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第四十九話
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「やっとあったな......」
雪は降っているが、進めないほどではなかったので、近くの村をなんとか見つけた。
「それにしても、かなり寂れてはいるな。 まあここじゃ、資材もみつけづらいか......」
その村は木で作った粗末な家が立ち並び、作物もほとんどない畑があり、人の気配はするが家の中からはでてこない。
「まあ、話を聞きたいからな。 一番大きな家へいこう」
みたところ一番大きな家を訪ねたが、応対もない。
「反応無しか......」
「だが間違いなく人の気配はする。 居留守だな」
マルキアがそういう。
仕方ないので家々をまわる。 どこも応対はない。
そのうち一軒だけ反応があった。
「......はい、なんでしょうか」
覇気もなく目を合わさない、やつれた若い女性が戸をあけ答えた。
「ああ、すまない。 氷心塔というものを探している。 教えてくれないか」
「あれはとても人の行ける場所じゃないです...... とりあえずおはいりください」
女性は家に入れ、お茶をだしてくれた。 女性はリダッシュといい、妹と二人で暮らしていたという。
「すみません。 お客さまを歓迎したいのですが、なにぶん貧しい村なので」
そう恐縮していった。
「いいえ、十分です。 ありがとうございます。 それで氷心塔とはどこにあるんですか?」
アンナがそういうと、リダッシュの表情がいくぶんか和らいだ。
「......ずっと北、山の上の塔のことです。 私は入ったことも近づいたこともありせん」
リダッシュは言葉少なに答えてくれた。
「それより、いったいなんなんだこの村? 田舎だからよそ者を歓迎しないのはわかるとして、それならなぜ追い返さないんだ」
「......そうですね。 関わりたくないというのが本音でしょう。 元々私たちはよそからこの場所へ移り住んだ者、いくあてがないでで、誰かとトラブルを起こしたくないんです。 それに......」
「それに?」
「今、ここに他にも別の人たちがきていて、その関係者だと思っているのかもしれません」
「別の人...... 誰かがここにきている?」
「ええ、さっきいっていた氷心塔に、【魔人教】という宗教者の人たちがきていて信者を集めていて......」
「魔人教...... めちゃくちゃ怪しいな」
「ええ、魔人を復活させるとかなんとか...... そうすれば救われると、信者たちをここでも募ってました。 それを信じたものたちはいってしまって、私の妹も......」
そういうと、リダッシュは目を伏せる。
「なんで妹さんが......」
「もうこんな場所はいやだ、妹は、ルティはそういってでていってしまいました」
「止めなかったのか」
「止めても、私にはなにもしてあげられないから、あのこは何とかこの村を変えようとはしたけど、私はなにもできなかった。 私たちはなにもせず、ここでじっと暮らしていくしかないんです......」
リダッシュはそういうと口を結んだ。
「まあ氷心塔の場所はわかった。 行ってみよう」
「でも、魔人教なんて怪しげな団体がいるのに、大丈夫かしら」
「どうせカルトだろ。 邪魔なら蹴散らせてやればいい。 こっちにはマルキアがいるしな! なっ!」
俺がいうと、マルキアはだまったままリダッシュの家の方をみている。
「気になるの?」
「気持ちはわかるからな。 今私はターナになにもしてやれん」
マルキアは白い息をはいていった。
「お前はあのこのことに命を懸けてきただろ。 それは俺たちがしっている」
「そうよ」
「............」
マルキアは答えず、ただうなづくだけだった。
俺たちは山を越え塔を目指す。
天気が悪化してきたが、何とか山道を登り塔がみえた。
「とりあえず、寒いでしょう。 中におはいりください」
意外にもあっさりと塔へと入ることができた。 そこでは司祭のような男が集まっている聴衆に、魔人復活の意義を唱えていた。
「拍子抜けだな」
「そうね。 邪悪って感じでもないわ」
「そうだな。 ここにいるのも普通の人々という感じだ」
提供された温かいスープを食べる。
「お味はどうですか?」
そうシスターのような服の少女に言われた。
「ああ、うまいよ。 ここはいったいなにをしているんだ?」
「魔人復活を願って祈りを捧げるんです。 司祭長のマルリッチさまが祈りを捧げているように......」
少女は天井をみた。
「マルリッチ...... どこかで、あっ、それって冒険者の?」
俺がいうとアンナは首をふる。
「違うでしょう。 きっと同じ名前なだけよ」
「ああ、Sクラスの【聖人】マルリッチが、まさかな」
俺たちがそう話していると、ルティは不思議そうにこちらをみている。
「それで魔人は危険なものでしょ。 復活させるってどういうこと?」
「魔人は悪ではありません。 人間の方がよほどおかしいんです」
アンナに少女は吐き捨てるようにいう。
「だが、魔人は人間を支配しただろ」
「ええ、ですが、その間貧困も戦争も起こらなかったといいます。 いまの世の中とどちらがいいと思いますか? 自由なんてどこにもない...... 魔人の代わりに人間が支配してるだけでしょう」
そう目を閉じた。
「もしかして君はリダッシュの妹さんかな。 その顔すごくにている」
マルキアが少女にたずねると一瞬はっとした顔をした。
「姉さんをしってるんですか?」
「ああ、君のことを心配していた」
「心配...... そうですね。 あの人はいつもそう。 心配ばかり、心配しかしない......」
「帰らないのか」
「ええ、私はここで魔人の復活を願い続けます」
「復活しなければ? どうするの?」
「......少なくともあの村にあるよりはまし、あそこはなにもせず、ただ人の顔色をうかがう人たちしかいない。 未来もなにもない。 外にでていくことも新しく場所を開拓することもしない」
「そういえば、村を変えようとしたらしいな」
「でも、私には無理だったから...... どうせ祈るだけなら、天に祈るより元々いた魔人に祈る方がましです」
そういってルティは去っていった。
「ねえ、取引《トレード》でここの土地を開拓できないの?」
「これだけ魔力があれば可能だけど、ここに大勢の人をつれてくるのは難しいだろ。 ここの人たちが協力するか?」
「そうだな。 本人たちがやる気がないならなにをやっても無駄だ。 それをあのこも感じたんだろう」
マルキアは配膳をてつだっているルティを見ながらいった。
雪は降っているが、進めないほどではなかったので、近くの村をなんとか見つけた。
「それにしても、かなり寂れてはいるな。 まあここじゃ、資材もみつけづらいか......」
その村は木で作った粗末な家が立ち並び、作物もほとんどない畑があり、人の気配はするが家の中からはでてこない。
「まあ、話を聞きたいからな。 一番大きな家へいこう」
みたところ一番大きな家を訪ねたが、応対もない。
「反応無しか......」
「だが間違いなく人の気配はする。 居留守だな」
マルキアがそういう。
仕方ないので家々をまわる。 どこも応対はない。
そのうち一軒だけ反応があった。
「......はい、なんでしょうか」
覇気もなく目を合わさない、やつれた若い女性が戸をあけ答えた。
「ああ、すまない。 氷心塔というものを探している。 教えてくれないか」
「あれはとても人の行ける場所じゃないです...... とりあえずおはいりください」
女性は家に入れ、お茶をだしてくれた。 女性はリダッシュといい、妹と二人で暮らしていたという。
「すみません。 お客さまを歓迎したいのですが、なにぶん貧しい村なので」
そう恐縮していった。
「いいえ、十分です。 ありがとうございます。 それで氷心塔とはどこにあるんですか?」
アンナがそういうと、リダッシュの表情がいくぶんか和らいだ。
「......ずっと北、山の上の塔のことです。 私は入ったことも近づいたこともありせん」
リダッシュは言葉少なに答えてくれた。
「それより、いったいなんなんだこの村? 田舎だからよそ者を歓迎しないのはわかるとして、それならなぜ追い返さないんだ」
「......そうですね。 関わりたくないというのが本音でしょう。 元々私たちはよそからこの場所へ移り住んだ者、いくあてがないでで、誰かとトラブルを起こしたくないんです。 それに......」
「それに?」
「今、ここに他にも別の人たちがきていて、その関係者だと思っているのかもしれません」
「別の人...... 誰かがここにきている?」
「ええ、さっきいっていた氷心塔に、【魔人教】という宗教者の人たちがきていて信者を集めていて......」
「魔人教...... めちゃくちゃ怪しいな」
「ええ、魔人を復活させるとかなんとか...... そうすれば救われると、信者たちをここでも募ってました。 それを信じたものたちはいってしまって、私の妹も......」
そういうと、リダッシュは目を伏せる。
「なんで妹さんが......」
「もうこんな場所はいやだ、妹は、ルティはそういってでていってしまいました」
「止めなかったのか」
「止めても、私にはなにもしてあげられないから、あのこは何とかこの村を変えようとはしたけど、私はなにもできなかった。 私たちはなにもせず、ここでじっと暮らしていくしかないんです......」
リダッシュはそういうと口を結んだ。
「まあ氷心塔の場所はわかった。 行ってみよう」
「でも、魔人教なんて怪しげな団体がいるのに、大丈夫かしら」
「どうせカルトだろ。 邪魔なら蹴散らせてやればいい。 こっちにはマルキアがいるしな! なっ!」
俺がいうと、マルキアはだまったままリダッシュの家の方をみている。
「気になるの?」
「気持ちはわかるからな。 今私はターナになにもしてやれん」
マルキアは白い息をはいていった。
「お前はあのこのことに命を懸けてきただろ。 それは俺たちがしっている」
「そうよ」
「............」
マルキアは答えず、ただうなづくだけだった。
俺たちは山を越え塔を目指す。
天気が悪化してきたが、何とか山道を登り塔がみえた。
「とりあえず、寒いでしょう。 中におはいりください」
意外にもあっさりと塔へと入ることができた。 そこでは司祭のような男が集まっている聴衆に、魔人復活の意義を唱えていた。
「拍子抜けだな」
「そうね。 邪悪って感じでもないわ」
「そうだな。 ここにいるのも普通の人々という感じだ」
提供された温かいスープを食べる。
「お味はどうですか?」
そうシスターのような服の少女に言われた。
「ああ、うまいよ。 ここはいったいなにをしているんだ?」
「魔人復活を願って祈りを捧げるんです。 司祭長のマルリッチさまが祈りを捧げているように......」
少女は天井をみた。
「マルリッチ...... どこかで、あっ、それって冒険者の?」
俺がいうとアンナは首をふる。
「違うでしょう。 きっと同じ名前なだけよ」
「ああ、Sクラスの【聖人】マルリッチが、まさかな」
俺たちがそう話していると、ルティは不思議そうにこちらをみている。
「それで魔人は危険なものでしょ。 復活させるってどういうこと?」
「魔人は悪ではありません。 人間の方がよほどおかしいんです」
アンナに少女は吐き捨てるようにいう。
「だが、魔人は人間を支配しただろ」
「ええ、ですが、その間貧困も戦争も起こらなかったといいます。 いまの世の中とどちらがいいと思いますか? 自由なんてどこにもない...... 魔人の代わりに人間が支配してるだけでしょう」
そう目を閉じた。
「もしかして君はリダッシュの妹さんかな。 その顔すごくにている」
マルキアが少女にたずねると一瞬はっとした顔をした。
「姉さんをしってるんですか?」
「ああ、君のことを心配していた」
「心配...... そうですね。 あの人はいつもそう。 心配ばかり、心配しかしない......」
「帰らないのか」
「ええ、私はここで魔人の復活を願い続けます」
「復活しなければ? どうするの?」
「......少なくともあの村にあるよりはまし、あそこはなにもせず、ただ人の顔色をうかがう人たちしかいない。 未来もなにもない。 外にでていくことも新しく場所を開拓することもしない」
「そういえば、村を変えようとしたらしいな」
「でも、私には無理だったから...... どうせ祈るだけなら、天に祈るより元々いた魔人に祈る方がましです」
そういってルティは去っていった。
「ねえ、取引《トレード》でここの土地を開拓できないの?」
「これだけ魔力があれば可能だけど、ここに大勢の人をつれてくるのは難しいだろ。 ここの人たちが協力するか?」
「そうだな。 本人たちがやる気がないならなにをやっても無駄だ。 それをあのこも感じたんだろう」
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