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第2話 天明館《てんめいかん》
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「いいですか神無様、私は女子寮の華凛館《かりんかん》にいますから、何かあったら連絡してくださいね。 いいですね、わかりましたか」
「わかったよ、大丈夫だから」
雅が念押しして言ってくるのを聞き流して、僕は手を振りながら自分の寮である天明館《てんめいかん》に向かった。
ふぅ、僕は雅から見たら子供なのかな?
色々気を遣ってくれる雅と別れ、少しだけほっとして歩いていると、古い日本の和風旅館のような建物が見えてきた。 木でできた看板に天明館と書いてある。
ここが天明館か、かなり古いけどいい感じの寮だ。
中に入ると、他の生徒も多くいて、こちらを見てひそひそ話している、やはりここでも噂されているようだった。
「君が土光薙家の子かい?」
上級生と見られる人が話しかけてきた。
「あっ、はい! 土光薙 神無です。 よろしくお願いします」
そう答えると、糸のように細い目をした人は、驚いていた。
「あ、ああ、こちらこそよろしく。 僕はこの天明館の寮長をしている大学部四年の乾《いぬい》なずむと言うんだ。 君の部屋は、最上階五階の左端の部屋だから、届いてるこの荷物を持って上がってね」
「はい」
そうして僕は自分の荷物を持ち、五階に向かった。
「えーと、左端の部屋と......あった四人部屋か......」
「失礼します。 今日から同じ部屋になる土光薙 神無です、よろしく」
ドアを明けてそう言いながら頭を下げ頭をあげると、クラスの隣の席の鬼灯 灰君がそこにいた。
「......ああ、鬼灯君」
(まずいな、なんか彼は僕のこと嫌いみたいだし、居心地悪そう)
そう思っていると、鬼灯君は立ち上がると、おもむろに頭を下げた。 僕が驚いていると、
「すまなかった!」
「えっ? 何? なんか僕された?」
「いや、つい教室ではあんな態度取っちまって悪かったなってさ」
鬼灯君は照れ臭そうに頭をかきながら、謝ってきた。
「ああ、別にいいよ、何かこの土光薙の家ってことで皆から変な目で見られてるみたいだし」
「俺も話しに聞いてたから、つい喧嘩腰になっちまったんだ、でも何かイメージと違うから」
鬼灯君は困った顔をしている。
「どんな話し?」
「五行家の人間は他の陰陽師を蔑んでいて、人間として見てすらいないっていう話で、今までも何人もの五行家の人間が、そういう尊大な態度を取ってたんだ。 あの金形代とか言う奴みたいにな、だからお前もそういう人種なんだと思い込んじまった。 すまん!」
僕はその話を聞いて、まあ、あり得ない話しでもないな......と思った。 土光薙の家の人間が僕を見ている時の無表情ではあるが、目には明らかに蔑みの感情が見えたからだ。 他の人に対してもおそらくあんな感じなのだろう。
(だから、僕が普通の態度をとるだけで、皆驚くんだな)
これは自分の事を話した方がいいと思って、僕はここに来た経緯を話した。
「僕の母親が土光薙家の人だったけど、家から縁を切って出てったから、僕は一般人として生きていたからね。 でも前の当主が死んで繋ぎとして呼び戻されたんだ。 だから土光薙家の事はよく知らないし、僕はこの学園にこの力を無くす方法を探しに来たんだ」
「この力って霊力のことか?」
「そう、昔からこの力のせいで危険なことばかりで、良いことなんか一つもなかったし、無くなれば普通に暮らせるからさ」
鬼灯君はうーんと言うと、
「そんなこと考えたことは無かったな......確かに危険に巻き込まれることはあるが、その力で人も救えるだろ」
「まあ......それはそうだけど、じゃあ鬼灯君は人を救うためにここに来たの?」
「灰でいいぜ、俺は神無って呼ぶからさ、」
「わかった、灰」
「で、確かに俺がここに来た理由は人を救うための力が欲しかった。 けど、この術士の世界を変えたいっていうのも理由のひとつだ」
「この世界を変えたい? そういえば挨拶で言ってたっけ」
「ああ、本来、人の為に使うこの力だけどよ、多くの術士達は自分たちの権力や欲の為に使ってんだ。 今も序列のようなものがあって、我が物顔で理不尽に振る舞う奴が多い、俺はそれを壊したいんだ」
「なるほど、それで僕を目の敵にしてたのか......灰は考えがはっきりしてて偉いな」
僕が褒めると、
「べ、別に大したことじゃねーよ」
と照れた。 僕は周囲を見回して、
「ここって四人部屋だよね、ベッドが四つあるし、あと二人は?」
「聞いてないな。 まあ広く使えるからいいんじゃねーの」
事も無げに灰は言った。
それから灰にこの学校や術士の世界の事を聞きながら、小さな荷物をほどいた。
「お前、荷物そんだけか」
「うん、元々あの家では、小屋で生活してたし、着替えと日常品は昔の家にあったものを持ってるだけだからね」
「本当に冷遇されてたんだな」
灰が眉を潜めた。
「まあ、あの人達にとって、僕はただ次の当主が決まるまでの繋ぎのお飾りさ、それが終わればお役御免なんだ。 確か半年後、新しい当主を決めるはずだよ」
「相変わらず、人の事を道具みたいに使う奴らだ」
僕の話を聞いて、不快そうに灰は呟いた。
「わかったよ、大丈夫だから」
雅が念押しして言ってくるのを聞き流して、僕は手を振りながら自分の寮である天明館《てんめいかん》に向かった。
ふぅ、僕は雅から見たら子供なのかな?
色々気を遣ってくれる雅と別れ、少しだけほっとして歩いていると、古い日本の和風旅館のような建物が見えてきた。 木でできた看板に天明館と書いてある。
ここが天明館か、かなり古いけどいい感じの寮だ。
中に入ると、他の生徒も多くいて、こちらを見てひそひそ話している、やはりここでも噂されているようだった。
「君が土光薙家の子かい?」
上級生と見られる人が話しかけてきた。
「あっ、はい! 土光薙 神無です。 よろしくお願いします」
そう答えると、糸のように細い目をした人は、驚いていた。
「あ、ああ、こちらこそよろしく。 僕はこの天明館の寮長をしている大学部四年の乾《いぬい》なずむと言うんだ。 君の部屋は、最上階五階の左端の部屋だから、届いてるこの荷物を持って上がってね」
「はい」
そうして僕は自分の荷物を持ち、五階に向かった。
「えーと、左端の部屋と......あった四人部屋か......」
「失礼します。 今日から同じ部屋になる土光薙 神無です、よろしく」
ドアを明けてそう言いながら頭を下げ頭をあげると、クラスの隣の席の鬼灯 灰君がそこにいた。
「......ああ、鬼灯君」
(まずいな、なんか彼は僕のこと嫌いみたいだし、居心地悪そう)
そう思っていると、鬼灯君は立ち上がると、おもむろに頭を下げた。 僕が驚いていると、
「すまなかった!」
「えっ? 何? なんか僕された?」
「いや、つい教室ではあんな態度取っちまって悪かったなってさ」
鬼灯君は照れ臭そうに頭をかきながら、謝ってきた。
「ああ、別にいいよ、何かこの土光薙の家ってことで皆から変な目で見られてるみたいだし」
「俺も話しに聞いてたから、つい喧嘩腰になっちまったんだ、でも何かイメージと違うから」
鬼灯君は困った顔をしている。
「どんな話し?」
「五行家の人間は他の陰陽師を蔑んでいて、人間として見てすらいないっていう話で、今までも何人もの五行家の人間が、そういう尊大な態度を取ってたんだ。 あの金形代とか言う奴みたいにな、だからお前もそういう人種なんだと思い込んじまった。 すまん!」
僕はその話を聞いて、まあ、あり得ない話しでもないな......と思った。 土光薙の家の人間が僕を見ている時の無表情ではあるが、目には明らかに蔑みの感情が見えたからだ。 他の人に対してもおそらくあんな感じなのだろう。
(だから、僕が普通の態度をとるだけで、皆驚くんだな)
これは自分の事を話した方がいいと思って、僕はここに来た経緯を話した。
「僕の母親が土光薙家の人だったけど、家から縁を切って出てったから、僕は一般人として生きていたからね。 でも前の当主が死んで繋ぎとして呼び戻されたんだ。 だから土光薙家の事はよく知らないし、僕はこの学園にこの力を無くす方法を探しに来たんだ」
「この力って霊力のことか?」
「そう、昔からこの力のせいで危険なことばかりで、良いことなんか一つもなかったし、無くなれば普通に暮らせるからさ」
鬼灯君はうーんと言うと、
「そんなこと考えたことは無かったな......確かに危険に巻き込まれることはあるが、その力で人も救えるだろ」
「まあ......それはそうだけど、じゃあ鬼灯君は人を救うためにここに来たの?」
「灰でいいぜ、俺は神無って呼ぶからさ、」
「わかった、灰」
「で、確かに俺がここに来た理由は人を救うための力が欲しかった。 けど、この術士の世界を変えたいっていうのも理由のひとつだ」
「この世界を変えたい? そういえば挨拶で言ってたっけ」
「ああ、本来、人の為に使うこの力だけどよ、多くの術士達は自分たちの権力や欲の為に使ってんだ。 今も序列のようなものがあって、我が物顔で理不尽に振る舞う奴が多い、俺はそれを壊したいんだ」
「なるほど、それで僕を目の敵にしてたのか......灰は考えがはっきりしてて偉いな」
僕が褒めると、
「べ、別に大したことじゃねーよ」
と照れた。 僕は周囲を見回して、
「ここって四人部屋だよね、ベッドが四つあるし、あと二人は?」
「聞いてないな。 まあ広く使えるからいいんじゃねーの」
事も無げに灰は言った。
それから灰にこの学校や術士の世界の事を聞きながら、小さな荷物をほどいた。
「お前、荷物そんだけか」
「うん、元々あの家では、小屋で生活してたし、着替えと日常品は昔の家にあったものを持ってるだけだからね」
「本当に冷遇されてたんだな」
灰が眉を潜めた。
「まあ、あの人達にとって、僕はただ次の当主が決まるまでの繋ぎのお飾りさ、それが終わればお役御免なんだ。 確か半年後、新しい当主を決めるはずだよ」
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僕の話を聞いて、不快そうに灰は呟いた。
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