんどしたことのないぼくができる仕事があるのかといえば......」

(リディオラさんが仕事をさがしてくれるっていってたけど、このままだとアシュテア王女に仕えるしかなさそう)

 そのとき、アシュテア王女の言葉を思い出す。

「トールあなたは私の枕におなりなさい! それならば高給で雇うわ!」

(あと枕以外だと、あしおき、座椅子、マフラー、カバンだった...... ペットですらない......)

 ため息をつきながら町を歩いていた。

「ピント! ピント!」

 そう声をかけながら、家の隙間や花壇などで、なにかを必死に探しているような幼い女の子とおばあさんがいた。

(なんだろう......)

「あの、どうされたんですか?」

 気になって話しかけると、おばあさんと女の子は一瞬驚いた。

「けっとしー......」

「あ、ええ、この子の飼い猫がいなくなってしまって......」

 そう泣きそうな女の子の頭をおばあさんはなでた。

「ピント...... びっくりして逃げちゃったの......」

 そう下を向いて女の子は服を両手で握っている。

「びっくり...... 逃げた」

(なんとかして探せないかな。 ケットシーも猫だし、猫なら嗅覚は人間の二倍、聴覚なら八倍ぐらいのはずだ。 もっと別の能力もあるかも......)

 その二人、マールちゃんとサデアさんに近くの公園でまっていてもらうようにいって、すぐに町を探索し始めた。


「首に赤いヒモをまいた白い子猫か...... 耳をすませば、なにか聞こえるかも」

 目を閉じ耳をそばたてる。 さまざまな周囲の声がきこえる。

(驚いた...... 集中すると家の中や、地面に落ちたものの音、調理や食事の音、しかもかなり遠くまで聞こえる。 あれ? これは......)

「はぁ、なんとかしてトールを枕にできないかしら...... あのもふもふを我が手に......」

 そう聞き覚えのある声がきこえてきた。

(この声! 王女さまだ! まだ諦めてなかった!)

「あの子の様子では要領もよくないはず...... きっと仕事が見つからなくて、ここにもどってくるわ。 よし! 枕用に体にまく布を手配しましょう! くふふっ」

(ひぃっ! 完全に枕として狙われているぅ! まずい! 早く仕事を見つけなくては! いやその前に子猫を......)

 より意識を集中すると目を閉じた暗闇の中、ほのかな光のようなものを感じる。 それはうっすらと建物や人のシルエットをうつしだしていた。

「なんだ? これ」

 それらはよくみると人間と建物では感知の感覚がちがう。 

(これは建物とかより人の方が明るく感じるな。 ケットシーの何かの力か...... これなら生物と無生物の区別はつくな)

 その光の違いを感じながら町を歩く。 

「いた! 生物の小さな光!」

 路地裏に小さな光を感じながら近づいていくと、遠くからこちらをのぞく白い子猫がいた。 その首には赤いヒモがある。

「間違いない...... でもこの距離」

 怯えさせないようにゆっくりみないように近づくが、逃げようとしている。

「無理か...... それなら」

 子猫が逃げる瞬間、足を限界まで下げて、一気に跳んだ。

 速い子猫を越える速さで追いつき抱き上げた。

「いたた! まって! 爪をたてないで!」

 マールちゃんがもっていたタオルのような布で、ゆっくりおおうと、子猫がちゅぱちゅぱとタオルをすいおとなしくなった。

「はぁ、これウールサッキングだっけ、不安とか落ち着きたいときにする...... でも布の糸を飲み込むと危ないから、はやくマールちゃんにかえそう」

 早く公園まで帰り、まっていたマールちゃんに子猫を渡した。
 
「ピント! ありがとう! けっとしーのお兄ちゃん!」

「ありがとうございました」

 二人から礼をいわれ、いい気分でかえろうとする。

「あっ、仕事......」

 それを思い出して、肩をおとした。

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