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第20話 十二天将③ 貴人《きじん》

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「ダメだ、広範囲すぎてさすがに他の皆の霊力は感知できない......無事かな......あと何枚だろう」

 
 僕はそう思いながら、虎を追って走っていた。 


「このままでは、まずいことになる......なんとかもう少し霊力を得ねば......」


 突然、僕の耳にそう聞こえてきた。 だが周りに誰の霊力も気配もしない。


「誰だ! 誰かいるのか」


「何!? わらわの声が聞こえるのか? ここじゃ、この符じゃ!」


 それは僕が持ってる十二天将の符から聞こえてくる。 


「まさか十二天将か! 君は一体?」


「わらわは貴人《きじん》少しずつ霊力を得て、話しはできるようじゃが、封印を解くには霊力が必要じゃ、何十人か術士をつれて参れ! はようせんと、大変なことが起こるぞ!」


「霊力......この符に与えればいいの?」 


「阿呆! ひとりでは足りぬ......大勢つれてくるのじゃ」


 僕は霊力を符に注いだ。 すると、符が光輝き両手に乗るような小さな少女となった。


「なんじゃと! 封印が解けた! たったひとりで、どんな霊力をしておるのじゃ......いや、今はそんなことをいっておる場合ではないな! お主名は?」 


「僕は、土光薙 神無」


「神無か......まあよい、早く十二天の符を集めよ! 全て集められると厄介なことになるぞ!」


「今探してるんだ。 僕の仲間が他の場所も、でも君がいるから全部は集まらないよ」


「違う! 十二天将は、吉将と凶将の六体ずつなのじゃ! 六体の凶将は集められてはならん! 今四体集まっとる! もう二体集まれば......いや早く向こうじゃ!」


 貴人は浮くと肩に乗り僕を急かした。 僕は言われるままその方向に走り出した。 


 小さな村にたどり着くと、そこにはローブを纏った者達が側におかれた道祖神の像を破壊していた。 手には符を持っていた。


「あれじゃ! あれを取り戻すのじゃ!」


 貴人に促され、ローブの者達の前に出ると、一人ローブを脱いで女性が前に出た。


「お前達は先にいけ! ここは私がやる!」


 他の者達は消えてしまった。


「それを集めてはいけない! 術士の世界なんか望むべきじゃない!」


「どういうことじゃ!? 術士の世界? なんのことをいっておる!」


 僕に貴人が聞く、だが、前に現れた女性が、


「あなたが土光薙家の......私は救咒衆、六凶のひとり、海栗 棘《うみぐり いばら》私達の邪魔はさせない」


 そう言うと、術式を唱えた。 すると、巨大な海胆《うに》が現れ棘を包み、その針を伸ばしてきた。


 僕はそれをかわしながら、


「この世界を命をかけてまでなぜそう変えたいんだ!」


「私達の家は、術士の世界では底辺に属した、ある方に力を与えられかろうじてこの力を得たのだ。 私達のような術士はより上位の術士に支配され、ときには生け贄や術の実験台とされる......術士の世界になれば、普通の人々がその代わりとなるはず。 後の子のため孫のために私達はその世界を目指さねばならないのですよ!」
  

 針は地中からもどんどん出てくる。霊甲と霊刃で防ぎながら、


「自分達の下を作ろうとするのか! 自分達が逃れるために!」


「ええ! 何と言われようとあなたには分かるまい。 私達の絶望が!」


 僕は、霊甲を全身に纏う、霊殻《れいかく》を使い針を砕くと、霊刃を両手で作る霊鎚《れいつい》で海胆を叩き割った。


「くっ! だが......もう凶将の符は、あの方の元に渡った。 さあ殺すがいい......」


「殺さないよ......僕は術士の世の中なんて望んでないだけだ」


 そう言った僕に、


「さっきから何をいっておる! 術士の世界を作るだと! 凶将にそんな力はない!」


 貴人は大声で怒鳴った。


「そ、それは十二天将......そんな力はないって、どういうことです......全て集めれば、この世を作り替えられるのではないのですか......」


 棘は驚いた顔を見せた。


「誰に乗せられたかは知らぬが、そんな力はない、凶将は封印なんじゃ! あれを全て集められると、あいつが復活してしまう!」


 早く最後の符を! 貴人に急かされた僕は走り出した。


「あいつが復活するって、何なの!?」


「酒呑童子《しゅてんどうじ》じゃ! 都を荒らしてた鬼神、かつて晴明様が天皇に命じられて探し、源 頼光《みなもと らいこう》公が討ち取った、それを晴明様が六つに分け式神として封印したのじゃ!」


「......あの方という人物が知らずに集めているのか」


「そうじゃ! とにかく最後の一枚は渡してはならん! 酒呑童子が復活したら京はめちゃくちゃにされてしまう!」


 こっちじゃ! と言う貴人に僕はついていった。
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