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第十二回 意味
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「う、うん......」
目が覚めると陸依《りくい》先生の家の寝床に寝ていた。
そばで僥儀《ぎょうぎ》さんが覗き込んでいた
「だいじょぶ......みさき」
そう不安そうな顔をして、たどたどしく聞いてくる。
「うん、大丈夫」
「ととーーだいじょぶだってーー」
笑顔でそういうとかけていった。
すると陸依《りくい》先生と鳴那《めいな》さんが、
血相を変え走ってくる。
「ああ、良かった......」
鳴那《めいな》さんはほっとした顔をしていう。
「すみません......ご迷惑かけて」
「無茶しすぎですよ!いくら仙人さまだからって」
鳴那《めいな》さんは少し怒っていった。
「鳴那《めいな》少し水を持ってきてくれないか......」
「え、ええ、わかった」
そう陸依《りくい》先生に言われて部屋を出ていく。
先生は黙って僕の体をみる。
「すみません......」
僕がそういうと、先生は真剣な顔をして、
こちらを見据えていった。
「三咲《みさき》さま。いくら私どものためとはいえ、
毒を浴びるなんて、そんな無茶はやめてください」
真剣な顔でそう先生はいう。
「......ばれましたかね」
「当たり前です。三咲《みさき》さまならば毒など食らわずに、
あの魔獣など倒せましょう。それだけの力がある......
見てきた私ならわかります」
少し怒っているのか、悲しんでいるのか、目が潤んでいる。
「......ですが、もしということがございます。
この毒は強い内気を使って、毒の進行を止めておられたようだが、
下手をすれば死ぬこともありましたよ」
「はあ......ですね。予想よりかなり毒が強かった。
依頼書では毒の強さまでわかりませんから」
「私どものために、そこまでしていただいてありがたいのですが、
まがりにも私は薬師《くすし》それで喜ぶとお思いでしたか」
そう少し震える声で言った。
(そうだな......命を守りたいという陸依《りくい》先生ならば、
それは望まないだろう。
人のためだという傲慢さで、僕は人を傷つけたのか......)
そこまで考えが至らなかった自分を鑑《かんが》みて、
とても恥ずかしくなった。
「すみません......思いに至りませんでした。
陸依《りくい》先生が怒られるのも仕方ないことですね」
そう正直に頭を下げた。
「い、いえ、お止めください。
私は私に憤《いきどお》っただけですから......」
「えっ?」
「あなたにそこまでさせてしまったのは、私の不甲斐なさのせい。
私が自信をもっていなかったが為に、
三咲《みさき》さまが動いてくださった、それが情けなくて......」
(......そうかこの人は、
他者ではなく自らの足りなさを考えられる人なのか......)
「ですが、もう大丈夫です!
自ら出来るということを信じます!
この強い毒にも効果はありましたし!」
そういうと、胸を張った。
「そうですか......」
(もう余計なことをする必要はないな......)
「陸依《りくい》来て!」
部屋に慌てたようすの鳴那《めいな》さんが駆け込んでくる。
「どうした鳴那《めいな》急患か!」
「ち、違うの!」
僕たちが店に出ると、お客さんが大勢店に来ている。
「これは......どうしたことだ......」
「まあ、販売しないと」
「そうですね!三咲《みさき》さまは部屋でお休みください!」
そういって陸依《りくい》先生が店に出ていった。
(これで、大丈夫だ)
僕は安心して部屋でゆっくり寝むれた。
それから店にはひっきりなしに客が詰めかけ、
大わらわだったという。
次に僕が起きた夕どきには、お客さんは落ち着いているようだ。
僕は庭が見える場所で、
そとで楽しそうに遊ぶ僥儀《ぎょうぎ》さんを見ていた。
「ここにおられましたか三咲《みさき》さま」
「ああ、先生、こちらに来てもいいんですか?」
「ええ、一段落しまして......鳴那《めいな》が休んでこいって」
そう笑いながらいうと隣に正座し、深々と頭を下げた。
「本当に本当にありがとうございました」
「いえ、頭を上げてください」
そういうと頭を上げこちらをみた。
「これが目的だったのですね。
薬は使われないと買ってはもらえない。
だから、わざと毒を浴び私の薬を使った。
魔獣を倒すような者が使うものならばと、
噂になりましょう。それでこれほどの客がきたと」
「......ですが今は余計のことをしたと思っています。
先生の薬ならいずれ売れていたでしょう。
良かれと思ってやったことですが、
先生や僥儀《ぎょうぎ》さんや鳴那《めいな》さんを、
心配させただけのただの自己満足だったと」
「......そんなことはありません。
元はと言えば私の自信のなさが招いたこと......
失敗続きの人生でしたので、どこか卑屈になっていたのでしょう」
そういって陸依《りくい》先生は夕焼けの赤い空を見ている。
僕は一つ気になっていたことを聞いた。
「陸依《りくい》先生......
僥儀《ぎょうぎ》さんの障害はあなたの薬では、
治せないのですか?」
そう聞くと、驚いた顔をした。
「薬で......考えもしませんでした。
てすが、僥儀《ぎょうぎ》は生まれつきのもの、
生まれついたものは、如何な薬でも治せようもありません」
「そうでしたか......治すことができれば、
陸依《りくい》先生の不安は無くなるのかと思ったのですが」
「不安はないと言えば嘘になりましょう。
しかし......あの子はあれでよいのです」
「?」
「人が生まれてくるには意味があると思うのです」
「意味ですか?」
「ええ、少なくとも僥儀《ぎょうぎ》や鳴那《めいな》は、
私にいきる意味をくれた」
「どういうことですか?二人ともあなたが救ったのでしょう」
そういうと穏やかな笑みを浮かべた。
「三咲《みさき》さま......私はね、死のうとしてたんです」
「えっ!?」
「道士の教えを長きに受けたにもかかわらず、
身に付いたものはほとんどなく、薬の精製のみ、
その力を使った薬屋も潰してしまう......
宛のない旅をしたのも、死に場所を探してたのです」
「ですが、薬の知識も作り出す力もあるのに」
陸依《りくい》先生はこちらを悲しそうな笑顔でみた。
「しかし、それは私の思い描く理想ではなかったのです。
あれだけ長く苦しい思いをして、得たものがこれなのかと......
私はいきる意味を成果や評価だと思い違いをしていた......」
「............」
「しかし、そんな時、僥儀《ぎょうぎ》に出会った。
あのこはそんな哀れな私に笑いかけてくれました。
私のいきる意味を失った心に命の炎を灯してくれた。
いきる意味とは成果や評価ではない。
いきる意味を見つけることだと」
「あなたのいきる意味が二人を守ること......」
「ええ、それだけではありません。
やり方は間違っていましたが、人のために薬を作ること。
私が二人を救ったのではない。
そう教えられた私が救われたのです」
そういって陸依《りくい》さんはとても優しい目で、
僥儀《ぎょうぎ》さんが遊ぶのをずっと見ていた。
次の日。
「いやだ!みさきはいるんだ!」
「止めなさい僥儀《ぎょうぎ》。
三咲《みさき》さまは旅に出られるのよ」
僥儀《ぎょうぎ》さんがぐずるのを、
鳴那《めいな》さんがなだめている。
「すみません。僥儀《ぎょうぎ》が、
三咲《みさき》さまになついてしまって......」
陸依《りくい》先生がそういって頭をかく。
「大丈夫。僥儀《ぎょうぎ》さん。
僕は先生のおくすりをみんなに届けないと行けないんだ。
またくるから、待っててね」
そう手をとると、今にも泣き出しそうな顔をして黙る。
「はい......」
僥儀《ぎょうぎ》さんは懐から、
手のひらに乗るくらいの光る黒い玉を差し出した。
「これは泥だんご......」
(僕が教えた泥だんごだ......)
それは僕が遊ぶときに教えた泥だんごだった。
(いつも、肌見放さず、これをずっと転がしていたっけ......)
「ありがとう......」
僕はその宝物の泥だんごを受けとると、
僥儀《ぎょうぎ》さんは笑顔になった。
「では、本当にお世話になりました」
僕は頭を下げ二人に礼をいった。
「こちらこそ、三咲《みさき》さま......よき旅を」
そう言って陸依《りくい》先生と、
鳴那《めいな》さんは頭を下げる。
僕は手を振る僥儀《ぎょうぎ》さんをみながら歩きだした。
目が覚めると陸依《りくい》先生の家の寝床に寝ていた。
そばで僥儀《ぎょうぎ》さんが覗き込んでいた
「だいじょぶ......みさき」
そう不安そうな顔をして、たどたどしく聞いてくる。
「うん、大丈夫」
「ととーーだいじょぶだってーー」
笑顔でそういうとかけていった。
すると陸依《りくい》先生と鳴那《めいな》さんが、
血相を変え走ってくる。
「ああ、良かった......」
鳴那《めいな》さんはほっとした顔をしていう。
「すみません......ご迷惑かけて」
「無茶しすぎですよ!いくら仙人さまだからって」
鳴那《めいな》さんは少し怒っていった。
「鳴那《めいな》少し水を持ってきてくれないか......」
「え、ええ、わかった」
そう陸依《りくい》先生に言われて部屋を出ていく。
先生は黙って僕の体をみる。
「すみません......」
僕がそういうと、先生は真剣な顔をして、
こちらを見据えていった。
「三咲《みさき》さま。いくら私どものためとはいえ、
毒を浴びるなんて、そんな無茶はやめてください」
真剣な顔でそう先生はいう。
「......ばれましたかね」
「当たり前です。三咲《みさき》さまならば毒など食らわずに、
あの魔獣など倒せましょう。それだけの力がある......
見てきた私ならわかります」
少し怒っているのか、悲しんでいるのか、目が潤んでいる。
「......ですが、もしということがございます。
この毒は強い内気を使って、毒の進行を止めておられたようだが、
下手をすれば死ぬこともありましたよ」
「はあ......ですね。予想よりかなり毒が強かった。
依頼書では毒の強さまでわかりませんから」
「私どものために、そこまでしていただいてありがたいのですが、
まがりにも私は薬師《くすし》それで喜ぶとお思いでしたか」
そう少し震える声で言った。
(そうだな......命を守りたいという陸依《りくい》先生ならば、
それは望まないだろう。
人のためだという傲慢さで、僕は人を傷つけたのか......)
そこまで考えが至らなかった自分を鑑《かんが》みて、
とても恥ずかしくなった。
「すみません......思いに至りませんでした。
陸依《りくい》先生が怒られるのも仕方ないことですね」
そう正直に頭を下げた。
「い、いえ、お止めください。
私は私に憤《いきどお》っただけですから......」
「えっ?」
「あなたにそこまでさせてしまったのは、私の不甲斐なさのせい。
私が自信をもっていなかったが為に、
三咲《みさき》さまが動いてくださった、それが情けなくて......」
(......そうかこの人は、
他者ではなく自らの足りなさを考えられる人なのか......)
「ですが、もう大丈夫です!
自ら出来るということを信じます!
この強い毒にも効果はありましたし!」
そういうと、胸を張った。
「そうですか......」
(もう余計なことをする必要はないな......)
「陸依《りくい》来て!」
部屋に慌てたようすの鳴那《めいな》さんが駆け込んでくる。
「どうした鳴那《めいな》急患か!」
「ち、違うの!」
僕たちが店に出ると、お客さんが大勢店に来ている。
「これは......どうしたことだ......」
「まあ、販売しないと」
「そうですね!三咲《みさき》さまは部屋でお休みください!」
そういって陸依《りくい》先生が店に出ていった。
(これで、大丈夫だ)
僕は安心して部屋でゆっくり寝むれた。
それから店にはひっきりなしに客が詰めかけ、
大わらわだったという。
次に僕が起きた夕どきには、お客さんは落ち着いているようだ。
僕は庭が見える場所で、
そとで楽しそうに遊ぶ僥儀《ぎょうぎ》さんを見ていた。
「ここにおられましたか三咲《みさき》さま」
「ああ、先生、こちらに来てもいいんですか?」
「ええ、一段落しまして......鳴那《めいな》が休んでこいって」
そう笑いながらいうと隣に正座し、深々と頭を下げた。
「本当に本当にありがとうございました」
「いえ、頭を上げてください」
そういうと頭を上げこちらをみた。
「これが目的だったのですね。
薬は使われないと買ってはもらえない。
だから、わざと毒を浴び私の薬を使った。
魔獣を倒すような者が使うものならばと、
噂になりましょう。それでこれほどの客がきたと」
「......ですが今は余計のことをしたと思っています。
先生の薬ならいずれ売れていたでしょう。
良かれと思ってやったことですが、
先生や僥儀《ぎょうぎ》さんや鳴那《めいな》さんを、
心配させただけのただの自己満足だったと」
「......そんなことはありません。
元はと言えば私の自信のなさが招いたこと......
失敗続きの人生でしたので、どこか卑屈になっていたのでしょう」
そういって陸依《りくい》先生は夕焼けの赤い空を見ている。
僕は一つ気になっていたことを聞いた。
「陸依《りくい》先生......
僥儀《ぎょうぎ》さんの障害はあなたの薬では、
治せないのですか?」
そう聞くと、驚いた顔をした。
「薬で......考えもしませんでした。
てすが、僥儀《ぎょうぎ》は生まれつきのもの、
生まれついたものは、如何な薬でも治せようもありません」
「そうでしたか......治すことができれば、
陸依《りくい》先生の不安は無くなるのかと思ったのですが」
「不安はないと言えば嘘になりましょう。
しかし......あの子はあれでよいのです」
「?」
「人が生まれてくるには意味があると思うのです」
「意味ですか?」
「ええ、少なくとも僥儀《ぎょうぎ》や鳴那《めいな》は、
私にいきる意味をくれた」
「どういうことですか?二人ともあなたが救ったのでしょう」
そういうと穏やかな笑みを浮かべた。
「三咲《みさき》さま......私はね、死のうとしてたんです」
「えっ!?」
「道士の教えを長きに受けたにもかかわらず、
身に付いたものはほとんどなく、薬の精製のみ、
その力を使った薬屋も潰してしまう......
宛のない旅をしたのも、死に場所を探してたのです」
「ですが、薬の知識も作り出す力もあるのに」
陸依《りくい》先生はこちらを悲しそうな笑顔でみた。
「しかし、それは私の思い描く理想ではなかったのです。
あれだけ長く苦しい思いをして、得たものがこれなのかと......
私はいきる意味を成果や評価だと思い違いをしていた......」
「............」
「しかし、そんな時、僥儀《ぎょうぎ》に出会った。
あのこはそんな哀れな私に笑いかけてくれました。
私のいきる意味を失った心に命の炎を灯してくれた。
いきる意味とは成果や評価ではない。
いきる意味を見つけることだと」
「あなたのいきる意味が二人を守ること......」
「ええ、それだけではありません。
やり方は間違っていましたが、人のために薬を作ること。
私が二人を救ったのではない。
そう教えられた私が救われたのです」
そういって陸依《りくい》さんはとても優しい目で、
僥儀《ぎょうぎ》さんが遊ぶのをずっと見ていた。
次の日。
「いやだ!みさきはいるんだ!」
「止めなさい僥儀《ぎょうぎ》。
三咲《みさき》さまは旅に出られるのよ」
僥儀《ぎょうぎ》さんがぐずるのを、
鳴那《めいな》さんがなだめている。
「すみません。僥儀《ぎょうぎ》が、
三咲《みさき》さまになついてしまって......」
陸依《りくい》先生がそういって頭をかく。
「大丈夫。僥儀《ぎょうぎ》さん。
僕は先生のおくすりをみんなに届けないと行けないんだ。
またくるから、待っててね」
そう手をとると、今にも泣き出しそうな顔をして黙る。
「はい......」
僥儀《ぎょうぎ》さんは懐から、
手のひらに乗るくらいの光る黒い玉を差し出した。
「これは泥だんご......」
(僕が教えた泥だんごだ......)
それは僕が遊ぶときに教えた泥だんごだった。
(いつも、肌見放さず、これをずっと転がしていたっけ......)
「ありがとう......」
僕はその宝物の泥だんごを受けとると、
僥儀《ぎょうぎ》さんは笑顔になった。
「では、本当にお世話になりました」
僕は頭を下げ二人に礼をいった。
「こちらこそ、三咲《みさき》さま......よき旅を」
そう言って陸依《りくい》先生と、
鳴那《めいな》さんは頭を下げる。
僕は手を振る僥儀《ぎょうぎ》さんをみながら歩きだした。
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