転生仙境記《てんせいせんきょうき》

曇天

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第一回 仙境《せんきょう》

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 空は雲一つない青空だ。
 だがそれを見上げていた僕の心は晴れない。

「ここは......どこだ?」

 そう僕、三池 三咲《みいけ みさき》は、
 気がついたら見知らぬ草原のような場所にいて混乱していた。

(確か......高校からの帰り、いつものように......あっ!)

 その時、あのときの光景が脳裏によみがえる。
 学校の帰り、あの信号をわたっている小学生に向かって、
 すごいスピードの車が......
 
「そうだ!僕はあの時、子供をかばって......」

(じゃあ、ここは天国なのか?)

「!!?」

 そんなことを考えながら、空を見上げていた僕は驚いた。
 見ていた空に、羽を広げた大きな爬虫類のような、
 透けた生物が飛んでいくのが見えた。

「り、龍!?」

「ほう、霊獣とは吉祥《きっしょう》ですね」

 後ろから声がしたので振り替えると、
 着物のような格好をした、僕より少し年上らしい若い男がいた。

「天使......いや、人間?」  

「ははっ、人間ですよ。あなたこそこんなところでなにを?」

 その男性ーー公尚《こうしょう》さんに、
 僕はいまの状況を語った。

 その話を静かに聞いていた公尚《こうしょう》さんは、
 突然、地面に膝と手をつきひれ伏した。
 
「えっ!?」

 驚く僕に公尚《こうしょう》さんは、こう続ける。

「あなた様は、昇天されたのでしょう」

「昇天......」

「はい。人間が徳を得て仙人となられることです」

「仙人......僕が......違うでしょう」

 僕はピンと来なかった。
 僕にとって仙人は老人のイメージだったからだ。

「いいえ、間違いございません。
 人を命を懸けて救ったあなたさまは昇天し、
 仙人となられて、こちらに......そう人間の世界から、
 仙人の世界、仙境《せんきょう》に来られた」

「えっ? 仙人の世界......
 でもさっき、公尚《こうしょう》さんは人間だって......」

「はい、私は人間です。
 遥か昔、秦《しん》という国にわが祖はいました。
 が戦にて村が焼かれ、行く宛のない幼き我が祖を哀れんで、
 ある仙人様がこの仙境に連れてこられたのです。
 そういう人間もこの世界には多くいるのです」

(秦《しん》昔の中国の国かな......それからここに)

「と、とりあえず、公尚《こうしょう》さん頭を上げてください。
 気になって仕方ない」

「そうですか、わかりました」

 そう言って頭を上げる。

「それで仙人ってなんなのですか?」

「そうですね......不老でさまざまな術を使うといいます。
 実は私も直接お話しするのは初めてなので、
 よくわからないのです」

「ここに仙人がいるんじゃないんですか?」

「まれにお見かけしますが......ほら、あれをご覧ください」

 公尚《こうしょう》さんは真上を指差した。

「なっ!? あれ岩!!」

 指差された空をみると真上に岩のようなものが浮かんでいる。

「あれは仙島《せんとう》仙人たちの住まう島です。
 あのような浮いた巨大な島が、この仙境にはたくさんあり、
 多くはそこに住まわれているそうです」

 遠くの空にも豆粒みたいなものが、複数確かに見える。

「この仙境は、人間の世界よりも大きく広いそうですよ」

 そう笑いながら公尚《こうしょう》さんは言った。

「仙人......仮にそうだとして、一体何をすればいいんだろう」

「さあ、修行ですかね......
 とりあえず、何もご用がなければ私の家にいらっしゃって下さい」

「そんな、ご迷惑ですし......」

「いえいえ、仙人さまを家に招いたというのは、
 とても光栄なこと、お気を遣わずいらしてください」

 そう言われて、行く宛もすることもない僕は、
 公尚《こうしょう》さんに付いていくことにした。
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