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第四十五話

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「ここだな......」

 引き潮で繋がった小島にある石造りの遺跡を見つけた。近づくと地面から数体のゴーレムが現れたが、アンナが一閃した。

「警備か...... 中に聞こえたかな」

「いや、外を感知するようなものは前の遺跡でもなかった。 こんなところに誰もきやしない。 前野宿アイアンゴーレムも実験のひとつだろう。 このゴーレムも試作品のようだ。 多分大丈夫だろうな」

 バルフは思い出すかのようにそういった。 俺は一応隠蔽の魔法を皆にかけ、遺跡の中にはいる。

 中はやはり明るく、正方形の石を積んで作られた通路が奥へと延々と続く。

「部屋すらないのか......」

「なにか目的があって作られた施設のようだ」

 バルフはそういぶかしげに見ている。

「魔力を感知しづらいが、何人かの魔力を感じる。 しかもかなり巨大な魔力を感じる」

 長い通路を抜けると広い部屋へとでた。 そこではさまざまなパイプやチューブ、ケーブルのようなものが機械に繋がれていて、作業しているものたちがいた。 

「とりあえずぶっ壊しとこうか......」

「もし、爆発したら我々も死ぬかもしれませんよ」

「リリンのいうとおり何が起きるかわからない。 どうやら奥へと魔力を供給する装置のようだ......」

「みて......」

 アンナがそう声をおとしていった。 奥に巨大な三つの頭をもつ獣が鎮座している。 

「キメラだな......」

「キメラ?」

「複合生物だ。 いくつもの生物を組み合わせて異なるモンスターを作る。 禁忌とされた技術...... あれは」

 バルフの視線の先にキメラをみる長髪の男がいた。

「......あれがミルガイアだ」 

 バルフはそういった。

「どうする? キメラを動かそうとしてるのはわかるが、不用意に攻撃もできない。 弱点らしきものはないか」

 俺が聞くと、リリンとバルフが辺りを見回す。

「あれじゃない父さん!」

「多分そうだな...... あの青い液体の流れてる細いチューブがキメラに魔力を与えているようだ」

「つまり、あれを破壊すれば、いいってことだな」

「私が狙うわ」

 アンナの放った矢がその細いチューブをいぬき、青い液が溢れる。

「なんだ!?」

 作業しているローブをきたものたちがあわてふためく。

「なにをしている......」

「いきなりチューブがちぎれて......」

「あの魔力強度のチューブが......」

 ーー炎よ、荒ぶる炎よ、赤き赤きその高まりを、うち放てーー

「フレイムウェーブ!」

 ミルガイアが唱えると炎の波がこちらに迫る。

「くそっ!」

 俺たちは蒼氷球を投げつけ氷の壁を作り防いだ。

「何者だ......」

「ミル!」

「バルフ...... なぜここに」

「お前はなにをしようとしている! 錬金術を私欲で使ってはならないと師から言われていただろう!」

 そう叫ぶと、ミルガイアは静かに目を閉じる。

「......お前はあのときからなにも変わってはいないな」

「なに!」

「お取り込み中悪いが、あんたを止めさせてもらうぞ」

「なんだお前たちは......」

「錬金術は人のための技術、そうあなたの本にも書いてあったのに!」

 リリンはミルガイアに本を見せた。

「お前は...... そうかバルフの娘か。 錬金術は人のための技術...... 私もそう思っていた。 がそんなものはまやかしだった......」

(まやかし......)

「最後の警告だ...... バルフこの場より去れ」 

「できない。 錬金術の悪用は許されない!」

「ならば、その場で死ぬがいい」

「キメラは使えませんよ!」
 
 リリンがいうと、ミルガイアは不敵な笑みを浮かべる。

「なにかやばい! はなれよう!」

「魔力をえて魔獣よ! よみがえれ!」

 ミルガイアがそういうと、キメラから粘液のような触手を数本だして、近くにいたローブの男たちを捕らえた。

「な、なにを! これは!」

「ミルガイア同志!」

「世界を支配するため、この化け物をよみがえらせたのではないのですか!!」

 そう口々にミルガイアに問いかけた。

「世界の支配...... そんなものに興味はない」

 ミルガイアは感情なく淡々とそう答える。

「なんだと貴様!!」

「裏切り者め!!」

「ならば我らがキメラを使う!!」

 捕らえられた者や他のローブの者たちは一斉に魔法を浴びせる。

 しかし、魔法はキメラが出した粘液のようなものに阻まれた。

「なっ!! がっ......」

「があああああ!!」 

「ぐふっ!」

 ローブのものたちから粘液を通じてキメラに何かが流れているようだった。

「あれは、魔力を吸いとってるのか......」 

「多分町にでたスライムのような能力だろう。 そしてまずい......」

 バルフがそういうと、キメラの目がゆっくりあき、その巨体がたちあがった。

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