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第六十五話

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「ここは......」 

 光りに包まれ、目が覚めると、そこはみたことのある真っ白い花畑だった。 横をみるとアンナも倒れている。

「大丈夫か......」

「ええ、でもここどこ?」

「お帰りなさい......」

 そう聞こえ振り向くと、そこには俺を異世界へと送った女性がいた。

「何のようだ」  

「あなたは目的を果たしました。 元の世界へ戻るのです」

 そう女がいった。

「えっ? 元の世界に戻る」

 アンナは驚いてこちらをみた。

「前もいったが、帰るつもりはない......」

「体が向こうにあるのに」

「それなら、もう回収済みだ」

 少し驚いた顔をしたがすぐ平静な表情に戻った。

「なるほど、自分に取引《トレード》を......」

「ああ、お前が俺をここに魂だけ呼んだようだがな」

「......それほど帰りたくないのですね。 まああなたは自分で命を絶とうとしたのですものね」

 そうただ微笑んで俺をみた。

「............」

「いいでしょう。 こちらの世界にすむことを許しましょう」

「許す......」

「魔王の討伐の褒美です。 これで世界は正しき道へと戻るでしょう。 人々は争いあうこともなく、苦しみから永遠に解放されるのです」

 女は微笑み告げた。

「そうかよ......」

 俺はポケットからだした黒い魔力玉を女に投げつける。 
 
 女はその玉を左手でつかむ。 そして黒い火花を散らす黒い玉を透明な結晶にかえた。

「つ...... 痛いですね。 これはケイオスの力ですか。 なんのつもりです......」 

 そう女はついに微笑みをやめ、感情のない冷たい目を向けた。

「なにが永遠の解放だ。 永遠の支配の間違いだろう」   

「どういうこと? この人は神様じゃないの?」

 アンナは困惑している。

「違う。 こいつは神様なんかじゃない」

「なら、なんだというの」
 
 女はいった。 その目には嘲笑の感情が混じる。

「こいつはリステンブラ、最初の魔人だ」
 
「リステンブラ...... 魔王ケイオスに倒された魔人!?」

「ふふっ、そう、やはり知ってたの」

 そういうと帽子を脱いだ。 そこには三本の大きな角が生えている。

「魔人なの......」

 アンナは言葉を失う。

「いつから怪しんでたのかしらね」

「最初からだ」

「最初......」   

 リステンブラは眉をピクリと動かした。

「俺は自慢じゃないがクズだからな。 だからクズは感覚でわかる。 あったときから、お前はクズだってわかった」 

「......本当に自慢じゃないわね。 それだけじゃ私の正体に気づかないでしょう?」

「......お前は魔王を倒せといった。 が魔王はとっくに倒されていた。 おかしいと思ったぜ。 お前は復活した魔王を倒させようと思ったんだろう。 ベインツを使ってな」

「ベインツ...... あいつ操られてたの」

「ああ、神の啓示だとかいってたが、俺の幻覚の魔法も確信をもって幻だといった。 しかも神に神界晶を返すともな。 それは誰かに聞かなければわからんしな」

「ふふっ、そうね。 あのこはよく働いてくれたわ。 でも私のつくりたい世界にいらない。 汚いもの」

 そういって唇の端をあげる。

「よくいうぜ」

「私は正しい世界をつくりたいの。 あんな汚い人間たちじゃなくて、綺麗で賢く強く優しい、それらの人間がすむ白い世界を...... そのためには汚いものは掃除しなくちゃ、あってはならないの私の世界によごれたものなんて...... そう君もだけどね」

 リステンブラは手の中の透明な結晶を剣の形へとかえた。

「お前はその取引《トレード》を俺に与えて、余った魔力を自分に還流させていたんだろ。 魔王ケイオスもそれで復活させてわざわざ倒させたのか」

「ええ、私はケイオスに倒されて、かなりの魔力を失った。 だから世界と人間を変えるのは難しくなった。 だからここで魔力を取り戻そうとしたの。 本来は神界晶で回復させるつもりだったけどね」

「神界晶......」

「もともと神界晶は私が万が一の保険のためにつくったもの。 でもコスモシアに奪われ封印された。 どうやらあのこはもう一個作ったみたいね......」

 少し悲しげにリステンブラはそういう。

「初代女王コスモシアが...... そうか、アーシェイカの見つけた神殿にあったのは神界晶だったのね」

 アンナはうなづいている。

「お前が復活するのを見越してつくってたって訳か」

「でしょうね...... ケイオスといい、コスモシア、アーシェイカといい私が気に入った綺麗なものは私の考えに反発していく。 あなたにターナも人間に戻されたわ。 コスモシアにはあなたと同じように取引《トレード》までも与えたのに」

 そう笑いながらも苦々しそうにいった。

「やはり、ターナもか...... そりゃ誰しも支配はいやだろうからな。  この取引《トレード》もお前の作ったものか......」

「ええ、かつて私は莫大な魔力を変換し、元となる魔力さえあれば知りえるものに変容する力をつくりだした...... ケイオスが魔法を作り出したようにね」

「俺もか」

「ええ、あなたの魂をここに取引《トレード》するのは、かなり難しかったけどね」

「なぜ、わざわざ異世界から俺を呼んだんだ?」

「ただの実験よ。 他の世界の存在がわかったから...... 魔力が少なくて、ただ魂が分離しかけているものしかこちらには呼べなかっただけ......」

「それで死にかけてる俺が選ばれた...... そしてお前は魔力を取り戻したら、俺のもとにいた世界も、ここが終わったらお前の支配に落ちるわけだ」

「......ふふっ、あの世界も苦しみで満ちているでしょう。 でもまさか、あなたがここまでやってくれるなんてね。 魔力を使った分回復してくれるだけでよかったのに、でももう役目は終わり......」

 そういって笑っているが、冷たい目をして俺に剣を向ける。

 アンナをみると、怯えているようだ。 その首には運命の六角鍵がある。

「運命か...... コスモシアが俺を選んだのか...... アンナ、この神界晶をもって下がっててくれ」

「......わかった」

 アンナを後ろに下がらせる。

「二人できた方が戦えるのに? まあ私はキレイな世界の神となるからその子は見逃してあげるわ」

「......そうしてくれるとありがたいね」

 黒い魔力玉を両手に握る。

「ふふっ、それはケイオスから得た魔力ね。 それで私を倒せるかしらね」

「ああ、こいつはケイオスの魔力を分割してつくった吸魔玉《ドレインスフィア》、ケイオスはお前を倒した...... ならこの魔力で倒せるはず」

「そう、なら試してみれば......」

 一瞬で距離を詰められ剣を振るわれる。  

「くっ!!」

 黒玉で剣を防ぐ。

 バチバチと黒い閃光がおこり、体に痛みが走り魔力の拮抗をかんじる。

 剣をはじいて黒玉を投げつけた。 魔力がリステンブラを包む。

「やったか!!」

 黒い魔力はそのまま剣で切り裂かれた。

「ぐっ、無駄よ...... ケイオスに負けたのはあの剣のせいだからね。 魔力だけなら負けはしない!」

(ダメージは与えられる...... 剣...... 聖剣) 

 俺は黒玉で剣をふせいだ。

「その玉、無限じゃないわよね...... あと何個あるのかしら」

「ぐわっ!!」

 リステンブラの激しい攻撃で、体ごと弾き飛ばされる。

(あと四個、これで決着をつけないと......)

 俺は玉で剣をうけ隙をついて投げつける。

「ぐっ、さあ、あと何個かしら」

(浅い、やはり二個連続で当てないと!)

 前に俺はでた。 

「死ににきたの!!」

 首に剣が振るわれる。 

 ガキィ!!

「なに!!」
 
 首にくっつけて隠蔽していた黒玉が剣をふせいだ。

「ぐっ!! よし!! いまだ!!」

 二個を続けざまにリステンブラの体に投げつけた。

「きゃあああああ!!」

 リステンブラは花畑に転がった。
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