5 / 53
第五回 封宝具《ふうほうぐ》
しおりを挟む
公尚《こうしょう》さんの店にはいると、
奥から声が聞こえてくる。
公尚《こうしょう》さんと、宋清《そうせい》さんの声だ。
「......どうやら、あの町にも崔《さい》どのの手が、
回っているようだ。
あの町の両替商が融資の返却を一月後に迫ってきた」
「返済には五万貴《ごまんき》はいるわ。
......もう崔《さい》にお金を払うしかないわ」
「それは出来ない......
払えば誰一人逆らうことのなくなった彼は増長し、
商人たちへの更なる要求をしだすだろう」
(だろうな)
「それに、もういくつもの問屋がつぶれそうだ......
この国とてそう仕事に就けるわけではない
店がつぶれれば、困窮《こんきゅう》し、死ぬ者もでてこよう」
(そんな状態なのか......だから、公尚《こうしょう》さんは、
崔《さい》の要求をのめないのか......)
「じゃあ融資を受けられないのにどうするというの?」
「他の国に行く......」
「そんな!?」
「商いは成功している。他の国で身を立て、お金を稼げれば、
この国に戻って彼と対抗できるはずだ」
「そんなお金を稼ぐのに......一体どれぐらいかかるか......」
(それに公尚《こうしょう》さんがいない間に、
崔《さい》はさらに肥え太るだろうしな)
「だが、このままじゃ」
「お父さまのことね......」
「ああ、それもある......」
「あなたの父さんは役人に申し出たけど、
そのあと崔《さい》の妨害にあって......」
(そうか役人に申し出たのは、
公尚《こうしょう》さんのお父さんだったのか)
「......わかったわ。あなたがそこまでいうのなら、
私もついていきます」
「えっ?でもいつ帰ってこれるか、
それでも、構わないのかい」
「......ええ」
二人が手を握り、見つめあっている。
僕はさっきから近くにいたが、
二人は話に夢中で気づいてくれなかった。
僕がそっとその場を離れようとしたとき、
公尚《こうしょう》さんと目が合う。
「あっ!三咲《みさき》さま!」
「きゃ!」
二人は跳び跳ねるように離れる。
(し、しまった......逃げ損ねた)
公尚《こうしょう》さんも宋清《そうせい》さんも、
顔を真っ赤にしている。気まずい空気がながれた。
「あー、えーと、あの、お金を少し稼いできたんですけど、
この世界の貨幣価値が、よくわからないんですよね」
無理にでも何とか話をそらそうとした。
「えっ?お金ですか?稼いできた?」
僕にみられたことに、動揺していた公尚《こうしょう》さんに、
僕がもらった袋を机に置いて見せた。
それを開けて見て更に動揺している。
「こ、これは一体!?すごい金額ですよ!
十万貴《しゅうまんき》はある!!」
「本当!!こんなお金どうやって!」
宋清《そうせい》さんもさっきのことなど忘れて、
目を丸くして驚いている。
「それってすごいんですか?」
「ええ!この世界の通貨は、
下から旦《たん》寛《かん》貴《き》とあって、
旦《たん》が百で寛《かん》、寛《かん》が百で貴《き》
となります。
それぞれ、一、五十、百、五百、千の位の硬貨があるのです」
(つまり貴《き》の千硬貨が百枚ってことか)
「でどれくらいの価値ですか?」
「これだけあれば......大きな家が立てられるくらいです」
「そんなに!?」
(まさかあんな蛇がそんな高額だとは)
「それで仕事は何を......そうか!魔獣を倒されたのですね!」
宋清《そうせい》さんはそういった。
「はあ、まあ......」
「よく考えれば、こんな額を一日で稼げる仕事なんて、
魔獣討伐ぐらいしかないですものね」
「......確かに、ですが術も知らない、
三咲《みさき》さまが魔獣をどうやって?」
僕は気を使い倒したことを二人に話して聞かせた。
「まさか......昨日のあの気をつかったのですか」
「無茶な......下手をすれば死んでらっしゃいましたよ」
二人とも少しあきれたようにいう。
「今、僕に出きるのはこのぐらいですので、
それでこのお金で何とか崔《さい》と対抗できますか」
「とんでもない!!
このようなお金をいただくわけには参りません!」
キッパリと公尚《こうしょう》さんはいった。
(まあ、この人の生真面目、実直さならそういうよな......
でもなんとか受け取ってもらわなければ)
「......ただとはいってませんよ。前にここには珍しいものがあると、
おっしゃってましたよね。それを買いたいんです」
「えっ? 確かにいいましたが......」
困惑している公尚《こうしょう》さんを説得して、
僕たちは店の方に行く。
「これがうちの店で最も珍しい道具、封宝具《ふうほうぐ》
名前は水如杖《すいにょじょう》です」
そう言って公尚《こうしょう》さんは、
手のひらに収まる長さの棒を見せた。
(あれだ!!最初にみた棒)
「封宝具《ふうほうぐ》?
そういえば口入れ屋で、その言葉聞いたような......」
「封宝具《ふうほうぐ》とは、
気を使って様々な現象を起こす術具のことです。
仙人や道士《どうし》でなくても気を操れれば使えます」
僕は渡された棒をみる。何か気の力を感じた。
(何か確かに感じるな)
「なるほど、ん?道士?それも聞いたような......」
「道士とは仙人を目指している人間のことです。
修行によって気をかなり操ることができるそうです」
「じゃあ僕もそうなんじゃ」
「いえ、修行もせず気を操れるのは仙人ぐらいです」
「そうなんだ、じゃあ、これください」
「でも......」
「買い物ならただの客でしょう。なら気にせず受け取ってください」
「すみません......」
そう言うと公尚《こうしょう》さんは目に涙を浮かべて、
両手で袋を受け取ってくれた。
その後、倒した魔獣の話をしながら、三人で食事を楽しくとった。
奥から声が聞こえてくる。
公尚《こうしょう》さんと、宋清《そうせい》さんの声だ。
「......どうやら、あの町にも崔《さい》どのの手が、
回っているようだ。
あの町の両替商が融資の返却を一月後に迫ってきた」
「返済には五万貴《ごまんき》はいるわ。
......もう崔《さい》にお金を払うしかないわ」
「それは出来ない......
払えば誰一人逆らうことのなくなった彼は増長し、
商人たちへの更なる要求をしだすだろう」
(だろうな)
「それに、もういくつもの問屋がつぶれそうだ......
この国とてそう仕事に就けるわけではない
店がつぶれれば、困窮《こんきゅう》し、死ぬ者もでてこよう」
(そんな状態なのか......だから、公尚《こうしょう》さんは、
崔《さい》の要求をのめないのか......)
「じゃあ融資を受けられないのにどうするというの?」
「他の国に行く......」
「そんな!?」
「商いは成功している。他の国で身を立て、お金を稼げれば、
この国に戻って彼と対抗できるはずだ」
「そんなお金を稼ぐのに......一体どれぐらいかかるか......」
(それに公尚《こうしょう》さんがいない間に、
崔《さい》はさらに肥え太るだろうしな)
「だが、このままじゃ」
「お父さまのことね......」
「ああ、それもある......」
「あなたの父さんは役人に申し出たけど、
そのあと崔《さい》の妨害にあって......」
(そうか役人に申し出たのは、
公尚《こうしょう》さんのお父さんだったのか)
「......わかったわ。あなたがそこまでいうのなら、
私もついていきます」
「えっ?でもいつ帰ってこれるか、
それでも、構わないのかい」
「......ええ」
二人が手を握り、見つめあっている。
僕はさっきから近くにいたが、
二人は話に夢中で気づいてくれなかった。
僕がそっとその場を離れようとしたとき、
公尚《こうしょう》さんと目が合う。
「あっ!三咲《みさき》さま!」
「きゃ!」
二人は跳び跳ねるように離れる。
(し、しまった......逃げ損ねた)
公尚《こうしょう》さんも宋清《そうせい》さんも、
顔を真っ赤にしている。気まずい空気がながれた。
「あー、えーと、あの、お金を少し稼いできたんですけど、
この世界の貨幣価値が、よくわからないんですよね」
無理にでも何とか話をそらそうとした。
「えっ?お金ですか?稼いできた?」
僕にみられたことに、動揺していた公尚《こうしょう》さんに、
僕がもらった袋を机に置いて見せた。
それを開けて見て更に動揺している。
「こ、これは一体!?すごい金額ですよ!
十万貴《しゅうまんき》はある!!」
「本当!!こんなお金どうやって!」
宋清《そうせい》さんもさっきのことなど忘れて、
目を丸くして驚いている。
「それってすごいんですか?」
「ええ!この世界の通貨は、
下から旦《たん》寛《かん》貴《き》とあって、
旦《たん》が百で寛《かん》、寛《かん》が百で貴《き》
となります。
それぞれ、一、五十、百、五百、千の位の硬貨があるのです」
(つまり貴《き》の千硬貨が百枚ってことか)
「でどれくらいの価値ですか?」
「これだけあれば......大きな家が立てられるくらいです」
「そんなに!?」
(まさかあんな蛇がそんな高額だとは)
「それで仕事は何を......そうか!魔獣を倒されたのですね!」
宋清《そうせい》さんはそういった。
「はあ、まあ......」
「よく考えれば、こんな額を一日で稼げる仕事なんて、
魔獣討伐ぐらいしかないですものね」
「......確かに、ですが術も知らない、
三咲《みさき》さまが魔獣をどうやって?」
僕は気を使い倒したことを二人に話して聞かせた。
「まさか......昨日のあの気をつかったのですか」
「無茶な......下手をすれば死んでらっしゃいましたよ」
二人とも少しあきれたようにいう。
「今、僕に出きるのはこのぐらいですので、
それでこのお金で何とか崔《さい》と対抗できますか」
「とんでもない!!
このようなお金をいただくわけには参りません!」
キッパリと公尚《こうしょう》さんはいった。
(まあ、この人の生真面目、実直さならそういうよな......
でもなんとか受け取ってもらわなければ)
「......ただとはいってませんよ。前にここには珍しいものがあると、
おっしゃってましたよね。それを買いたいんです」
「えっ? 確かにいいましたが......」
困惑している公尚《こうしょう》さんを説得して、
僕たちは店の方に行く。
「これがうちの店で最も珍しい道具、封宝具《ふうほうぐ》
名前は水如杖《すいにょじょう》です」
そう言って公尚《こうしょう》さんは、
手のひらに収まる長さの棒を見せた。
(あれだ!!最初にみた棒)
「封宝具《ふうほうぐ》?
そういえば口入れ屋で、その言葉聞いたような......」
「封宝具《ふうほうぐ》とは、
気を使って様々な現象を起こす術具のことです。
仙人や道士《どうし》でなくても気を操れれば使えます」
僕は渡された棒をみる。何か気の力を感じた。
(何か確かに感じるな)
「なるほど、ん?道士?それも聞いたような......」
「道士とは仙人を目指している人間のことです。
修行によって気をかなり操ることができるそうです」
「じゃあ僕もそうなんじゃ」
「いえ、修行もせず気を操れるのは仙人ぐらいです」
「そうなんだ、じゃあ、これください」
「でも......」
「買い物ならただの客でしょう。なら気にせず受け取ってください」
「すみません......」
そう言うと公尚《こうしょう》さんは目に涙を浮かべて、
両手で袋を受け取ってくれた。
その後、倒した魔獣の話をしながら、三人で食事を楽しくとった。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道
コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。
主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。
こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。
そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。
修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。
それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。
不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。
記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。
メサメサメサ
メサ メサ
メサ メサ
メサ メサ
メサメサメサメサメサ
メ サ メ サ サ
メ サ メ サ サ サ
メ サ メ サ ササ
他サイトにも掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる