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第四十四話

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 俺たちは遺跡から離れて、グナトリアに戻る。

 町がざわついていた。 俺は慌てている住人を呼び止めた。
 
「どうした?」

「ああコウミさん! 今町でスライムが大発生していて......」

「スライム? ここになぜはいってこれた? でも弱いだろ」

「ええ、でもそのスライム魔力を取り込むみたいなんです。 その上すぐ増えるから駆除が大変なんです」

 そういってバタバタと住民は武器をもっていった。

「何が起こってる? これもアルケミスティアと関係あるのか?」

 執務室に急いだ。

「ああ、帰ってきた! 大変なんだ!」

 シモンズが慌ててそういった。

「スライムが増えてんだろ」

「そうです...... 弱いんですが、その増殖力がすごくて、魔力のある壁を食べてしまうんです」

 セーヌがそういうと、アンナが声をあげる。

「なっ! じゃあモンスターにおそわれるわ!」

「いえ、それが、モンスターも襲うんです」

「見境なしか......」

「だけど畑の作物なんかも襲われるから、駆除が大変なんです!」

 ミーシャたちも武器をもっている。

「どうするか? 魔法なら倒すのは可能だが、町への被害が......」

「私に考えがある」

 バルフがそういった。


「はぁ、はぁ、これでいいか」

「ああ大したものだ! これをスライムにぶつけてくれ」

 みんなにバルフがつくり、俺が取引で増やした玉をみんなに渡す。

「皆頼むぞ」

「おおーー」

 町のもの総出でスライムに玉をぶつける。

 一時間後にはスライムはすべて排除した。

「なんとかだな。 バルフの作ったこの小型の吸魔玉《ドレインスフィア》、スライムの魔力を吸いとって排除してくれて助かったよ」

「元々、リリンがかなり開発を進めていたからな。 小型化するだけだ。 とはいえ本来の性能にはほど遠いが......」

 リリンの頭を撫でながらバルフはそういった。

「それにしても、これは父さん......」

 リリンが不安そうにバルフをみあげる。

「ああ、間違いない。 錬金術で作ったモンスターだ。 魔力の紋様があった」

「ならアルケミスティアか......」

「そうだろうな。 モンスターをつくれるほどの錬金術師はほとんどいない。 おそらくこれは実験だと思う」

「ということは、本命はこれじゃないのか...... これは放置しておくわけにはいかないな。 バルフ、アルケミスティアのいる場所はわかるのか」

「ああ、俺を仲間に誘ってきたからな。 いくつかのアジトはしっている。 ただおそらくミルガイアがいるのはタジエルだと思う」

「なら、そこへいく」

 俺たちはすぐにタジエル共和国へと向かった。


「海だ!!」

「ほんといい風」

 リリンとアンナがそういって海岸をはしゃぐ。

「状況わかってんのかよ」

「まあ、まだ猶予はある。 何事も根を詰めすぎるのはよくないぞ。 抜けるときは気を抜いた方がいい」

 そうバルフはリリンたちを優しげに見つめている。

 俺たちはタジエル共和国へはいり、アジトのある海の遺跡へと向かっていた。

「一応、ギルドに連絡したら、各地でおなじことが起こっていた。 警戒してもらっているが、どんな方法をつかうかわからん以上、後手にまわる」

「ああ、おそらくやつらの狙いはモンスターか兵器辺りではないかと思うが、それでなにをするかまではわからんな」

「......ならやる前に止めるしかないな。 それでミルガイアについて教えてくれ」

「ふむ、奴と俺は同じ町出身で、モンスターによる襲撃で親をなくした孤児だった。 そして師であるアスファイドという錬金術師に拾われ育てられた」

 バルフは懐かしそうに語る。

「まさしく幼馴染みか......」

「ああそうだ。 最初、師と同じ志しをもっていたミルガイアは師が非業の死を遂げると性格が急変し、その力を悪用し始めたんだ」

「......まあ、よくあるこじれとも思えるが、非業の死ってなんだ?」

「師はある女性の命を助けたそれはミルガイアの恋人サミナだったが、町のものたちから、異端といわれついには師と恋人を殺されたという...... おれも伝え聞いた話だから本当かはわからん」

 そうバルフは複雑な顔をした。

「なるほど...... ありきたりといえばありきたりではあるな。 ただ
それで恨みをもつのは当然ではあるけどな」

「ふむ...... ただなにをしようとしているかはわからん。 人への復讐か、助けられなかった自分への怒りか、そんなところだろう」

 俺たちはそのまま海岸を進んだ。

 空が黒くなり、海が荒れだしていた。
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