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第33話 反魂香① 火具槌家《ひぐつちけ》

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「もうすぐ岩手だ。 蕈留にも来てもらって悪いな。 雅と麟、貴人はとても来れそうにないから、置いてきたからな」


「かまわない、土光薙に俺も助けてもらったからな、五行家にはわだかまりもあるが、受けた恩は返す」
 

 灰にそう聞かれて蕈留はそう言った。 


「蕈留、お前は界咒学園に通わなかったのか」


「ああ、僕は最大の陰陽師の学園、陰陽学園で力を見せつけることで、仲間を集め、五行家の勢力を上回るのが目的で入学したからな」


 鍊が蕈留に聞き、そして、

 
「灰、お前もだ。 確か岩手にも大きな陰陽師の学校あったはず? お前は何故いかなかった?」


「......具創学園《ぐそうがくえん》か、火具槌家の当主、火具槌 多々良《ひぐつち、たたら》というおっさんが理事長だ。 俺の家は火具槌家の分家だったが降格して、家から離れて陰陽学園に入ったからな......」  


「いや、無神経に聞いてすまなかった......」


「いや......少し因縁があるだけだ、おっと着いたぞ」




 岩手に着いて山奥に入っていくと、そこは昔ながらの古民家が並ぶ街があった。 その奥に大きな屋敷があった。


「ここ、幾つかの場所に結界が張られてるって、中に強い霊力がいくつもあるって青龍が言ってるけど......」


「ああ、ここは火具槌家本家だからな......重要な咒宝具が守られている。 そういやうずめ、お前、青龍と契約したんだって」


「うん、青龍が力を貸してくれて式神使いに」


「青龍......その年齢で十二天将の式神使いか......かなりの術士だな」


「これも神無兄ちゃんと、皆のお陰だよ」


 蕈留が驚くとうずめは少し照れた。


(彼も強い、かなりの修羅場を潜ってるな......)


 蕈留は思った。


 灰達は火具槌本家に入る。 中は騒がしく人が行き来している。奥に通され部屋に待っていたのは、熊のように大きな男だった。


「久しいな灰、事情は聞いている......」


「ああ、多々良のおっさん、頼む黒焔刀を貸してくれ」

 
 灰は言葉少なに頭を下げた、多々良は哀しそうな顔をしている。


「お前の願い、何ともしてやりたいが......黒焔刀は......盗まれたのだ。 他の幾つかの咒宝具と一緒にな」


「本当か!? 誰に、まさか......」


「......まだ分からんが、おそらくはあいつだろうな......」 
 

 多々良は目を閉じて考えている。


「時夜《ときよ》姉ちゃんが......


「俺たちと同じ理由......反魂香か! なら早く界咒学園に戻らないと!」 


 蕈留が立ち上がろうとすると、


「待て、すぐに動きはしまい、あの咒宝具は使うために大きな霊力を必要とするからな、おそらく霊熔山《れいようざん》にいるだろう。 あの霊山で霊力を満たす必要がある......二日前に人を送ったが帰ってきてはいない。 俺自ら行こうと思ったのだが......今、幾つかの近くの街で同時多発的に術士至上主義者とみられるテロが起こっていてな、俺は動けん」   


「それは、両者が連携してるという事ですか」

 
 鍊が多々良にそう聞いた。


「わからん......だがその可能性も考えている。 黒焔刀がフェイクで本命は別の危険な咒宝具狙いだった場合、ここを襲う可能性もある......」


「俺達が霊熔山の方に行ってくる、もし黒焔刀を取り返したら借りるぜ」


 灰がそう言った。


「わかった......いいだろう」





 灰達は霊熔山に向かって山道を進んでいた。 


「鬼灯......すまないが時夜とは何者だ。 何故、反魂香を狙っている?」


 蕈留が聞くと少し沈黙があって、


「時夜は......火具槌多々良の娘で、俺の兄貴、鬼灯家の前当主、燿《よう》の許嫁だった人だ......」


 灰は言った。


「だったってことは......」


 鍊が言うと、


「ああ、兄貴は二年前に死んだ......時夜を庇ってな、それ以来、時夜は姿を消した」


「それで、多々良さんはあんな反応を......」


「多分、俺に対して引け目があるんだろ。 鬼灯家は俺一人になったから、皆は残された俺を憐れみの目で見てた。 俺はそれが嫌で陰陽学園に行ったんだ」


「すまない......だが、時夜という人は、お前の兄を生き返らせようとしているのか......」


 蕈留が聞くと、


「多分な......兄貴はもう甦らない......それはわかってるはずなのに」


 灰は悲痛な顔で答えた。 その時先を歩いていたうずめが、


「この先の洞窟から複数の人間の霊力を感じると青龍がいってるよ!」


「先に調べに来た奴らか......」


 灰は言うと、


「その時夜という人も一人とは限らない......仲間がいるかもな」


 そう鍊が続けて言う。


 洞窟の入り口は複数あり、灰達は別れて洞窟に入った。
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